第五話『墨染の君』
そして信長から発せられた願いに、
「帰蝶、遺された三人の子の、母となってはくれぬか」……と。
「
「すまぬが、もう……、
――!!
帰蝶の腕が
唖然とする夫を、燃やし尽くすほど血に焼けた目で見据え、彼女は庭で遊ぶ子供達のもとへと走った。
迷い無く、
信雄と徳姫も帰蝶に寄り添い、子を失くした母と、母を亡くした子らの、
人に弱みを見せられぬ信長の、胸中を知る者は誰もいない――。
しかし、東からの侵攻を回避できるようになり勢力拡大に躍り出た事で、
彼の心は四面楚歌が響き渡る真中に置かれ、
初めて愛息を胸に抱いた時、“この子を脅しの道具にされれば、全てを投げ打ってしまうだろう”と感じたのだ。――だから手放した。
情けなく、帰蝶へ素直に打ち明ける事などできなかったが、左頬に震える手を当て、柱の陰で
◇
奥御殿に戻った帰蝶は、縁側に座る信長の背中に違和感を覚える。
「信長様、父上は貴方に惚れ込み、
彼女が焚き付ける熱で、押し寄せる葛藤の波と闘っている事ぐらい、信長には易々と理解できた。とは言え既に幾度も撤退を余儀なくされているのだ。
それでも「待っておれ。必ずや
何とか願いを叶えてやりたいと尽力を続け、家臣
とうとう斎藤家は滅亡し、信長は
◇
ところが、帰蝶が母親代わりとなり過ごす日々も、僅か数年で変化の
まだ幼い徳姫が、同盟を結んだ家康の
「女、子供はいつも、男の
二人のどちらも、声を掛け
信長との結婚前、帰蝶には政略結婚の末、死別した夫がいた。彼の死は明らかに不自然で、帰蝶と父
◇
一方、花菖蒲が彩り優雅な紫に染まる京では。
政治手腕と武勇に優れた誉れ高き将軍
✴︎次回、第二章『桔梗咲く道』に入ります。
“本能寺の変”には『黒幕』がいた――。
この作品は史実を基にしたフィクションであり、作者の妄想が多分に含まれます。何卒ご容赦頂けますと幸いです。
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