第22話 生き残るための道

 セリスとエルザは正面に三匹のヘルハウンドがいるにも関わらず、スピードを落とすことなく突っ込んでいく。

 スピードを落としてしまえば襲撃者との距離が縮まってしまう。

 動いている限り正面に回られている襲撃者との戦闘は避けられないが、それでも全方位を相手にするよりは断然リスクが少ない。

 つまり動きを止めてしまうことは死を意味するのに等しいといえた。


「エアスラッシュ」「ウォーターブレード」


 二人はお互いの距離を少し空け、魔法で牽制けんせいして突破するべき道を開く。

 行使した魔法はどちらも斬撃系の魔法。衝撃系のインパクトやウォーターは、殺傷力という点において劣る。

 その分鋭さを出すための魔法構築はないので、発現スピードは衝撃系の方が早い。

 だがヘルハウンドの脇を突破したとしても追いかけられては戦況が悪くなるため、これで倒せるのであれば倒しておきたいところであった。


「っ――――」


 セリスが右のエルザの方へ膨らむように進路を変える。

 三匹のうち二匹が魔法で切り裂かれたが、残りの一匹がセリスに向かってきていた。


(――抜けきれない)


 すぐにセリスの動きに反応したヘルハウンドが飛びかかってくる。

 上から飛びかかってくるものとばかりセリスは思っていたが、低い体勢で脚を狙ってきていた。

 セリスはとっさに剣を払い、それを避けたところをエルザが頭部への刺突で絶命させる。


「ッ――――ンン」


 剣を払って一瞬動きが止まったところで魔法が撃ち込まれ、そのうちの一つがセリスの脚をかすめていく。

 さらに斬り込んできた襲撃者が上から剣を振り下ろす。


「――! アイスエッジ」


 横に払われたセリスの剣は間に合わないタイミングであったが、セリスは魔法で対応。

 鋭利な氷の氷柱が地面から襲撃者を串刺しにする。


「大丈夫ですか?」


「――――とにかく助けが来るまで時間を稼がないと」


「助けって……」


 今の二人は助けなど望める状況ではない。正確にはわからないことであったが、襲撃者の数は一〇〇を超えていてもおかしくはない。

 さらに騎士団は抑えられてしまっているため、二人が生き残るためには自力で逃げ切る他に道はない状況になっていた。

 だが二人が取っている進路は森の外側ではない。包囲は外への進路を塞ぐように人数が配置されていたのと、他の学生と同じ進路を取るわけにはいかなかったためだ。

 そして二人が自力で逃げ切るためには、森の外側へと向かう進路を取ることは必須。

 それは人数の多い場所を突破しなければいけないということでもあった。


「セリスさん! 魔力がまだ残っているうちに、一か八か突破しましょう! っ――!!」


 襲撃者の斬撃が肩を斬り裂くが、すかさずエルザは斬り捨てる。

 二人とも無傷とはいかず、すでに無数のケガを負っていた。


「相手が何人いるかもわかりませんから、それを突破できるかは未知数です」


「でも助けが来る状況まで持ちこたえるのも」


「大丈夫です。必ず来てくれます。信じてください」


 だが二人の移動速度は少しずつ落ちていく。命のやり取りが連続で訪れる状況。

 それは肉体的、精神的な負担となって重い疲労となる。

 疲労は視野、注意力、反応から身体の動きなどあらゆる力を少しずつ奪い去っていく。

 そして襲撃者たちの包囲は着実に狭められ、二人は移動すらできなくなっていた。


「サイルジス」


 土属性魔法の棘が、地面を走って二人へ伸びる。

 セリスは斬り込んできた者を剣戟で弾き飛ばし、エルザは魔法を撃った直後で反応できない。

 二人の表情は硬直したように固まり、向かってきているサイルジスを見てしまっていた。

 同時に水の障壁が二人の視界を遮る。


「「――――!!」」


「まだ生きてるな?」 


 いつものようにふざけた表情は影を潜め、ここまでなんとかたどり着いたのだろう。

 ファノンの頬を汗が伝い、緊迫した表情がそれを物語っていた。


「さすがに、もうダメかと思いました」


「もう少しだけ保たせろ。半分俺が片付けるまで、少しの間時間を稼げ。

 サポートはしてやるから、二人で保たせろ」


「この状況でなにを――」


 この場にファノンが現れたのを驚いているのと同時に、口早に指示してくるファノンを見てエルザが割り込む。

 だがそれにかまう時間的余裕がないファノンは、それを無視して言葉を続ける。


「これだけいると感知も役に立たない。お前たちは離れ過ぎないようにしてくれ。二人の距離間が判別の情報になる」


「ちょっと! 私たちより弱いアナタが――」


 エルザがまくし立てるように口を開くが、ファノンはそれに耳を貸すことはなかった。

 一瞬目を閉じて、魔法を展開。そしてエルザは、すぐに言葉を詰まらせることになる。


「――――青の世界」


 ファノンを中心に領域が広がる。すでに撃たれていた魔法が三人に迫るが、それが届くことはない。

 水の障壁が阻んだことで消え去ってしまう。同時にファノンは剣を抜き、包囲網の半分に向かう。


「サテライト・ギア」


 ファノンが展開した魔法を目にし、エルザもそうだが、セリスも困惑した。

 至るところに球体が発現したのだが、それが一〇〇近くあったからだ。

 それらから高圧縮された水流が広範囲に荒れ狂う。

 中級魔法のキィワスギアと似ているがこんな広範囲な魔法ではなく、明らかにファノンのオリジナルであった。

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