第27話 歴史に存在する騎士団

 いつもとは少し違う朝ではあったが、それはファノンたちだけではなかった。

 討伐訓練後、最初の学院であったというのもあるが、ファノンたちの学年ではトップ三の三人が一緒に学院に現れたからだ。

 セリスとエルザに関しては貴族階級と聖女候補というところから微妙な間柄というかんじであったし、セリナに関してはセリスを嫌っているという認識をみんな持っていたためだ。

 そしてそこに一人混じっている異物。成績は下から数えた方が圧倒的に早いファノンが、そのメンバーに混じっているというのは違和感以外のなんでもなかった。



「ちょ、ちょっとファノンくん、い、いいかな?」


「なんだよ」



 面倒くさそうにファノンがジミーに言うが、ジミーは袖を引っ張って廊下へと連れ去る。

 そしてそれを確認した何人かの男子が廊下へと飛び出してきていた。



「なな、なんでファノンくん、がセリナさんと一緒にいるの!?」


「また早口になってるぞ?」


「い、いいから!」


(ホント面倒くさいな)

「アイツらに訊けよ」


「あんななかで訊けるわけがないだろう!?」



 一緒に出てきたパウロの視線の先には、女子に囲まれている三人がいた。



「討伐訓練で襲ってきたネビュラと戦闘になったと聞きましたが大丈夫だったんですか?」


「はい。見ての通り治癒魔法で完治していますし、大丈夫ですよ」



 セリスが答えているが、女子たちの勢いは止まらない。



「相当人数がいたようですが、それくらいで済むなんてさすがのお二人というところですね。

 聖女候補が二人そろっているなんて、相手も不運でしたね」


「そんなことないですよ。さすがに相手が多くて危なかったです。セリナさんとファノンさんが来てくれなければ、二人共々命はなかったかもしれません」


「あぁ、それで」



 ここでなんとなくセリナが一緒にいる繋がりが女子たちはわかったみたいだ。



「それにしてもあのような状況で、主人であるセリスさんに合流したファノンさんのことは見直しました」


「そうね。実力では大きな助けとは言えないかもしれませんが、注意を引くとか戦略面でできることもあるでしょうし。

 なにより命を懸けてまで護りに行ったところが護衛の鏡かと」



 若干おかしな方向ではあったが、それを含めて女子たちの間でファノンの評価は上がっている。



「くっ、私も二人の場所がわかれば駆けつけていたんだが」



 パウロが悔しそうに言うと、ジミーがファノンに詰め寄る。



「それでな、なんで三人が一緒に?!」


「アイツらが昨日泊まったんだよ。それでそのまま学院に来たってだけだ」


「とと、とと泊まった?! ファノンくんの、へ、部屋に泊まったの!?」



 ジミーは興奮気味だったせいで声が大きくなり、それが聴こえた女子たちの方でも騒がしくなる。



「ハーヴェスト邸に泊まったってことに決まってるだろ」


「そ、そそうだよね。でももしかして、セ、セリナさんのさ、寝巻き姿とか見たり、したんじゃないかな?」


(なんでコイツはセリナ限定なんだよ。やっぱりそういうことなんだろうな)


