本意ではない殺人
痛む右手も、今ばかりはその痛みを堪え、力の限り振り抜いた。
殴られた男は地面に押し倒され、マシンガンを手放す。それを確認し、昇はすぐにマシンガンを蹴り飛ばした。
男の【ギフト】が武器頼りだというのなら、もはや男は丸裸だ。とはいえ、油断はできない。
その手にスマホを持っている限り、アイテムボックスで武器の購入はできる。
「スマホを奪えば……!」
すぐに、男からスマホを奪うべく駆け寄ろうとするが……地面が、揺れる。
次の瞬間、地面を割って出てくるのは、巨大なミミズだ。
しかも、その先端はぱっくりと開き、牙が見えている。だらりと涎を垂らして、目がないはずなのにその標的は、男を定めていた。
「っ、つつ、あの野郎……っ、ひ!」
地面に伏し、起き上がる男は殴られた箇所をさすりながら、自分を殴った昇へと視線を向ける……その、直前。ゾッとする気配を感じて、正面を向いた。
巨大なミミズの化け物が、まるで捕食者であるかのように、男を見下ろしていた。
「な、なんだこいつぁ……ひっ、いぃ!?」
その姿におびえ、後ろに下がろうとするが、腰が抜けてうまく立ち上がれない。
目の前で、とろい獲物を逃すほど、化け物もバカではない。口と思われる場所を大きく開け、男へと噛みつく。
鋭い牙は男の胴体に食い込み、バキバキと音を響かせた。
「ぐっ、あぁあ!?
た、助け……っ」
それも、一瞬のこと。次の瞬間には、男の体が丸ごと、呑み込まれた。
巨大ミミズの体が膨らみ、その部分に呑み込まれた男がいるのだとわかり、昇は口元を手で押さえた。
次第に、その部分が小さくなっていく。巨大ミミズの体内で、消化されているためだろう。
そうして、一匹の得物を自らの栄養に変えた巨大ミミズは……次の標的を、昇に定めた。
「! こ、のぉ!」
戸惑っていれば、やられる……男のような末路をたどるのは、ごめんだ。
昇は落ちていたマシンガンを拾い、それを放つ。素人でも、数撃てば当たる……まして巨大ミミズは的が大きい。
男の【ギフト】ありきの、無制限弾数だ。それがない今、弾の数に限りはある。弾が尽きてしまう前に、なんとか殺さなければ。
「ゲゲ……ギャシャァアアアア!」
耳障りな鳴き声を上げながら、巨大ミミズは倒れていく。
いくらでかくて、未知の化け物であっても、生き物であることに違いはない。武器は通用する。
巨大ミミズが死んだのを確認して、昇はようやく、大きなため息を漏らす。結果的に、男は巨大ミミズに呑まれ、それを昇が殺した。男の所持していた賞金は、丸ごと昇に移動したはずだ。
男は最後、昇の目を向け……「助けて」と言おうとした。自分で殺そうとした相手に、助けを求める……それは、どんな気持ちだったのであろうか。
「……気にしても仕方ないな。
それより、如月は……」
足を撃たれ、動けなくなっているレイナ。その安否が心配だ。
マップを見るに、近くに人はいない。が、一応アイテムボックスで弾を買い、拳銃にセットする。
マシンガンは、武器として強力だが、やはり扱いにくい。さっきは化け物相手だったし、使用していた男は【ギフト】のおかげで無限に攻撃することができた。
本来、持ち運びも不便なそれは、こうしたサバイバルに得策ではない。
「おーい、如月……」
マップを確認しても、陸也のようにいきなり現れる場合もある。周囲を確認しつつ、昇は呼びかけた。
先ほどから動かない、点が一つ。これはレイナのものだろう。
ゆっくりと、レイナへと近づいていく……そこには、こちらに背を向け、座り込んだレイナの姿。
ひとまずは無事なようだ。だが、傷の手当てもしなければいけない。
「おい、如月……!」
こちらに気付いていないのだろうか、レイナはうつむいたままだ。だから、昇は少し大きな声で言葉を投げる。
その瞬間、レイナの肩は震え……ゆっくりと、振り向いた。
その横顔に、先ほどまではなかったはずの、血がべったりとついていた。
「っ……おい、それ……
……そこにいるの、誰だ……?」
思えば、初めて会った時もレイナは、返り血に服を汚していた。それを思い出しつつ、昇は問いかけた。
直後、レイナの前になにかがあるのに気づく。……いや、なにかではない。誰かだ。
おびえた様子のレイナを見ながら、それの全容が見える位置へと移動して……昇は、言葉を失った。
「っ、おい、それ……子供……!?」
「……」
レイナの前で、血を流して倒れているのは……子供だった。うつぶせに倒れているので、男か女かはわからないが。
急いで、マップを確認している。表示されている点は、二つ……昇と、レイナのものだ。
しかし、レイナと子供は同じ位置にいる。だから、もしかしたら点が重なって一つに見えているだけではないかとも考えた。が……レイナの表情が、それを否定した。
昇を除けば、点は一つ……レイナのものだ。子供の姿は、表示されていない。
……つまり、死んでいる。
「お前が、殺したのか……?」
それは、聞くまでもないことだろう。しかし、自然と口から出ていた。
その質問に、レイナは肩を震わせる。その様子から、これが本意でないのはよくわかった。
自分を襲った男や、殺そうとしてくる人間を手にかけることも、ためらっていた彼女だ。そんな彼女が、進んで子供を殺すとは、思えない。
こんなデスゲームに、子供まで参加している……そんなこと、考えもしなかっただろう。
敵だと思って、動けないからとっさに手が出て、触れてしまって……その幼い命を、奪ってしまった。
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