第八話『月の掩蔽』
上洛戦の労を慰撫する宴が、
丹念に手入れされた庭園を眺むれば、真朱の
そんな美しく心和む雰囲気に皆、赤く染まった頬を緩める中、家臣
「将軍 義昭様からの『副将軍に任命したい』との申し出を、信長様は
酒の力を借りて詰め寄る勝家を、信長は冷静に諭す。
「権威を失った幕府の要職など、頂戴したところで何の得にもならん……。副将軍になってしまえば、“正式に将軍の臣下になった”と、天下に知らしむ事になるのじゃぞ」
――元々は信長の弟 信勝の重臣だった勝家は、信勝に家督を継がせようと積極的に信長討ちを働き、惨敗に喫した過去を持つ。
母に嘆願され、信勝や勝家らの命を取らなかった信長に、信勝は性懲りも無く再び謀反を企てたのだが……。其れを知った勝家は信勝を見限り、信長に密告。どうにか信長への忠誠を示す為、信長の眼前で信勝を毒殺したのだった――。
だがようやく
一方、柔和な性格の
笑顔の
「それは素晴らしい! そのどれも人や物の流れの中心地ですな。特に堺といえば天下一の兵器
近江の大津は畿内から北国への交易港。草津は東国への陸路の要衝。信長様は畿内全ての交易路を手中に収められた。ああ、誠にめでたい、めでたい!!」と手を叩きながら、軽やかな足取りで飛び跳ね、場の笑いを誘った。
此れには信長も満悦の笑みを見せ、大いに褒める。
「流石は秀吉! 見事な洞察じゃ。
有り余る富と鉄砲弾薬を独占し、西国から東国への交易路を押さえれば、敵対勢力の物資の流通を完全封鎖できるとみた。
「うむ。虚名より実利……」
酒宴の末席で光秀が小さく呟く。彼は幕府奉公衆となりながら、信長の配下で政務にも当たる両属状態にあった。
◇
信長は義昭の将軍就任わずか十日で、
“本能寺の変”には『黒幕』がいた――。
この作品は史実を基にしたフィクションであり、作者の妄想が多分に含まれます。何卒ご容赦頂けますと幸いです。
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