第14話 魔女の襲撃

 一人を挟み込む形でレイアとライオットが対峙たいじする。どちらも騎士団の頂点の一人という実力であるが、それが二人がかりで全力という状況であった。


「あなたが報告にあった魔女ですね。カイルが言っていた通りの実力というわけですか。

 あなたが破壊した研究所では多数の死者が出ました。

 今まであそこで行われていた貴重な研究結果も失われ、すべてではないにしろ彼らの積み重ねてきてきた努力も無駄になったのです。

 それをあなたはわかっているのですか?」


 問いかけたレイアの背後には聖都の研究所があり、魔女と呼ばれた者を遮るように位置していた。


「なにも知らぬお前たちに理解はできないでしょう。私は命を散らしていった者たちの想いと共にこの世界に立っているゆえ、邪魔をするというのであれば排除はいじょさせてもらう」


 ベールの向こう側から発せられる言葉に、レイアのまとう雰囲気が変わる。


「私たち団長二人を相手に、それができると思うか? ましてやテロ行為を行うようなキサマに」


「――――!」


「コキュートス」


 背後を取っていたライオットが魔法で急襲した。水属性魔法のなかでも最上位に位置するコキュートス。

 魔女を水の球体が覆い、そのなかで高圧縮されたいくつもの水流が襲う。

 少しでもかすれば身体は抉れ、命中すれば風穴が空くことになる。

 それが何十本と荒れ狂う球体は、激流で身体を動かすことすら難しい。

 始めは透明なコキュートスは、その牙を向くと相手の流血によって赤い球体へと変わる。

 だがライオットのコキュートスが赤く染まることはなかった。


「リヴァイアサン」


「「――――――――」」


 魔女の言葉にライオットのコキュートスは呆気なく弾け、そこには水属性の魔法と思われる蛇のような水竜が現れていた。

 さっきとまったく変わらない様子の魔女がさらに言葉を紡ぐ。


「銀世界」


 それはライオットが展開した同じ魔法。


「――――魔法はかなりのものなようですが、ならば近接戦闘なら――――」


 距離を詰めに動いたレイアに向かい、魔女は発現していたリヴァイアサンで迎え撃つ。

 だがこれをレイアは直前で横方向に一回転して回避すると、そのままリヴァイアサンの横をすり抜ける形で距離を詰める。


「アークブレイズ」


 中距離まで詰めたところで、レイアは先手を取りに行く。

 魔女の周囲が蜃気楼のように一瞬景色が歪み、一〇本以上の氷剣が半円を描いて現れる。

 魔女は右手にある黒槍でレイアの太刀を受けにいくと、空いている左手を空間に滑らせた。

 左手を滑らせた先には荒削りで巨大な氷のカーテンが現れて迫る氷剣を弾く。

 だがレイアの太刀は四枚羽の効果もあって分が悪いのか、勢いをそのまま受け流すかのように踏ん張らずに押されていた。

 客観的に見ればレイアの勢いに圧されているように見えなくもないが、そんななかで魔女は小さく魔法を告げる。


「アルヴヘイム・ギア」


「――――!!」


 押されながらもさらに魔女はレイアに向かって魔法を発現する。

 それは二種類の属性魔法の同時発動。それも最上級の風魔法と中級水魔法のキィワスギアを同じ場所に発現するというもの。

 この行使を魔法を知っているものであれば、どれほどの難易度であるのかはすぐにわかる。


 風と水属性には氷属性という複合魔法がある。同時に二属性を行使するわけだが、これと今魔女が行使したことは似ているがまったくの別物。

 複合魔法は二属性を行使して一つの魔法とするが、異なる魔法を同じ場所に発現するというのはそれ以上に難易度が高い。

 氷属性にならないように、最後まで異なる魔法を行使しなければならないからだ。

 それを団長クラスを相手に一瞬で成す魔女の魔力コントロールは、レイアやライオットを超えていてもおかしくはない。


 荒れ狂う暴風のなかで、風の刃と高圧縮された水流が暴れまわる。

 それは縦横無尽に暴れまわるが、レイアはそれを強引に突破しにかかる。


「レーヴァテイン!」


 大気を燃やしてしまえば、風魔法であるアルヴヘイムの強度は落ちる。

 レイアは傷を負いながらも、アルヴヘイムの強度が落ちたところを強引に突破していた。


「ワールキャステル」


 そのタイミングでライオットが発現した氷壁が、魔女の回避先を塞いだ。

 魔女が気づいたときにはすでに遅い。

 レイアは反りが強めな太刀をさやに戻し、居合の体勢を取っていた。


「っ――――!!」


 はすに構えているレイアの視線は魔女に固定され、その瞳には紛れもない殺気が宿っている。


灰燼かいじん――抜刀!」


 さや鯉口こいくちから炎が漏れた瞬間、レイアが太刀を抜刀する。

 その動きは無駄がなく、刀を抜刀することだけに集約された動作。

 神速の抜刀から放たれるのは灰燼かいじんの斬撃。

 広範囲な技である灰燼かいじんを一振りの斬撃に押し込めた抜刀術は、攻撃範囲が狭くなっているが貫通力に於いては比較にならない。


「エヴァラック――」


 魔女は一瞬下に視線を向け、黒槍を炎の斬撃に向けた。

 黒に近い灰色の盾が現れ、灰燼かいじんの斬撃とぶつかり合う。

 その瞬間灰燼かいじんが牙を現し、すさまじい炎が吹き出す。

 魔女が発現したエヴァラックを貫こうと灰燼かいじんの勢いは増しているが、それでも魔女の防御を突破することはできていなかった。


「「――――――」」


 エヴァラックと灰燼かいじんが共に消え去り、レイアとライオットの目は動揺していた。

 完璧なタイミングで回避不能な状況。魔女が選べるのは灰燼かいじん対峙たいじすることのみ。

 それで傷一つ負わせることができていないのだから。


「私が持つ最高の防御であったがそれを消し去る威力、さすがと言っておこう」


「今の魔法、四代属性じゃないな?」


「ネビュラにここまでの使い手がいるのは意外でしたが、なぜ今まで出てこなかったんです? 何者なんです?」


 ライオットに続いてレイアが訊ねるが、魔女がそれに答えることはなかった。

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