第34話 交差する違和感

 魔族である特徴の紫の瞳がファノンたちを捉えている。

 背中には大剣を背負い、どちらかというと平均よりガッシリした体格。

 暑い季節になってきているからか、少し日焼けをしている肌がなんとなく実戦向きな性格を感じさせた。



「その制服、学院生だよな? お前らネビュラなのか?」



 思いがけないことを問いかけられ、ファノンとセリナはいぶかしむように目を細める。

 エルザは口を開こうとしていたが、油断なく視線を向けるカイルの前に言葉は出ていなかった。



「……一応言ってみたが、その反応はやっぱり違うな。お前ハーヴェスト家の護衛だろ?」


「――あぁ」


「護衛だからネビュラじゃないとは言い切れないが、これまでの動きからすればその線はないよな。

 ネビュラじゃないなら、お前たちの目的はなんなんだ?」


「護衛の目的なんか一つだけだろ?」



 ファノンは当たり前のことを口にしながら、頭では情報を整理して状況の確認をしていた。



(こっちと向こうで微妙に認識が噛み合ってないな。俺もだが、アイツも違和感を感じてるってことか?)

「お前たちこそネビュラなのか?」



 今度はカイルとジランの表情が動いたが、ファノンが口にしたことを後ろにいたセリスが否定した。



「どうしてそういうことになっているんですか? 私も違和感を感じてはいたのですが、騎士団は先日のこともあり保護をするために動いたと聞いていますが」


「ハーヴェストの娘が言っていることでわかっただろ? これでも一応第七騎士団長だぞ? なんでそんなとんでもな考えなんか浮かぶんだ?」


「騎士団はハーヴェストに対し、セリスは魔力暴走で死んだと言ってきたぞ」


「「――――!!」」


「え――どういうことですかっ!?」



 想定の外にあった答えなのだろう。カイルとジランもそうであったが、特にセリスは困惑した顔を向けて訊き返す。



「最初は死んだの一点張り。そして遺体を確認させろとベントのオッサンが掛け合っていたが、魔力暴走で遺体は消失したと言ってきた。

 だが裏ではセリスを移送などしている。ネビュラの可能性を疑っても不思議じゃないだろ?」


「「…………」」



 ファノンはカイルとジランの反応を見逃すことなく観察していたが、セリスと同じように事態が飲み込めていないようだ。

 そして少しの間沈黙が流れ、最初に口を開いたのはカイルだった。



「ちょっとレオールで俺の声増幅してくれ」


「了解しました」



 ジランが風魔法を使用すると、カイルの声が周囲に響き渡る。



「俺は第七騎士団長、カイル・ウォーカー。剣を収めろ! これは騎士団もだ!

 まだハッキリしていないことはあるが、少なくとも俺たちが剣を交える理由はない」



 カイルが言ったことで、扉の方では様子を見る方へ移行する。

 シンたちも事態が飲み込めないため、警戒しながらもファノンたちへ視線を向けていた。



「ここは俺に預けてくれないか? 手違いかなにかわからんが、おかしなことになってるのはそっちも気づいてるんだろ?」


「――――」


「これは騎士団が調べるべき案件だ。俺も巻き込まれているわけだし、俺の責任に於いて調査し、ハーヴェストの娘は必ず護ると約束する。ここは引いてくれないか?」


「――――」



 カイルの言葉で、セリスとエルザはホッとしたような表情を浮かべる。

 だがファノンはまだ口を閉ざし、セリナは鋭い視線をファノンに向けていた。



「なぜ黙っているのかな? キミたちにとって最上の結果が得られたはずだよね。

 ここまでの状況になりながら、カイル騎士団長との戦闘を回避することができるんだよ?」



 なにも言葉を発しないファノンに、セリスとエルザが不安げな視線を向ける。

 ここまで騎士団長に言わせることができたのは大きく、全滅の憂き目があった状況から脱したということでもあるのだから。



「調査をするのであれば勝手にしろ。だがセリスは連れ帰らせてもらう」


「……それをされると俺も立場上問題がある。これについて強く出れなくなるしな」



 カイルは困ったというような顔をし、セリスとエルザは困惑しているようだった。

 そしてファノンが口にしたことは、カイルの申し出を蹴る言葉だった。



「俺も人のことは言えないが、お前らはこの状況になるまで疑いもなく動かされていた。

 そんな騎士団であるお前らにセリスを預けられるわけないだろ?」


「ならどうするんだい? こっちも任務だから帰すわけにはいかない。そもそも返答以前に、キミたちに選択肢なん――!」


「「「「――――!」」」」



 剣を抜き放つ音がし、ジランが言い終わる前にセリナが口を開いた。



「私でも同じ返答をしているだろう。そもそも私たちの選択肢は最初からなにも変わってなどいない」


「わかっているのか!? それは私と騎士団長を相手にするということであり、騎士団を敵に回すことになるかもしれないんだぞ!?」



 ジランがまくし立てるように言うが、セリナの表情はまったく動かない。



「俺たちは最初からそんなことわかった上でここで来ている。いまさらそんなこと気にするとでも思ったのか?」


「しょうがねぇな。なら――――」



 カイルが背中にある大剣に手をかけ、一気に前へ持ってきて構えた。



「相手するしかねぇな」

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