雪解水

みずようよ

第1話雪解水



雪解水


それは解りきってはいたがそれがいつなのか、

私は理解していなかった

もしかしたら彼だって本当はその時がいつくるのか自ずからとしてもわかってなかったのかもしれない


雪が水に変わるのは誰もが知っている

春の訪れとともに

されどそれがいつ何時かと言われると誰も知らない


私は彼に別れを切りだされた

この別れ話も唐突と勢いが相まって彼もなんだか別れの言葉が出たことになんだか驚いてるように私には見えた

いや、私には解った

私には彼の氷のような確かで冷たい氷が溶けてどこか慈悲のような流水が見えた 本当に

久方の水の温みを感じた

ただ同時にそれが解けはじめた雪解け水のような冷たさ透明さもあった


雪解けが氷解がまさか今日になるとは

3ヶ月後の記念日迄にはそうなると思ってはいたが…

春まで持たなかった


なんだろう?

雪が解けて水が流れるようになんだか忽ちに氷解したと言い表すべきだろうか


解ってはいた

私たちは冷え切った氷のような関係であった

常に寄り添いを厭い 触れれば痛む

近寄れば寒い氷のような関係であった

私たちは雪のような存在でもあった

風に簡単に惑うあやふやな存在

儚く消えては厚かましく降り積もるような存在

そして六花の花のように思い出だけは美しかった

触れ合えば簡単に汚れ、すぐに跡がつく存在

根雪のような長く固まり絡み合いくっつきあってそれ故に冷え切り別れ難く

しつこく残雪だった


しかし雪解けは始まったのだ

ただ始まったのだ


わからない

私たちは水をまだ得たことがない

形ない水をまだ知らない

流れゆく水をまだ知らない

どこへゆくかも

水が透明でいられるか濁るかもわからない

ただ確かなことは雪解水は必ず溶けてしまう

そう雪と水は同じなのに同時にはいられない存在

あとは溶けて溶けて

あとで解けて解けて

そして流れ変わるということだけ


もう変わらない

春が冬にならないかのように


涙が戻らないように

私の頬を涙が一筋流れた

水が

雪解水のようにじわりと

どんな思いか感情かはどうしても

どうしても言葉にはならなかった

雪のように形ある解りきるものではなかった

水のように形変わる捉えられないものであった

せめてお互い最後まで同じように流れに流れてしまいたい

それだけは解った

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雪解水 みずようよ @konbanya109

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