私の食料改革ですわ!

 館についた私たちは、現状について詳しく知る必要があった。

彼女が執政している机には大量の書類が積まれていた。

見た目と態度はアレだけど、優秀という事なのだろう。

まずは情報だ。それが無ければ動きようがない。

大抵、あの女のせいだろうけど。

しかし決めつけは良くない。

物事の本質が見えなくなってしまう。

そうでなければ本当の答えにたどり着けない。



「まず、法が改正されたのはおかしいの。明らかに



 法を変えるもしくは廃止する際は、高等法院を通す。

だが、王がそれを拒否すればそれは通らない。

けれど、そこまでの力はない。

せいぜい王の意見に対してささやかな抵抗をするだけな組織。

「あくまでも話し合いで決めたんですよー」って言う体。

実質王様の言いなり。



「……14代目国王様ね」

「ああそうさ。14代目が即位してからだ。前々から決まってたみたいにな」



 最悪だ。

まともな方と思っていたのに。

国はおもちゃじゃないのに、よくまあ出来る。

思い出に浸っている場合じゃない。



「戦争は巻き込まれたが、一時さ。復興するために色々手を尽くしたんだけど、私財売っても足りなくてね。にっちもさっちもいかなくて」

「それはそうよね……うーん」



 ここは何が取れるのだろうか。

いや、その前に。



「食料……麦はどれだけあります?」

「えーと、どれくらいだったけな……」



 ガサゴソと資料を取り出す。

……一発とは。

彼女の事を見直さないと。



「麦を含めてこのくらいだな」

「え、これって領民が飢えるレベルよ!?」

「はい。このままでは餓死者が増えるかと」



 いけない。

民が居なければこのまま滅びるだけ。

さて。どうしたものか。

ふと、気になる項目。

大麦……?



「大麦の量が多いね。何で?」

「ああ、それは買い付けが去れていないからさ。以前は最低保証分は買ってもらっていただろ?代わりに小麦が値上がりしたって訳。小麦はもう無いな」



 大麦は小麦の次に使うものだぞ。

しかし、困った。

残りは家畜用の飼料ばかりね……。

何を植えれば良いのか。

これでは、意味がない。

何よりも食がなければまず何も考えられなくなる。

あっても、目の前の事くらいだ。

瘦せていても、育つ作物……。

もう一度、目を通す。

ある。

けど、確認を取る。大切だ。



「ここは3月にしては暖かいわね。暖房はつけてないわよね?」

「そりゃ3月だからな。暖房何て要らないくらいだ。しかも、日が良くて、長くなる時期でもある。それがどうした?」



 あった。

それを聞いて、私はニヤリと笑う。

あるじゃない。ぴったりのものが。

植物学や農業関連の事を学んでおいてよかった。

食が無ければ山すら乗り越えられないのだから。

まずは、農民をかき集めて……いや、人だ。

誰でもいい。

畑と種さえあればいい。

何よりも、美味しいのだ。

食べたことがある。

牛や鶏が食べられるのだから、私たちにも食べられるはず。



「お嬢様が悪いお顔を……」

「ねえ、マドレーヌ。ここに黄色い種あるかしら?」

「あるにはあるが、どうした?」



 それは家畜用餌として扱われてきたものを食すという事。 

けれど、死んでは意味がない。

泥水くらい啜らないと。



「――トウモロコシ、食べるわよ」




――ナロウ歴1785年 3月5日

オルレアンの地にて、トウモロコシの栽培を開始する。

当時、飼料であるものを食べるという事は屈辱的な事とされていた。

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