第24話 紳士なファノン

 野外討伐訓練があった翌日、ファノンは部屋でゆっくりとした時間を過ごしていた。

 昼食を取り終えたあとであり、このあとセリナとエルザがハーヴェスト邸に来訪予定となっている。

 なぜこのようなことになっているのか。





「助けに来ていただいてありがとうございました。でも、どうしてセリナさんまで?」



 ファノンが駆けつけるのは護衛という立場からおかしくはない。

 だがセリナがファノンと同じ班だったということがあったにせよ、危険を冒してまで助けに来る必要はなかった。

 普通であれば騎士団に任せているところだろう。



「まずはそのボロボロの身体を治癒してもらうといい」



 セリスとエルザの制服は破れている箇所があり、あっちこっちで血もにじんでいる。

 二人とも見た目だけではなく、身体もボロボロと言って差し支えなかった。

 それは二人も理解していて、苦笑いで返す。



「ではお礼だけでも」


「そうだな、今回の礼として食事でももてなしてもらおうか。できればビーフシチューを用意してもらえるとうれしい。そのときに話も聞こう」





 これがことの顛末てんまつだ。

 エルザも一緒に訪れるのは、エルザも二人に対しお礼をと申し出たためである。

 とはいえすでにお礼の内容はセリナがすでに決めていたため、エルザは食事のデザートを担当させてもらうことになっていた。


 ファノンが眠っていると、ドアをノックしてメイドがセリナとエルザの来訪を告げた。

 ファノンはそれを聞いて身体を起こすと、カーテンの端から外を確認。



「なんだありゃ」



 来訪者は執事に案内されて屋敷に向かってきているのだが、人数が一〇名くらいいる。

 パッと見ただけでも六名は護衛だということがわかった。

 わからないのは他の者だ。だがここでファノンは興味をなくしベッドに戻っていく。



「ま、俺には関係ないしな。今日はゆっくりさせてもらう。昨日は疲れたからな」



 だがそれは許されなかった。



「お前はまだ寝るつもりか?」


「……ああ」



 セリナを先頭に、セリスとエルザがその後ろで見守っている。

 セリスは当然見たことあるが、ファノンはセリナとエルザの私服を見るのは初めてで持っていた印象に少し情報が追加された。


 セリナは今日も長い黒髪を一つに束ねているのは変わらない。

 だが雰囲気が学院とは違っていた。少しだけ表情がやわらかい印象をファノンは受ける。


(服装のせいなのか?)


 学院の印象からは固めな服を着ていそうなイメージをファノンは持っていたが、実際には可憐かれんと言えるような女性らしい装い。

 薄めなピンクを基調にしたワンピースは、今まで持っていた印象とのコントラストから余計に目を引いていた。


 エルザはセリナと違い、薄茶の髪をがおろされている。

 いつも手が込んだまとめ方がされていて、なんとなくファノンは品格を思わせる赤いイメージをエルザに持っていた。

 だがエルザは水色のスカートに白いブラウスを合わせていて、印象としては爽やかで清楚なもの。


 セリスはもう何度もファノンは見ていたが、ふと気づいたことがあった。

 声は聴き比べなんてできないレベルで似ているのだが、セリスとセリナは服の趣味も似ているようだった。

 今日のセリスはパンツルックであったが、上は薄いピンクでフリルがポイント使いされている可愛らしさのあるものだった。



「週に四回訓練をしていると聞いた。そろそろ時間であろう?」


「昨日疲れたから今日はお休みです。お礼はセリスがするんだから俺はいなくてもいいだろ?」


「それは困ります! 私はあなたにもお礼をするために来ているのですから」



 エルザが強く主張してきて、さらにセリナが止めを刺した。



「私はお前からもてなされる側だと思うが?」


「…………」


「なにかあったんですか?」



 ファノンがセリナをもてなす理由に思い至らないセリスが訊ねる。

 エルザもせリスと同じように思いつかなかったからか、二人でセリナに視線を向けていた。



「昨日お前たちを助けただろう? そのとき私たちは、お前たちがどこにいるのか把握していなかった。

 あの状況では私の銀世界も、ヤツの青の世界も役に立たないからな。

 となると探すという選択肢しかないわけだが、いかに効率よく探すのかが鍵となる。

 そこで私とヤツで探すエリアを二分したのだ。

 これで探すエリアは半分となり、お前たちがいる場所によってはかかる時間は半分以下となる。

 わかったら諦めて起きるがいい」



 わかっていて黙っていたことであったが、セリナに助けられたというのはファノンも自覚していることであった。

 捜索範囲の分割はセリナから提案されたことであったが、セリスたちの場所によっては発見に二倍の時間がかかっていたリスクもあったのだ。



「紳士である以上、女性の相手をしないわけにはいかないな」



 ファノンの変わり身の速さにセリナは呆れたような目を向け、セリスとエルザは苦笑いになっていた。

 そしてファノンがセリスたちについていくと、向かっているのはいつも訓練をしている庭のようだ。



「本当に訓練するつもりなのか?」


「さっきファノンさんと訓練をしているという話になって、そこを見てみたいと言われまして」



 エルザは興味があるようでキョロキョロと視線を走らせていたが、セリナはそれとは少し違うように見える。

 そっと窓枠に触れ、窓からの景色を懐かしむような目をしていた。

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