第20話 想定外の動き

 ファノンの班も首席であるセリナの他に、聖騎士と魔導士という構成。

 魔法騎士科であるファノンは、当然のように陣形ではアタッカーの位置に入ることになった。



「後衛で見てようと思ってたのに――」


「なにをブツブツと言っている。魔導士科の者がいるのだから、私たちが前衛になるのは当たり前であろう」


「そうだな。当たり前だな。あぁ~、もう帰りたい」



 やる気の欠片もないファノンは、陣形が決まってからずっとこのテンションである。

 おかげでファノンの班に緊張感というものはまったくない。

 完全にファノンのやる気のなさが伝染してしまっていた。



「戦闘は避けるのだから、なにも変わりはせぬ」


「……なるほど。そう考えれば面倒とも感じないな」


「――――お前は魔導士なのか?」



 前衛で並んで歩いているセリナが探るような目を向けて訊いてきた。

 今までにも何度かあったことであり、ファノンは特に気にした様子もなく答える。



「どうだろうな」


「……ではなぜ後衛にこだわる?」


「たまに魔法撃って見てる方が楽そうだろ?」



 ファノンの答えには、魔導士科の学生への配慮など少しもない言葉だった。



「私はお前の言葉を信じていない。班分けの模擬戦のときも、逃げ回っているように見せていたようだが、実際にはすべて対処していたからな」


「ところで気づいてるか?」


「なにをだ?」


「ジミー、あんたのことよく見てるよな? 俺の予想だと、ジミーはアンタのこと好きなんじゃないかと思ってな」


「――――そうかもしれぬな」


「気づいてたのか? 他の人間に興味なんかなくて、気づいてないのかと思っていたけどな」


「私が興味あるのはお前だ」


「もしかしてナンパか?」


「――好きに受け取るがいい」


「意外に面食いだな~」


「それで? なにか教えてくれる気になったか?」


「深い仲になるのはデートを三回してからだ」


「――相変わらずふざけたヤツだ」





 この野外討伐訓練は、学生たちは五箇所にわかれて足を踏み入れている。

 班での訓練であるため、同じ開始地点でも森に入れば見えないくらいの距離間だ。

 それぞれ森の中央まで二時間弱という距離で、学生たちは中央に刻印が施された岩を目印に折り返し、夕方には開始地点に戻るタイムスケジュールとなっている。

 時間的に余裕はあり、セリスたちも問題なく折り返して残り一時間ちょっとで帰還というところ。



「――――!!」


 突然セリスが氷壁を展開する。


「「「――――!!」」」


 セリスの行動に意表を突かれたエルザたちだが、氷壁に魔法が衝突する衝撃音ですぐに武器を手に取る。

 三人はセリスよりも緊張はしているが、セリスの見る限り動けないということはないと感じていた。


「そっちへ」


 セリスが指示して、四人は連携が取れる陣形のまま少し位置ズラした。


「位置がわかりませんね。魔法が使えるとなると」


 エルザが考えをお互いに確認するかのように口にする。それに対し、セリスも同じ考えだと表明するように意見を述べた。


「そうですね。魔法が使われたということは、最低でもDランクは……落ち着いてやり過ごしたいところですね」


 魔物にどう対処するのかを口にするが、そんなセリスたちの想定はまったくの見当違いであったということを知る。

 距離を詰めてきたのは魔物ではなかった。


「っ――――ウォーター!」


 とにかく牽制けんせいするために、大きめの水弾で妨害ぼうがいをセリスは行う。

 同時にセリスは魔石を取り、迷うことなく上空へと投げて救援を求めた。

 セリスの胸はドクンドクンと鳴っていて、以前襲撃されたときの恐怖が広がっている。

 それでもすぐに動けたのは、ファノンがこうなったときのことを言っていたからだった。




「もし襲撃されたら、迷わず真っ先に魔石を使え」


「野外討伐訓練には騎士団もいるんですよ? 確かにファノンさんがそばにはいませんが、わざわざ騎士団がいるタイミングなんてないのでは?」


「可能性としては薄いだろうが、それでもゼロじゃない。町中より格段に襲いやすいしな。魔石が使われれば騎士団がすぐ駆けつける。

 そうなれば俺も安心だ。雇い主は無事だし、俺の代わりに騎士団が働いてくれるからな」




 すぐに上空で待機している騎士団が降りてくる。近場の班であれば、一分もしないで現れるはずだ。

 それまでセリスは魔法で牽制しながら、距離を保つようにして時間を稼げばいい。


「魔石を使われたか。抑えろ」


「え?!」


 ローブを身に着けた襲撃者たちがあっちこっちで上空に上がっていく。その光景はセリスにとって、信じられないというくらい大きな衝撃だった。

 襲撃者たちは最初から騎士団まで相手にすることを想定した上で襲撃してきているということだからだ。

 上空に上がった襲撃者は、配置されている騎士団の人数よりかなり多いように見える。

 これだけ人数をそろえて動いているということは、当然セリスに向かってくる数もそろっていると考えるのが妥当だった。


「ごめんなさい。インパクト!」


 襲撃者が上空へと上がっていく光景を見たセリスが、仲間に向かって魔法を放つ。

 仲間に間近でそんなことをされれば、なにもできはしない。

 インパクトを受けた学生は、その衝撃で弾き飛ばされていた。

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