第16話 力説地味ー

 魔女の襲撃があった翌日には、新聞でこのことが大きく取り上げられることになる。

 噂になっていた魔女ということもあるが、今度は騎士団の団長が二人がかりで捕らえることができなかったということが大きい。

 そんな魔女がテロ行為をしているとなれば、領民に不安が広がるのも自然であった。



「新聞でも注目されていましたが、朝から学院でも昨日のことでいっぱいですね」


「騎士団長がヴァルキュリア戦術を使っていた上でのことだからな」



 ファノンたちの魔法騎士科でもそれは同じで、魔女のことが話題となり騒がしくなっている。

 そんななか一人、ジミーは少し他とは違う視点を持っていた。



「僕は昨日実際に戦闘を見たけど、魔女は最強クラスの力を持っていると思うよ。

 レイア騎士団長が灰燼かいじんの抜刀術を使ったけど、実際に目の当たりにするととんでもなかった。

 ただでさえとんでもな技である灰燼かいじんの威力が斬撃に収束されているんだから当たり前だよね。

 それを防ぎ切る魔女の盾は最強の防御と言っても過言じゃないよ」



 少し興奮気味にしているジミーは早口に力説している。

 どうやら魔女という存在が、どこかのこと線に触れるところがあったようだ。



「セ、セセ、セリナさん、はどう思う?」



 そしてなにを思ったのか、ジミーはセリナに問いかけに行った。

 そんなジミーに優しい眼差しをセリナが向ける、わけはない。

 いつも通りセリナの表情には感情が現れるようなことはなかった。



「なにを訊いてきているのかわからぬが、なにも変わっていないというだけ。

 結果的に魔女と騎士団長二人が戦闘を行ったというだけなのだから」



 首席であるセリナの言葉が気になったのか、他の学生たちも注目していた。

 ジミーに答えたセリナは席を立つと、珍しくセリスの方へ向かい話しかける。



「お前は話題になっている魔女についてどう捉えている?」


「え?」



 セリナがこのようなことを問いかけてきたのが意外だったのだろう。

 セリスは困惑した表情を浮かべる。

 一度ファノンへと視線を移したセリナだったが、再びセリスに視線を戻すと黙って答えを待っていた。



「魔女は以前も同じような行動を起こして被害を出しています。それに対する対応はなされて然るべきです」


「魔女はなぜあのようなことをしたのであろうな? なにもなければ魔女もあのようなことはしないのではないか?

 以前からセイサクリッドの魔法研究は他国から非難されている。ガイアへの影響がわからぬからと。

 その研究の結果の一つがお前たち聖女だ」


「アンタは魔女に理があると言っているのか?」



 ファノンが口を挟むと、セリナは少しだけ表情を崩した。



「そんなわけないだろう。仮に思惑があったとしても、魔女のやっていることはテロに他ならないのだから。

 少し見方を変えれば、別のものも見えるというだけのこと。

 お前は聖女として人々を守りたいのだろう? なにに対して力を使うのか、最後はお前自身だ。

 後悔したくなければ、よくよく見極めることだ」





 セリスは朝セリナに言われたことをずっと考えている。

 セリナが言っていたことは至極当然のことであるところもあったが、聖女だから当てはまる部分もあったからだ。


(魔女は他国による工作員という可能性も?)


 薄い線であるのは他国からの依頼。これであれば金銭のやり取りも発生して一番しっくりとくる。

 だがガイアの魔力を利用する研究は数百年続いているというのもあり、このタイミングで他国がそのような強硬手段に出るというのもに落ちない。

 そうなると残りはなんらかの組織によるものか、魔女単独での行為ということになる。


(魔女単独での犯行ということ?)


 ここでも組織という可能性は低いようにセリスは思った。それは魔女が破壊活動をしていたからだ。

 魔法協会や研究所を襲う理由を考えると、その目的はなにかしらの技術以外に考えられなかったからだ。

 だが魔女は破壊してしまっているため、そうなると技術や情報などを得ることはできない。

 ということは、魔女のテロ行為にはそれ以外の目的があると考えるのが一番しっくりとくるものであった。


(魔女にとってなにかしら研究を止めなければならない理由がある?)


 ここまで考えが及ぶと、セリスの見方も少し変わっていた。

 被害を出している魔女が許されないのは変わらないが、魔法協会側には魔女に狙われるなにかがあるように思えてくる。

 そうでなければ単独で騎士団を敵に回すようなことまで魔女がする理由がないように思えたからだ。

 そんなことをずっと考えながら、セリスは学院の中庭を歩いていた。



「あの、どこまで行くのでしょうか?」


「落ち着いて話したいからね」



 セリスの少し前を歩いているのは、公爵家のピエール・カルダン。

 カルダン家は公爵のなかでも王家に連なる家柄であり、その影響力は多大なものがある。

 ピエールはセリスより三つ上であり、魔導士科に在籍。

 金色の髪は長めで、少しウェーブしているのが女子学生のなかでは色気があっていいと評判になっている。

 物腰もやわらかく、威圧的な態度も取ることがない。

 その立ち居振る舞いから人気がある人物であった。


 そんなピエールとセリスが一緒にいるのは、ファノンがパウロに放課後呼び出されていたからだ。

 少し時間がほしいということで、放課後に時間を持て余していたセリスにピエールが会いに来た。

 話がしたいということで場所を変えることになったのだが、思ったよりもクラスから離れているのでセリスは少し気持ちが落ち着かなかった。

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