第三章『天翔ける魔王』
第十五話『天下静謐』
―1571年―
「
「寺社は特権階級にありまする。天台宗の総本山である延暦寺の貫主 “
畏縮する光秀に、信長はこれまで溜め込んできた思いを吐露する。
「
境内に娼婦を連れ込み酒を浴び、物欲肉欲に翻弄されるは酒池肉林の権化――。高僧を多く輩出する山だが、権威に甘んじ修行を疎かにする者もまた多い」
「比叡山は京を狙う者にとって、北国路と東国路の四辻。浅井・朝倉を
光秀はある程度は同調しつつも、唸り声を漏らした。
「仏教は素晴らしい。だが僧兵どもは武力を以て朝廷に無理難題を
教徒には『来世で幸せになるために』と
「十貫文借り十日経てば、十二貫文の返済になると聞いた事がございます……」
「坊さんの格好をしながら人の道に背き、民を苦しめる悪逆の僧兵を、神や仏も憎んでおられる事だろう。
天道に適う行いこそ、仏神の
のべつ幕無し力説に心傾く光秀だが、慎重に信長の身を思い遣った。
「お言葉ですが、聖なる戦いと称し、目に見えぬ武装信者で溢れる事にもなりかねませぬ」
「一揆か……。宗教と武力、宗教と
我は、織田
京の都で風紀の乱れを取り締まり、秩序ある
私腹を肥やし民を顧みぬ権力を裁き、天皇を敬う国を取り戻さねばならん。
千年の歪みに揺れる天下を、平らかに――。
その為なら、第六天魔王となりて、全ての恨み憎しみを受け入れよう」
◇
残暑厳しい初秋、戦いを前にしても士気の上がり切らない家臣に、信長が声高に喝を入れ奮起させる。
「力を持たぬ女、子供でも、生き延びれば叛逆の火種!
この戦を悪とするならば、天下を治める為の必要悪と思え! そもそもこの山に女、子供などおらぬはずではないか!
仏堂・僧房は一棟も残さず、一挙に焼き払え! 但し、山の麓 坂本の
我々はこの比叡山を焦土とし、
信長と重い決断をし、真意を深く受け止めている光秀も、家臣を大いに煽る。
「抵抗する者は積極的に薙ぎ払え! 生きている敵は
焼き討ちの後、光秀は交渉の才だけでなく、合戦においても合理的で容赦無い“冷徹な武人”であるとの印象が付いた。
坂本城は琵琶湖に接す水城。物資の補給も可能な最強の防御力を持ち、また城下町も大津の港町として繁栄を極めた。
ただ、勝家をはじめとする譜代家臣や、秀吉ら実力ある近臣をも追い抜く大出世となり、
“本能寺の変”には『黒幕』がいた――。
この作品は史実を基にしたフィクションであり、作者の妄想が多分に含まれます。何卒ご容赦頂けますと幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます