第12話 レイテッド
「ッチ。お前が余計なこと言うから、オッサンまでついてきたぞ」
「ぐぬぬ~」
ファノンがメイヤに恨み言のように言うと、そんなファノンを見てベントは唇をわなわなと震わせる。
だがファノンになにを言うでもなく、ベントはメイヤに自己紹介をした。
「私もハーヴェスト家のお名前は聞き及んでおります。この度はファノンがセリスさんの護衛をされると聞き、こうしてご挨拶に参った次第です」
「いやいや、まさかファノン
「オッサン、気持ち悪い呼び方するなよ」
「ぐぬぬ」
ベントは領地へ行っていることも多いためあまりファノンが顔を会わせる機会はないのだが、少ない機会でも名前を呼ばれるようなことはほとんどない。
あるとしてもファノンの態度もあって、キサマと呼ばれるくらいだった。
「ファノン。貴族や商いをしていれば、表向きの対応というのも必要なんです。
私はあなたのそういうところが嫌いではありませんが、あまり困らせるようなことはしないようにしてください」
「それでメイヤ殿、ファノンくんとはどのような繋がりで? セリスの命を救っていただいたというのと、セリスの希望もあって護衛をお願いしてしまったのですが」
「ファノンの家は代々私の家に仕えていただいている間でして、今もファノンの両親は私の下でよく働いてくれています」
「レイテッド商会でそのような立場ということは、素晴らしい才覚を発揮されていらっしゃるのでしょうな」
「代々助けていただいていて、正直頭が上がらないという思いです。ファノンはこういう性格でもあるので情報収集という名目で自由にさせていたのですが、セリスさんを救うことができたのはよろこばしいことです」
「ありがとうございます。偶然ではあったみたいですが、私も娘の命を救っていただいてファノン
積もる話もあるかと思いますので、もしよろしければ屋敷にお泊りになられては?
部屋の用意もすぐにさせますので」
「連れが宿で待っていますので」
「そうでしたか。ではせめて食事だけでも」
メイヤが視線を向けるが、ファノンは興味なさそうにしている。
ファノンも関係者ではあるはずなのだが、完全に第三者というかんじであった。
「しばらくファノンがお世話になりますし、お食事はご一緒させていただこうと思います」
メイヤは元々ファノンと話があったのもあって、食事まではファノンが相手をすることになった。
ベントは自分の身体が空くのもあり、会食の準備に急いで取りかかる。
ファノンはと言うと、セリスと少しだけ屋敷をメイヤに案内し、今はいつも行っている訓練に来ていた。
ファノンの指示で、今セリスはメイヤの護衛に相手をしてもらっている。
「ファノンからの連絡で調べさせてみましたが、確かにネビュラが動いていた形跡があったみたいです」
「こっちでも怪しかったが、これでほぼ間違いないか。理由までは掴めてないか?」
「さすがにそこまでは掴めていないですね。ですが国の管轄になっているような施設の襲撃以外で組織的な
まさかネビュラへの勧誘なんてことはないでしょうし」
「聖女がネビュラにいたら大事件だな」
「それにしてもセリスさん、まったく引けを取っていないですね」
「二度襲撃されているのが大きいだろうな。元々聖女候補になっているだけあって魔力自体は強いというのもあったしな。
一対一限定なら力押しでそうそう遅れは取らないんじゃないか」
「ファノンが最初から訓練を見るなんて初めてですから、彼女の成長は楽しみですね」
セリスの力は魔力の強さというところがかなり大きい。言い換えれば経験や戦術、技術といったところはまだかなり伸び代があるということをファノンは言っていた。
そしてメイヤとの食事が屋敷の一室で開かれた。メイヤの隣にはファノンが座り、ベントとセリスが向かい側に座っている。
食堂ではなく別室であるのは、そういう対応がされているということ。
部屋には給仕を担当する執事とメイドが立っていた。
「この屋敷の料理は美味いから楽しめると思うぞ」
まるで自分の家かのようにファノンがメイヤに言うが、それをベントがなんとも言えない顔で見ている。
ファノンの言い方はあれだが、口にしている内容は紛れもなく褒め言葉であったからだろう。
前菜から始まるフルコースメニューで料理は組み立てられており、力の入れようが感じられる。
だがスープが出たところで、ファノンの視線が厳しくなった。
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