ネズミ捕りの時間ですわ!

 カルディナルを出て、私たちは屋敷へと戻りました。

王国はもはや私が知る以上に複雑になっていました。

きっと中だけしか知らなかっただけなのかもしれません。

仕方ありません。

マリーの方が少し上手だっただけ。

それに焦ってはいけません。

慌てては今までの努力も水の泡。

機を見て動くことも大切ですわ。



「優秀ですわね、フランさん」

「じゃなきゃあそこの上には立てないさ」



 上に立つ者は何かしらを秘めているようです。

私の様に可憐どころか知性も持ち合わせた完璧な令嬢となればまばゆい光に等しくてよ。

まるで全てを照らしてしまう太陽ですわね。



「お嬢様宛のお手紙です」



 シャルから手紙を受け取る。

……エリザベートとルイーズからですわね。

彼女たちは私の友人達の中でも特に私を慕ってくれた方たちです。

様々な所へ行きましたわね。

秘密のお茶会や乗馬、音楽に狩りも共にしましたね。

エリザベートは私との趣味が合いましたので、シャル共々色々とお世話にもなりました。

同時に慈愛の深さを持ち合わせている方です。

ご家族を大切にされる、見習うべきお方でもあります。

ルイーズはおとなしくて控えめですけど、とても人を大切にしていて、純粋で真面目な方。

どこか守ってあげたくなる感じ。

あなたは勇気がある事は私は知っています。

内容は何でしょう?

お誘いかしら?



「シャル、見なさい」

「これは」



 簡単にまとめれば、彼女たちにあらぬ疑いがかけられている。

エリザベートは幼い子に対しての性的な事。

ルイーズは不貞を働いた上に夫殺害。

曰く事実ではないそうです。



「この方たちがそのような事をするようには思えません」

「そうよね。嵌められた、という所かしら」



 どうやら、スパイはそのような情報を流しているようです。

まさか私の友人にまで。

私だけなら如何様に話しても構いません。

必ず打ち砕いて見せますわ。

噂なんて怪しすぎてたまりませんものね。

でもまずは。



「会いに行きましょう。例の場所へ」

「かしこまりました」



 仕事中のマドレーヌに用事を伝えると、軽く手を振ってまたペンを振るう。

後で、いいお茶出しますわね。




 秘密の場所は、湖の見えるところにあります。

そこに天幕を張り、話とお茶を楽しむ。

結構楽しいのですよ?



「神に誓ってそのような事をしていません」

「同じです。私、ふ、不貞なんてできません!」



 そうでしょうね。

うん、ルイーズ。顔真っ赤よ。

旦那様が出来た時、すごく惚気てましたもの。

殺すとしたら、あなたの旦那様が不貞した時でしょうね。

一度近づこうとしたら、目が怖くてたまりませんでした。



「エリザベートは教会でシスターしてますもの、子供と会う機会も多い事もあるのではなくって」

「子供たちは無垢です。教えに背くようなましてや手を出すなんて言語道断です」



 確かに、敬虔な彼女はそのような事はしない。

牧師や宣教師の中には手を出している方もいるみたいですが、彼女はそのような事をしません。

手を出そうとした牧師を引っぱたいているのを見たのですから。

そうなれば。



「私の国に悪意を持って貶めた方が居ます。どこからお聞きしましたの?」

「王宮です。祈りの時間を終え、別の事をしようとした時に小耳に」

「私もです。旦那様が帰ってこなくて心配してずっと部屋にいたのに、誰も信じてくれません。愛し合っている姿を見せてたのに」



 さて、流す話は決まりました。

そう。これでおびき出しましょう。



「でしたら、私の話題を出してくださる?そうね」



 少し考え、私は笑顔でこう言う。



「――私が領土の一部を隣国に国を売ろうとしていると」




――ナロウ歴1785年 3月30日

アンネ・ビジソワーズが領土の一部を隣国に売却するとされる噂が流れる。

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