スパイさん?こちらへおいで下さいまし。大丈夫。悪い事はしませんことよ?

「言い訳にしては幼稚過ぎて呆れましてよ」

「いや、本当でさあ。全員疑うってのも出来ないんで」



 まあ。

それで領に納める税を納められないと?

そうであれば、多少融通を聞かせましたのに。



「でしたら、私実は炙り出す方法を存じていますわ」



 スパイは姿も形も無い。

でしたら、方法は一つ。

良い話と悪い話を交互に混ぜる。

いい具合に、というのがポイント。

ですが、周囲の目線が気になりますわね。



「それはなんだ?」

「でしたらまず、フランさん。まずは人払いをお願いますわ」

「ああ」



 そう言い、周囲にいる方々を払う。

ええ。天井やら絵画やらに視線がありました事は知っていましたよ。

気になってしょうがないです。



「ふふ。ありがとうございます」

「それで、どうすると?」

「隣国と王国に関する話題を流しますわ」



 王国の話題は中に居る仲の良い方々達が居ますので、何とかなりそうです。

問題は、隣国に関する話題。

こればかりは真偽と既知の情報が多くあり、中々断定しづらい。

王国の情勢は隣国にも通じていますでしょう。

つまり王国の今後、いえ。大陸の今後が変わるという事。



「王宮についての話は時折入ってくる。というかここはそういう場所だ」

「でしたら、答えや照合という点でも良いですわね。それで隣国についての話題はどうしましょう?詳しい方は居まして?」

「居るにはいまさあ。まあ、そいつはしばらく来てないから、捕まったのかもしれねえです」



 おや、マドレーヌ。

何か思案していますわね。

もしやいいアイデアが生まれようとしてる瞬間が見れますの!?



「だったらさ、王国に関する話だけ流すのはどうだ?それなら動きが分かりやすいはずだ」



 悪くない考えでしてよ。

隣国の情報も得ようとしていた私が愚かですわ。

やはり2つを得ようとするのは難しいのかもしれません。

確実な方法をここはとりましょうか。



「悪くありませんわね。でしたら、この通りに」



 私が知る限りの事を話す。

ルイ様の事。そしてマリーの事。

婚約破棄の真実。

特にマドレーヌは婚約破棄の話題にはかなり興味をもってくださいました。

ルイ様に関してはフランさんが。



「以上が知る事ですわ」

 


 紅茶を飲み、喉を潤す。

お茶菓子なんて手を伸ばすよりも乾きが圧倒的優位でしたので。

シャルに「はしたないですよ」と咎められましたが、今は少し許してくれません?



「なるほど……。そうでやすね、王妃であるマリーに関してはきな臭い噂がいくつかありやすけど、どれも信ぴょう性に問題がありましてね」

「隣国に繋がっているとかですの?」

「それは私も聞いてるけどよ、ただの噂程度だろ。むしろアンネに関する噂が多いな」



 私に関する話題ですか。

ある事ない事ばかりでしょうね。

尾ひれに背びれどころか鱗もついているかもしれませんわね。



「それでどのような噂です?」

「嘘つき女に未練たらたら令嬢、残念令嬢とかだな」

「最後のは聞いたことありませんわね」

「ああ、私が思っている事だからな!」



 マドレーヌ、言うようになりましたね。

少し来なさい。

大丈夫、悪いようにはしません。

こちらへ。さあ。

何故お逃げになるのかしら?

来なさい。



「アンネ?なあ、目が怖いぞ?おいフォークを向けるのはやめろ!」

「姉御、ここは素直に詫びた方が助かりまさあ」




――ナロウ歴1785年 3月24日

カルディナル内にて、フランセーズ・サントノーレと密談をかわす。

同日、王国に『車裂き』に代わる人道に配慮した刑として、斬首が正式に採用される。

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