第2話 誠実な男
この世界であるガイアは、神を
そしてガイアには魔力の流れがあり、このガイアの魔力をその身に宿した者は男性を神騎、女性は聖女と呼ばれていた。
これはガイアの魔力が神の魔力であると考えられているところと、過去に邪神からガイアを救ったという伝説的な偉人たちが所以であった。
ファノンはセリスを助けた後、騎士団から事情聴取を受けることになる。
本当だったらすぐ離れたかったところであったが、セリスに一緒にいてほしいと頼まれたからだ。
そして事情聴取でセリスのことは多少知ることができていた。
現在神騎の候補者はおらず、聖女の候補者が二人いる。
ガイアの魔力を宿すのは三回に分けてされ、一回でも受ければ候補になる。
だが神の魔力と考えられているだけあり、その魔力は強大。
一回でも受ければ、それだけで将来的には騎士団長になれるだけの魔力を有すると言われている。
人によってキャパシティーと適正があるため、全員が三回受けることができるわけではない。むしろほとんどの人間は一回でも不可能。
だがセリスはすでに二回済ませていた。短絡的に考えれば、セリスは将来総督になる可能性もあり得るとファノンが考えるくらい神騎と聖女の魔力は強大と言われていた。
「あ? なにを言ってる?」
「そ、そうだ! 確かに今回助けられはしたが、護衛なら別の者をまた捜せば」
事情聴取を終えてセリスが住む屋敷で、ファノンとセリスの父であるベントが言った。
「こう言ってはなんだが、礼儀もなにもあったもんじゃない! ギルドで小銭を稼ぐ生活をしているよくわからないような男を護衛にするというのか?」
セリスよりも色濃い金色の髪が揺れる。鍛えられた体格というわけではないが、決して太っているというわけではない。
身につけている衣服は上等だと思われるが、他の貴族のように無駄に派手なものでもない。
それは今ファノンがいる屋敷を見ても同じ。これだけでもセリスの父、ベントの人柄が多少はわかる。
ベントが言っていることも理解できないものではなく、堅実で真面目な人物なのだろうとファノンは感じていた。
「ですがお父様、ファノンさんは最上位魔法である青の世界まで行使できるのですよ? 私はもう犠牲者を出したくないんです!」
「確かに銀世界や青の世界を扱えるような騎士や魔導師を見つけるのは難しいが……」
(魔法を見せたのはマズったな)
「確かに魔法はそれなりに使えるとは思うが、俺は高いからやめておけ」
「ふん、小銭稼ぎをしているような立場で高いとはどういう冗談だ?」
「俺を護衛にしたいなら、一月五〇万リルだぞ?」
「なっ! 通常なら一五万、能力によっては二五万が相場だぞ! どれだけふざけたことを言っているのかわかっているのか!?」
「それが嫌なら諦めるんだな」
ファノンも随分吹っかけているのは理解している。当然ベントの反応も予想通り。
わざと法外な金額を要求しているのだ。
ファノンはこの話を受けるつもりなど元々ないため、一〇〇万でも二〇〇万でも要求できる。
だがセリスはファノンやベントとは違う計算をしていて、ファノンは多少現実味のある金額に寄せてしまったことがミスとなってしまう。
「お父様は私のために護衛をつけるつもりなんですよね? 決してそれは安い金額ではないのに」
「当たり前だ。私の唯一の家族であるセリスのためなら、一〇〇万リルだって安いものだ」
「であれば、それをファノンさんに使ってください」
「な、なんだと……」
「…………」
セリスは顔色一つ変えずに言うが、ファノンとベントは信じがたい目を向ける。
客観的に見れば、自分で言っておきながらファノンまでそんな目を向けているのはおかしいのだが。
「今までの護衛の方たちが五人。それに対して私を助けてくれたのはファノンさんです。
実力はすでに証明されていて、最上位の魔法すら扱えるのですから安いですよね?
ファノンさんも五〇万リルなら引き受けると言ってくれましたし」
そこまで言うと、セリスはファノンに視線を向けてきた。
「五〇万なんて高額な金額を口にしてあれはウソだ、なんて今更言わないですよね?」
「……あれはウソだ」
「「…………」」
舌の根も乾かぬうちの言葉に、セリスとベントの表情が固まっていた。
(っ……貴族の金銭感覚はどうなってる!?)
「俺みたいな二枚目を護衛にするなら、八〇万は覚悟してもらおうか?」
「あの、護衛に容姿がなにか関係あるんですか?」
「当たり前だ。常に目の保養になるだろ? さらに護衛までこなせるとなればな」
「歳はいくつだ? 王立学院の学生ではないな?」
「一八だ。わかっていると思うが、俺が王立学院になんて入れるわけないだろ?」
「だろうな……ふざけたヤツだが、まぁいいだろう。今回のことを考えれば、セリスの言う通り安いものかもしれん。
その代わりキサマには王立学院に入ってもらい、学院のなかでも護衛をしてもらう。
通常学院内ではできないが、学生ならばそれも可能。
キサマの言い値である八〇万を払うんだ。文句は言わせんぞ」
「お、おい、本気か?」
ファノンの表情が固まったのを見て、ベントが少し意地悪いような顔をした。
「心配するな。私から学院に働きかけてキサマを入れてやる。よかったな。これで学院出身者というステータスも手に入るぞ?
キサマのようなヤツが最後までいられればの話だがな」
後日ファノンは、ハーヴェスト邸の一室で学院の制服を試着していた。
「うん。サイズは問題ないようですね」
「ああ、そうだな」
数日後の新年度で、一六歳のセリスは魔法聖騎士学院の魔法騎士科に入学することが決まっていた。
これに合わせ、ベントが言っていた通りにファノンの入学も通ったのだ。
ファノンは一八歳ということで年齢は上だが、こういったことは魔法聖騎士学院に於いて珍しいことではない。
入学金は一般領民には高く、すぐに用意できるような金額ではないのだ。あとは単純に能力の問題もあるのだが。
「できればファノンさんのご両親に、ご挨拶をさせていただきたかったのですけど」
「機会があったら紹介はしてやるよ」
「でもそうですね。ファノンさんが聖都に一人で出てきているから、こうして屋敷に住んでいただいて護衛していただけるんですよね」
「そういうことだ」
「それにしても服装が変われば受ける印象も変わりますね。黙っていれば誠実な印象ですよ?」
「おいおい。人族、エルフ族、魔族のなかでもトップ三に入るほど誠実な俺になにを言っている?」
「確かにご自身に対して誠実というなら納得です」
「だろ? 俺は自分に誠実に向き合っているからな」
「はぁ~、学院は
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