第21話 聖女候補たちの抵抗
「セリスさん! なにをしているんですか?!」
班の仲間であった聖騎士と魔導士を、突然インパクトで弾き飛ばしたセリスにエルザが非難する。
二人とも平静とは到底言えない表情。だがセリスはエルザよりかは冷静であった。
「私たちは包囲されています。すぐに動いてこれを突破します!」
セリスはエルザの腕を掴むと、すぐに森を駆け出した。
「移動したぞっ! 逃がすな!」
今セリスとエルザは生死の分かれ目に立っていた。襲撃されたということは、その時点で相手の状況は整っていることを意味する。
騎士団を抑えに行った動きからもこれは明白であった。すぐに相手が抑える動きになったのは想定された行動ということでもあり、これはすぐに騎士団が助けに来る可能性は低いということ。
そこまで状況が整っているのであれば、すでにセリスたちは包囲されているはず。
逃げ切るにしろ、救援が来る時間を稼ぐにしろ、今のセリスたちは動いて攻撃だけに集中させないようにする必要があった。
そうでなければ、すでに包囲されている状況ではすぐに詰んでしまうのだから。
「ワールキャステルっ!」
セリスは通常よりも魔力を用いて、巨大な氷壁をギリギリまで離した右側面へと展開。
木々の高さなどより圧倒的に高い氷壁は襲撃者の障害となるだけではなく、セリスたちの位置を視界から消し去る。
「くっ――バブルウォーター」
襲撃者の魔法が近くの木に着弾したことで弾け、砕かれた木片が散らばる。
エルザも魔法が撃たれた方向に腕を伸ばすと、宙にふわふわと浮いたシャボン玉のような水弾が発現した。
突然発現したバブルウォーターに襲撃者の魔法が着弾。
するとバブルウォーターが激しく弾け、何人かの襲撃者を弾き飛ばした。
「ガードと後衛を飛ばしたのは、巻き添えにしたくなかったってことですか?」
「――はい。エルザさんは聖女候補でしたので」
エルザはさっきセリスが仲間をインパクトで撃った理由を理解したようだ。
今二人が追われていることを考えても、聖女候補がターゲットになっているのは間違いない。
セリスは自分が狙われていることはすぐに理解したが、問題はエルザだった。
エルザはターゲットになっていない可能性は捨てきれなかったが、それでも彼女は聖女候補である。
もしエルザもターゲットになっていた場合、お互い一人で戦わなければならなくなる。
そのためセリスは、エルザだけは行動を共にする選択をしていた。
(どうするのが正解? さっきも氷壁でそこそこ魔力は使ってる。できるだけ逃げ続けて魔力は温存するべき?
今はまだ魔法の
「――――ジャベリン」
射線上に入ってしまった土魔法の
「レオールで上に上がりますか? 上も戦闘になっているようですが、騎士団もいますから今よりマシかもしれません」
「それはダメです。真上に敵がいたらそこで終わりますし、騎士団と合流できたとしても他の学生に被害が出てしまいます」
エルザが提案した上に上がることはセリスもすぐに考えたことであった。
だがセリスたちが上空で騎士団と合流した場合、間違いなくセリスたちは空から森の範囲外へと下がることになるだろう。
そうなると問題なのは地上の襲撃者だ。セリスたちを追うにしろ追わないにしろ、他の学生を手に掛ける可能性は大いにある。
今そうなっていないのは、ターゲットであるセリスたちがいるからだった。
「アイスミラージュ」
セリスが魔法を展開すると、一〇〇以上の透き通った氷柱が現れた。
それらは襲撃者たちの視界を歪め、セリスたちの捕捉を難しくさせる。
「こんなに展開するなんて、魔力は持つんですか?」
「――まだ大丈夫です」
「面倒かけるな――よっ!」
側面から振り下ろされる剣。それに対し、セリスは魔力全開の身体強化で剣を払って合わせる。
それは聖女候補が宿した強大な魔力を全面に押し出して叩く力技。
「っ――――ぅげ」
「…………」
剣を合わされた瞬間襲撃者は弾き飛ばされ、射線上にあった木に衝突して動かなくなる。
それは倒したとも言えるし、命を奪ったとも言えることだった。
「セリスさん! 向こうも覚悟の上のはず。止まったら私たちが殺られますよ」
エルザに腕を引っ張られ、セリスもすぐに動いた。
セリスたちは動きながら魔法で
それでもそれらを抜けて来る者は出てくる。
「たった二人の女子に、何人で襲ってきてるんですか!?」
エルザもセリスと同じように、全開の身体強化で斬り込んでくる襲撃者を迎え撃つ。
そしてこれだけ森を駆けることになれば当然の現象。
「ヘルハウンド!」
魔物が出やすい森であれば、当然魔物と遭遇もする。
赤い目に黒い身体をした犬の魔物はDランクに設定されている。
一メートル以上の大きさもそうだが、それよりも俊敏さの方が厄介な魔物であった。
「本当の意味で討伐訓練になってしまいましたね、セリスさん」
「向こうに押し付けることができれば――」
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