財産は奪えても知識までは奪えませんわ
それは、突然の出来事でした。
特にやる事もないので、一日本でも読んで過ごそうと考えていた矢先の事でした。
いきなり、王国の騎士団が私の屋敷に入り込んできましたわ。
ノックも出来ないとかいつから野蛮になったのかしらね。
「貴様らここがどこか分っているのだろうな?」
「クソッタレ令嬢の掘っ立て小屋だろ。仕事終わらせるぞ」
シャルが戦闘態勢に入る。
これはいけません。
王国の騎士団相手でも手を出してしまえば彼女も処刑されてしまうでしょう。
それだけは阻止せねばなりません。
「ノックの一つもなく、入り込むとはいつからですの?」
「貴様には脱税の疑いがかかっている。それにより、私財の一切を没収する」
「ええ。どうぞ」
それを聞いた王国の騎士団の皆様は、若干動揺しました。
ですが、予見はしていました。
ですので、マドレーヌに頼んで財産の一部は移してあります。
いつでも入っても良いように。
農園も寄付されたものです。
名義はマドレーヌですけどね。
寄進しても、私は追放された身。
財産となりうるものはそうそう持てません。
寄進された土地の権利は放棄。
その代わりに王国得意の方法と同じ手段を使いました。
それが赤帳簿。
簡単に言えば、王だけが使える秘密の国庫ですわ。
おかげで、どれだけ税金が有っても足りませんけどね。
「碌な金もないとは落ちぶれたものだ、ビジソワーズ」
「私清貧を心掛けいますので。クローゼットと椅子、机を残してくださり感謝いたします」
「持出、完了しました」
「では撤収!」
騎士団の皆様が去った後。
清々しいまでにすっからかんです。
本棚の本もありません。
立つ鳥跡を濁さず、という所でしょうか。
命を取られないだけまだマシですわね。
「お嬢様」
「大丈夫ですわ。幸い農園もあります。それに働けば良い。そうでしょう、シャル」
落ち込んでいる暇はありません。
そんな暇があれば、動かなくてはいけませんわ。
財産を食いつぶせる時間は節約をして5年程。通常通り過ごすのであれば3年程。
まずはどこか働く場所を見つけませんと。
どこが良いかしら?
「お嬢様。でしたらマドレーヌに頼むのはどうでしょうか」
「どうしてですの?」
「彼女なら、何か力になるでしょう」
なるほど。
それも手ですわね。
ですが、今の彼女は領地を治めると言う仕事がある。
それを邪魔するのはいけません。
「いえ。自力で探し出しますわ。最悪、農園で無理やり雇ってもらいましてよ?おっほほほほ!」
「私が働きますので、お嬢様はそのままで」
「ダメよ。良い?これは私個人の問題ですの。ですから、シャル。あなたを巻き込むわけにはいきません。それに留守を守るのも従者の務めでしてよ」
私はこうして、職探しの旅へと出ることになるのでした。
その前に、顛末をマドレーヌに伝えないといけませんね。
「私財取られたって……抵抗しなかったのかよ!?」
「あなたに預けてありますから安心ですわ。椅子と机、ベッドとクローゼットが取られなければ何とか生活できますわ」
「お前なあ……それでどうするんだ?どこかで働く気でもあるのか」
「斡旋してくださいますの?」
「するか!若干運動ダメそうだしなあ」
「失礼ですわね。乗馬と狩りを嗜んでいますわよ」
「それは運動じゃないんだよなあ、剣や槍とかできたら冒険者として行けるんだけどよ」
冒険者なんてできませんわね。
魔力もない上に武器も扱えません。
銃は扱えますが、魔物相手ではあまり効力がないとされていますわ。
魔法の影響を受けにくいらしく、威力が上がらないそうですわ。
それなら、弓の方が良いそうです。
対人では有効なのですが。
「ってかお前、本当に働くのか?」
「ええ。そのつもりですわ」
「だったら、お前を私が雇う!それでどうだ?」
「へ?」
思わず間抜けた声を出してしまいました。
「いや、アンネ。お前を雇うってんだよ。なに、名義は変えておくさ」
「……良いのですの?」
「色々恩義はあるからな。それに領地が良くなれば、領民も喜ぶ!私も喜ぶ!良い事づくめだ!」
あっはははは!と彼女は豪快に笑う。
「名義は?」
「そうだな、書類上だけどマリア・アントワネットってした。職は私の侍従だ。名ばかりだけどね」
「由来は何ですの?」
「んー、フィーリングかな」
私はこうして、書類の中ですが彼女に雇われることとなりました。
マリア・アントワネットとして。
――ナロウ歴1785年 5月26日
オルレアン領主、マリア・アントワネットと呼ばれる侍従を書類上、雇用する。
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