 ここでファノンはいつもの調子で口が開きそうになったが、直前で思い留まった。

 セリナに関しては夜中のことがあったが、これを口にすると面倒になると思ったからだ。

 朝食のときはセリスとエルザだけであり、さらに誤魔化してあの視線だったのだから。



「部屋が違うんだから見てるわけないだろ」


「そ、そうなんだ。残念、だったね」


「なぁ、ジミーって絵描いてるんだろ? どんなの描いてるんだ? 今度見せてくれよ」



 ファノンは話を替えるため、ふと思い出したことをなんとなく訊いてみた。

 その言葉が意外だったからか、ジミーは急に目を泳がせて恥ずかしそうに目を伏せる。



「ぼ、僕の絵はちょっと、芸術的だから」


「そっか。芸術とか俺にはよくわからないからなぁ。どういうところを気をつけたりするんだ?」


「た、たとえば少しだけみ、見えるような細部のこだわりとか、丸みとか質感の出し方とか」


「ジミー、なんかそれっぽい感じするな」



 先日の大規模な襲撃もあって騒がしかったが、その日の午前中は歴史の講義となっていた。

 魔法聖騎士学院は、基本的には実戦向きなカリキュラムが占める割合は多い。

 これはセイサクリッドだけではなく各国でも同じだが、魔物は常にいるためだ。

 そのため各国は絶えず戦える騎士を育て続けなければならない。

 だが他の科目よりも割合が少し多い講義がある。それが歴史であった。


 ガイアの歴史のなかでも、特に有名であり人気が高い時代というものはある。

 それが第二次聖戦。それまで神災と呼ばれた邪神リリスという存在に各国は苦しんでいた。

 第一次聖戦のときにリリスは倒されたのだが、その後復活していたからだ。

 だが今のガイアに邪神リリスは存在しない。

 第二次聖戦でリリスを消し去ることに成功している。

 この時代は今のヴァルキュリア戦術が発案された時代でもあり、実戦という面に深く関わっている時代。

 そしてその後の各国の状況などの流れを知るため、歴史の講義はそれなりの割合となっていた。

 そのなかで回数は少ないものの、歴史に名前が出てくる軍があった。



「残念ながら邪神リリスが消えたことで、魔族の問題や各国のいざこざというものが出てくるわけだ。

 ここでルーク騎士団という勢力が度々歴史の表舞台に出てくる」



 講師の言葉に興味を引かれる学生は少なくない。なかには好奇心が抑えられない学生もいるのは自然なことだろう。



「話に聞いたことはありますが、本当にルーク騎士団というのは存在するんですか?」


「歴史上では存在している、としか私には答えられないな。

 この数百年でルーク騎士団が表舞台に出てきているのはそれほど少ない。

 どこの騎士団なのかさえわかっていないからな。

 ただこれまで名前が出てきている傾向としては、侵略戦争など大きな動きがあるときに現れている。

 我が国セイサクリッドも侵略戦争ではなかったが、歴史上ルーク騎士団の介入で戦争を継続できないところまで打ちのめされたことがあった」


「それはルーク騎士団にも、我が国の騎士団長クラスがいるということですか?」


「時代時代で変わるが、他国にもヴァルキュリア戦術を使える騎士は度々現れている。

 そう考えればおかしいことではないだろう」


「対話ではなく武力行使による介入など、ネビュラのようなテロ行為と同じようなものじゃないですか?」



 ルーク騎士団は歴史的に見ても謎が多いため、どの学生も興味があるらしく次々に質問が飛ぶ。



「そうだな。実際に武力による介入を行っているのは確かだ。これは私個人の考えだが、ではこの介入がなかったとしたら?

 国同士の戦争によって、どちらかの国は制圧されて占領されていたかもしれない。

 ルーク騎士団の介入によって当事者である国は被害を受けてはいるが、少なくともそれによって国がなくなっているようなことは一度もない。

 これを象徴するような話だが、ルーク騎士団が表舞台に出てきたケースでは、領民がルーク騎士団を例外なく支持してきている」


「一般の領民と騎士団とでは気持ちの面で違うところがあるからというのもあるでしょう」


「確かにそれも事実ではある。個人の視点に立てば、貴族や騎士団のなかには領民とは違う思いもあるだろう。

 真っ先に被害を受けるのは騎士団だからな。だが領民に被害が出るような状況になると、比較できるようなものではなくなってしまう。

 歴史的な結果から見れば、その前段階の後が無い状況でルーク騎士団は表舞台に出てきている。

 キミたちがルーク騎士団を見ることがこの先あるかはわからないが、こういうことも知識として知っておいた方がいいということだ。

 そして少数精鋭で介入できるだけの力があるということも」

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