第36話 第七騎士団長
「どの程度なのかまでは読めなかったが、やっぱりあの入学時の測定では手を抜いてたんだな」
「ウォーターブレードッ!」
薄い水の刃を飛ばしながら、ファノンは並行してウォーターを発現して物量で攻めていく。
カイルは魔法属性が不利でありながら、局所的に魔法を使ってファノンの魔法を相殺している。
だがそれだけではファノンの魔法は
そこでカイルが取った防御行動は、大剣の腹で叩き潰すという荒業。
魔法は現象であるため、魔法を発現している魔力を断てば必然的に消滅する。
身体強化の魔力を使い、剣で魔法を斬るなんていう芸当も魔法によってはできる。
だがカイルは大剣で斬るのではなく叩き潰していた。
大剣の身幅は普通の剣より広いため、数を潰すには理にかなっていると言える。
だがカイルはそれでも間に合わないときには蹴りなどでも消し去ってしまう。
このような対処は、常識外と言えるものだった。
「手を抜いてたんじゃなく、学院でこれだけ発現できるようになったのかもしれないだろ?」
「そりゃ――お前天才だろっ! 数ヶ月でここまでとか。そうなのか?」
「ちげぇーよっ。バブルウォーター」
魔法を撃つだけではなく、バブルウォーターのような設置タイプの魔法も使ってカイルの動きに制限をかけていく。
一見大量の魔法で押しているように見えなくもないが、実際はその逆。
すでにファノンは青の世界を使っている状態であり、発現スピードと威力はバフがかかっている状態である。
その上で魔法属性としては不利なカイルに対処されてしまっているというのが現状だった。
「普通測定であんなふざけたことしないから、俺はけっこうお前のこと興味あったんだぜ?」
ファノンの魔法に対する対処は最小に抑え、カイルは最短の距離で詰めようとしてくる。
それを妨害するようにファノンは魔法を展開する。
逆に言えば距離を詰めることができる道筋は、必ずそこを狙ってくるということ。
「っ――――キィワス・ギア」
「っ――貫通力が高い魔法も混ぜてくるかよ。よくこれだけ違う魔法を並行展開できるな」
「興味あるなら――見逃せよ」
(手数で押し切るのは難しいか――。とはいえ、向こうも読んでるだろうな)
カイルは一直線に向かってくる鞭のような水流を一瞬大剣で受けると、すぐに角度をつけて逸らした。
すでにファノンたちの周囲には、設置されたものや待機状態の水弾が無数にある状態。
状況を作り出しているのはファノンだが、実際には凌いでいると言った方が正しかった。
「そういうわけにはいかないだろ。それよりよぉ、第七騎士団に来いよ」
「…………」
「その実力があれば騎士団長だってそう遠くないうちになるだろう。それにわかってるんだろ?
手数で俺は押しきれないぞ。どこかで一発を狙うしかないが、それが届かなかったら勝ち目なんかないぜ?」
「いくらだ?」
「おお! お前なら俺のスカウトで三〇〇は用意できると思うぜ。その気になったか!?」
「悪いな。それじゃビーフシチューが食べれなくなるから無理だ」
「どんなビーフシチューだよ。――――っ! それじゃ無理だって言ったろ」
新たにファノンは水弾を発現。これではカイルに届かないことを知りながらファノンは続ける。
すでに周辺はあっちこっちが水浸しという状態であったが、カイルは動いた瞬間異変に気づく。
足元にあった水はカイルが対処したものではなく、新たに発現されていた粘着性を持ったもの。
それは一瞬ではあるが確かな
ファノンは後方へと飛ぶと左手を
「サテライト――」
すべてはここまでの布石。空に上った水弾が結合して巨大な水の膜が形成される。
その周りにも同じように大きさの違う膜が形成され、いくつもの膜を通して太陽光が収束。
昼間にしか使えないファノンの切り札とも言える魔法。
「オーバーレイ」
「
それとともに豪炎が舞い上がり、すべての膜を覆い尽くす。
ファノンのサテライト・オーバーレイは消し飛び、ファノンの視線の先にはさっきまでとは違う姿のカイルが無傷で立っている。
「あれがカイル団長のヴァルキュリア戦術……」
セリスはこぼすように口にし、エルザは息を呑む。
カイルの背後には六つの炎が円になって揺らめき、炎魔法のヴァルキュリア戦術が使われている。
魔法騎士の到達点であり、文字通り次元が変わる最強戦術。
「コキュートスでも使ってくるかと思っていたが、今のは危なかっただろうな。
正直これを使わされるとは思っていなかったぜ」
「…………」
「ヴァルキュリアは超速戦闘が可能になるが、コントロールが難し過ぎて手加減ができる代物じゃない。お前の魔法では俺を止めることはできない。降伏しろ」
「――――――」
「お前が水属性だけってのはわかってる。お前くらい魔力コントロールができれば使えたかもしれないが、水と土にはヴァルキュリア戦術はないからな。勝ち目なんかミリもないぞ」
さっきまで表情に余裕があったカイルが、今はそんなところがまったく見られない。
実力を測るだとかそんな次元ではなく、素人でも感じるほどの雰囲気をまとっている。
「見逃してくれるなら態度くらいは変えるが、護衛の俺がセリスを渡すわけがないだろ?」
「……そうか。俺はお前のこと気に入ってるから、死んでくれるなよ?」
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