第15話 未知の魔女

「あれはきっと噂になっている魔女、ですよね?」


「たぶんそうだろうな」


 ファノンとセリスは臨戦態勢を取りながらも、その場を離れるようなことはしない。

 目の前で繰り広げられているのは聖都の頂点である者たちの戦闘だ。

 しかも魔女は遅れを取るようなこともなく対等に渡り合っている。

 このようなハイレベルな戦闘を見る機会などほぼないため、騎士であれば目が離せなくなるのは仕方のないことであった。


(魔女はネビュラなのか? あれを相手にすることになったら――――)


 明らかにレイアとライオットは防衛側であるため、そうなると魔女がテロ行為をしているのは明白だ。

 前回も襲撃し、こっちも団長のカイルと一戦交えているからだ。


(魔女のターゲットは研究施設なのか?)


 レイアの背後には、様々な魔力に関する研究が行われている魔法協会があった。

 しかしこれほどだいそれたことは現状ネビュラくらいしかできないこともあって、魔女がネビュラに属している可能性は高い。

 そうなると魔女がセリスを襲撃してくる可能性もあり得るため、ファノンは魔女の実力をこの戦闘で測っていた。

 それゆえに至る見解。


(守りきれる保証はないな)


 この戦闘において、実力が測れないなんてことはない。魔女が相手にしているのはヴァルキュリア戦術を使っている二人の団長なのだ。

 しかもライオットは銀世界を展開している。銀世界はファノンが使う青の世界の氷属性。

 使い方という点で感知などにも使えるが、この魔法の本質は別のところにある。

 銀世界と青の世界の本質は、圧倒的な魔法発現スピードと威力。

 周囲を自分の魔力領域とすることで、大幅に魔法のプロセスは短縮される。

 それは術者が考えるだけで領域が感知し、魔法が領域によって発動してしまうレベル。


 ライオットは一瞬一瞬で効果的にサポートに回ることで、魔女の隙を作り出そうとしている。

 このレベルの戦闘では、隙と言えないようなわずかな一瞬でも状況は傾く。

 だが魔女は二人の団長を相手にしても拮抗している。

 低く見積もったとしても、魔女の実力はレイアやライオットの団長レベルであるということを意味していた。


「ファノンさん。少しずつ三人が下りてきていませんか?」


「ああ。魔女も下のポジションを取ろうとしているみたいだが、あの魔族がそれをさせていない」


 レイアが正面を受け持ち、ライオットが魔女の動きを妨害するように位置取りをしながらサポートに回っている。

 位置関係を変えることができない魔女は、レイアと対峙たいじしながらも魔法でライオットへ牽制けんせいして渡り合っていた。




「ワールキャステル」


 ライオットが氷壁を発現するのと、レイアが太刀をさやに収めたのは同時だった。

 レイアは腰を落とし、身体をひねるように構えて刀の柄を握る。

 視線は魔女から一瞬も外れることはなく、鋭さは増していく。

 魔女は周囲に氷壁を展開されたことに意識を持っていかれてしまい、レイアの動きに一瞬遅れる。


灰燼かいじん――抜刀!」


 その一瞬の遅れはライオットが発現した氷壁もあり、剣術のなかでも最速の部類になる抜刀術から回避という選択肢を消し去ってしまう。


「「「――――」」」


 魔女が一瞬町に視線を向けたことで、ファノンたちと視線が交差した。


「エヴァラック――」


 飛んでくる灰燼かいじんの斬撃に左手を魔女が向けると、魔法属性すら判別できない盾が発現した。

 ハッキリと視認できる業火の斬撃が魔女の盾とぶつかる。

 抜刀術とは一撃必殺の部類に入る。なにしろ抜刀術はさやから刀を抜き放ったときが最大の力を発揮できる剣術。

 ゆえに必殺の一撃であり、大事なのは使うタイミングとなる。

 魔女の未知の防御魔法の発現というのはあるが、今の状況はレイアとライオットが作り出した状況だ。

 回避という選択肢をなくしてしまえば、魔女が受け切ることができるか。

 そしてこの一撃は、ヴァルキュリア戦術を使っている団長が放った一撃必殺。

 その威力は考えうる最大火力と言っても過言ではない。

 だがレイアとライオットの表情は固まっていた。




「……あの灰燼かいじんを受け切るなんて」


 セリスが口にしていたが、ファノンも同じように思っていた。

 灰燼かいじんは効果範囲が広い代わりに威力が分散してしまう技だが、灰燼かいじんを抜刀術の斬撃に収束させることなど誰でもできるものではない。

 第七騎士団長のカイルも灰燼かいじんを使うが、レイアと同じ芸当はできないだろう。

 発動した灰燼かいじんは、その炎をさやのなかで一瞬溜められていた。

 それは抜刀と同時にすべて斬撃に乗せられるため、威力は通常の灰燼かいじんの比ではない。


(魔法ではあるんだろうが、いったいあれはなんだ?)


 レイアの灰燼かいじんで戦況は傾くかと思われたが、そうはならなかったことで一瞬静寂が訪れる。


「え?」


 誰一人油断していたわけではない。だが魔女の姿はその場からき消えるように消えた。

 文字通りその場から消えたのだ。そんなこと物理的にあり得ないため、ファノンやセリス、レイアたちもその現象に目を細める。

 こんな魔法はあり得ないが、魔法以外にあり得ることでもなかった。

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