第9話 再びタイムリープ②
「たいま~!」
「ただいま、でしょ。それに靴はちゃんと並べて置くこと」
「はぁ~い!」
千歳が靴を脱いで家に入ろうとすると伊吹が優しく注意する。すると素直に靴を並べて奥の部屋に消えていった。
やれやれといった様子で伊吹も家に上がると俺の方に振り返る。
「お帰りなさい、あなた」
「あ……た、ただいま……!」
まさか、俺が家庭を持って「ただいま」なんて言う日が来るとは思ってもみなかった。家に上がり廊下を進んでいくと奥はリビングになっていた。
ざっと見た感じ部屋は3LDKといったところかな。以前の俺のアパートとは全く違う幸せに溢れた雰囲気が広がっている。
リビングの所々には写真が飾ってある。手に取って見ると高校や大学の頃と思われる写真だった。身に覚えがないのにそこに自分が映っているのが不思議だ。
さらに見進めていくとソレはあった。思わず手に取って見つめてしまう。
そこには純白のウエディングドレスに身を包んだ伊吹と白いタキシードを着た俺が映っていた。
今よりも若いので多分数年前のものなのだろう。
「本当に結婚したんだ、俺たち――」
「どうしたの、そんなにマジマジと写真なんて見ちゃって。あっ、結婚式の写真ね。あれからもう六年かぁ。――当時のあたし若いなぁ」
六年前ってことは、俺は二十四歳で結婚したのか。高校の頃から付き合い始めて順調にゴールインしたってこと?
伊吹は懐かしそうに結婚式の写真を見ると、今度はエプロンを着けて食事の準備を始める。
「悪いけどご飯を作っている間、千歳をお風呂に入れてくれる?」
「えー! 千歳まだおふろ入りたくない。アニメ観るのー」
「ダーメ! まずはお風呂に入りなさい。アニメはお夕飯を食べた後!」
母娘の静かな応酬が繰り広げられると勝利したのは母親の方だった。やはり母は強し。
俺は湯船にお湯を溜めると、ぶーぶー不満を漏らす千歳を連れてお風呂に入った。子供の頃、妹と一緒に風呂に入っていたのでその要領で娘の世話をする。
最初は不満げだった千歳もお風呂は好きなようで、すぐにご機嫌になって入浴を堪能していた。
風呂から出るとリビングから美味しそうな香りが漂ってくる。娘と二人で鼻をくんくんさせていると腹から『グゥ~』と音がした。
突然の空腹に襲われた俺と千歳は急いで着替えリビングに戻った。するとテーブルの上には綺麗に彩られたサラダとクロワッサンが並べられていた。
「あら、二人ともお風呂から出てきたのね。それじゃ席についてちょうだい。シチューをよそったらお夕飯にしましょう」
椅子に座るとできたてほやほやのシチューが目の前に置かれる。風呂から上がると温かい夕飯が待っているなんてまるで夢みたいだ。
「「「いただきます」」」
実家ではない俺と伊吹が中心となって作った家庭。そこに千歳が生まれた三人の家族で囲む夕食は美味しくて幸せで泣きそうになってしまった。
泣いたらさすがに驚かしてしまうので必死に堪えた。
夕食を食べ終えると千歳はテレビの前に座ってアニメを観始める。そのフットワークの軽さに驚くばかりだ。
「まったくもう! 本当にアニメ好きなんだから。一体誰の影響かしら?」
そう言いつつ俺に悪戯な笑みと視線を向ける伊吹。こんな表情は高校時代では見たことがなかったのでドキッとしてしまう。
以前は小動物のような可愛らしさがあったが、今は小悪魔のような感じもある。これはこれで……良いっ!
食洗機に食器を入れて洗浄が始まると親子三人でアニメ鑑賞をした。夜の八時頃になると千歳はウトウトし始めて間もなく寝入ってしまった。
その天使のような寝顔を見ていると自然と顔がほころんでしまう。
「寝ちゃったか……」
「寝ちゃったわね……」
寝てしまった千歳を寝室に寝かせたらここからは大人の時間だ。と言っても、特にやる事は変わらずニュースを観たりしている。
「それじゃ、あたしはお風呂に入ってくるわね」
そう言い残すと伊吹は浴室に向かっていった。途中で俺の方に顔を向けて何か言いたそうな感じだったが、すぐにそのまま行ってしまった。
俺は俺で、以前とは様変わりした環境に対応すべく頭の中を整理していた。
俺は伊吹と結婚して千歳という子供を設けた。住んでいるのは以前と同じ町だが、今はマンションに家族三人で生活している、と。
高校二年の頃にタイムリープしたり、三十歳の頃に戻ったりと忙しかったが、あの頃とは全然違う幸せな環境だ。
幸せすぎて怖いくらいだ。そうしみじみ思っていたら睡魔が襲ってきた。
「あなた……起きて……」
「う……ううん? あ、俺寝てた?」
「そうみたい。もうお部屋で寝る?」
色々と考えていたらいつの間にか寝ていたらしい。少しずつ意識が鮮明になり伊吹を見ると、彼女はゆったりした寝間着に着替えていた。
風呂上がりのシャンプーのほのかな良い香りがする。おまけに前屈みになっているせいか彼女の胸の谷間が丸見えだった。
大人になり子供も産んでいる事もあってか、確実に高校生の頃より成長している。
そのあまりの刺激的な光景に視線を外すことが出来ないでいると、伊吹がそれに気が付き微笑むと隣に座った。
「少しお話してもええ?」
「……うん」
伊吹の話し方が突然広島弁になった。子供の前の母親の顔とは異なる大人の女性としての色気ある雰囲気をひしひしと感じる。
「実は今日ね、千歳が通っている保育園の友達が妹が生まれた言うてたんやって。それで千歳も妹か弟が欲しいてずっと話しよったんよ」
「妹か弟……ですか」
「うん……それでね。最近は千歳も手が掛からんようなってきたし、生活も落ち着いてきたし……ウチもそろそろ二人目が欲しいなって……駄目?」
伊吹は潤んだ瞳で俺を見つめながらゆっくりと寝間着を脱ぎ始める。
すると中にはスケスケのネグリジェを身につけていてメロンのように大きな乳房とムチムチな太腿や下着がうっすらと見えていた。
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