モノがあれば豊かになりましてよ?
牛を育て、そして酪農家の皆さんに手伝って貰いながら、チーズは無事に生産されていきました。
クオリティはマドレーヌと詳しい方々が良いとお墨付きを頂きました。
特に『王宮御用達』の文句は大いに使い潰せるまで使いつぶしましょう。
そうすれば、そのうちそれが『オルレアン領のチーズ』と名が変わり、ブランドが広がる。
やがて、王国と言う大雑把なものからその国の地名だけで有名になります。
それになれば成功です。
「後はこのまま産業を進めていけば大丈夫ですわね」
「アンネさんよぉ、産業と言ってもうちにはもうあるんだけど」
「娼婦と男娼と酒場以外でお願いしますね。それ以外に有るならば知りたいですわ」
「あるにはあるぞ。鍛冶に防具や武器を取り扱う店も多い。元々冒険者や傭兵が集まってできた町だからな」
なるほど。
ならば、ここに残してあるものもあるはず。
例えば、財産。もしくはそれと同じもの。
土地も建物も立派な財産でしてよ。
「有るにはある。私も出入りしているからな。行くか?」
オルレアン領には、かつてジョセフ・オルレアン様が住んでいた広大な、下手をすれば小国と言わんばかりの大きな屋敷がありました。
ただし、資金繰りが悪化。そして一部その地を貴族や商人たちに売ったと。
商人から様々な方々が出入りしており、ある種のダンジョンと化しているとか。
魔物は出ませんわよ?
領内にありながら、当時のジョセフ様は利益の一部を領に納めることを事を条件に庇護したとか。今は、納税した記録が無いですわね。
そのために王国内では騎士団も介入できない中立地帯となっている。
場所の名は知っています。王宮内でも時折話題に上がっていましたので。
「その場所は私の信頼する友人、フランに任せているんだ」
「へえ。でしたら、その場所へ連れて行ってくれるかしら?――カルディナル、に」
するとマドレーヌは大笑いをしました。
政治に無知な小娘でもありませんよ?
社交もマスターしている才色兼備な令嬢ですので。
カルディナル。
それがかつてジョセフ様が住んでいた屋敷があった場所。
「意志は固いみたいだな。じゃあ行くか」
「私も着いていきます。よろしいでしょうか」
「ああ。構わない。結構怖いところだからな」
こうしてカルディナルへと向かう事になりました。
どうして?
あそこは別名『混沌の庭園』と呼ばれる程に恐ろしい場所です。
様々なお店が立ち並び、昼はレストランや商店が。
夜は娼館やバーが営業する。
場所がどこにあるかもわからず、さらに保守派や革新派など多くの方々のたまり場となるカフェがあるとか。
王国の情報はもちろん、他国の情報もあるそうです。
凄いですわね。
興味?ありますよ。自衛出来る手段さえあれば是非訪れてみたい場所でもありましたし。
「ここだ。すごいだろ」
「ええ。とても趣がありましてよ」
ぐるりとコの字で囲まれた庭を潰して建てた新しくも品がない店と古いながらも気品あふれる大きな屋敷が混在している。
「マドレーヌ様。この方たちが?」
それはどっしりと構え、咥えたタバコをくぐらせる。
タバコと言っても、紙ではなくパイプですわよ。
劇団の方が演技するときに着るような煌びやかな服装。
マドレーヌとは違う、どこか幼げが残りながらも目が鋭く、鈍い輝きをしている。
私より背は小さいですけどね。
ある種の支配者であると思わせる格好であり、素晴らしいと思いましてよ。
「ああ。アンネ。こいつは」
「お初にお目にかかりやす、ワシの名はフランセーズ・サントノーレと申しやす。気軽にフランと呼んでくだせえ」
膝を折り、私の手を取り、甲にキスをする。
曲がりなりにも、貴族という事でしょう。
女性同士では普通しませんことよ。
「私はアンネ・ビジソワーズと言いますわ。よろしくお願いしますわね、フランさん」
色々と聞けそうな方でよかったですわ。
さて。聞きたいことが多すぎていけません。
まずは何から聞こうかしら。
――ナロウ歴 1785年 3月24日
アンネ・ビジソワーズ、カルディナルへ訪れる。
フランセーズ・サントノーレと出会う。
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