どのような物や事にも名はありましてよ!

 硝石と機材が届きました。

機材は分かりませんけど、硝石の使い道と言えば、石鹸を作るときに使うかハムやソーセージに擦り込むくらいでしょうか。

硝石は土に糞や尿を土に混ぜ込んで1~3年待って、そこに灰汁を入れることで手に入る代物です。それ以外だと家畜小屋から手に入れています。

全く、硝石採取人の方々には頭が上がりませんわね。

今の王様はあまり彼らを良くないと思っているようです。

臭いとかどうとか。

これは彼らの労働の勲章ですわよ。



「わぁ……!わ……!」


 ラグランジュが驚きのあまり、語彙を失っていますわ。

口は閉じた方がよろしくてよ。

せっかくのお顔が台無しになりますわ。



「こんな量くらい、いつでも調達してみせますわ!おっほほほほほほ!」

「しかも機材もこんなに!あ、ありがとうございますぅ!」

「ふふ。これで火薬を威力を上げてくださいませ」



 そう言うと、さっそく研究を始めました。

その機材はそうやって使いますのね。

火薬が出来るまでは、彼女に任せましょう。

そうすれば魔法と同じくらいのものが出来るはずですわ。



「アンネ、そんな所で……って臭いな!なんでこんなところに堆肥があるんだよ」

「硝石ですわ。純粋なものと加工すれば取れるものと分けましたの」

「そうか。いや、ラファイエットから銃の威力を上げろってのも無茶だよなあ。次やったら試し撃ちの的にしてやるってさ」

「あら。次はあなたが試し斬りの藁になりますわよ?」



 マドレーヌとそんなことをいいながら、執務を終えました。

彼女、仕事と遊ぶ時とでは相当人が違いますわね。



「あー終わったぁ……。なあ、アンネ。どこかで飯食おうぜ、美味い所知ってるんだ」

「まさかカルディナルですの?」

「そこじゃないところ。肉料理が美味いと評判なんだ」

「ええ。是非」



 楽しみですわね。

民の料理はあまり口にしたことがありません。

なので、ある種の冒険でもあります。

王宮に居た時は良いものばかりでしたから。

今はシャルが作る料理ばかりですわ。

料理の腕も良いのですから、良き殿方とめぐり合わせたいですわね。

馬車へと乗り、しばらく。



「アンネ、ここだ」

「まあ。すごいですわね」

「冒険者や傭兵も行きつけの店さ。何、私が居るんだ。安心しろ」

「襲われても自衛くらいできましてよ」



 店へと入ります。

皆様、私たちに視線を向けています。

当然でしょう。

領主様が来ている事もそうですが、私も来ているのですから。



「領主様!それと噂の方ですかな?来て下さり、ありがとうございます」

「そんな挨拶はいいよ。今はただの客として来てるから、普通でいいぜ。いつもの、頼めます?」

「はい!ただいま!」



 すごく手馴れていますわね。

しかも行きつけとは。もしかすると彼女はかなり把握しているのかもしれません。

ええ。領主として。中には自身の領地の事をあまり知らない方も居ますから。



「お待たせしました」



 配膳されるメイドさんが料理を置かれました。

これは……何かしら?



「ねえ、マドレーヌ。これは何と言う料理ですの?」

「ポトフ。ワインとも合うけどな」

「あなたねえ」

「硬い事は今はなしだろ」



 そう言い、彼女はポトフを食べる。

私も試しに口を付ける。

ブイヨンが程よく聞いていて、肉は筋がない。

野菜はしっかりと煮込まれていて邪魔をしていません。

これは美味しいですわ!



「な?良いだろ?」

「ええ。とても」

「そういえば、あいつは何をしているんだ?ほら、ラヴォアジエ」

「ええ、彼女は『知を集めた』ものを作っていますわ」

「チ?血液?」


 それは錬金術どころか邪教の儀式ですることですわ。

そんな不可思議なものではありません。



「様々な知識を駆使してものを作ろうとしているのですわ。そうね……これを私は」

「私は何と呼ぶのさ」

「知の集合、『science《科学》』はどうでしょう」



――ナロウ歴1785年 5月19日

オルレアン領内にて、錬金術を用いない技術を『科学』と呼称する様になる。

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