デスゲーム狂いの男
人殺しだと、そう言われ……レイナの足が、震える。
レイナは男を殺そうとした……結果的に見ればそうだし、実際にレイナは行動に移した。
この手で、触れた人間が死ぬとわかっていて。
「わ、私は……」
それでも、自分は誰かを殺すつもりなんてない……あれは、体が勝手に動いただけ。
そんな、言い訳とも取れない言葉を続けようとして……
ドォン……!
と、爆撃が鳴り響いた。
「え……?」
「おっと、誰か気づいたみてえだな。だが、地雷にかかったか」
「地雷……?」
周辺に、参加者が集まっている……それは、化け物を殺したレイナが一番良くわかっている。あれだけの騒ぎがあって、人が集まるのは必然だ。
しかし、そのほとんどが化け物の死体周辺へ群がっているはずだ。
そのはずなのに、こっちに気づいて近づいてきた者がいる。その人物は、男の仕掛けた地雷にかかり、命を落とした……
つまりは、こう言っているのだ。
「おぉ、ちゃんと賞金が増えてやがる」
「……!」
レイナは、目の前の男が恐ろしくて、たまらなくなった。地雷を仕掛け、つまりはここに誰かが近づいてくると予想していたということ。
わかっていた上で、地雷を仕掛け、近づいてきた人物を罠にはめ……その結果、殺した。
それは、偶然地雷にかけてしまったとか、自分の意志とは関係なく、というわけではない。完全に、男の手の内だ。
男は、人が死ぬとわかった上でそれを仕掛け……それで、人を殺した。しかも、人を殺したことを後悔した様子もない。
先ほども感じたが……男は、このデスゲームを楽しんでいる。
その事実に、レイナは恐怖で足が震える。まさか、そんな人間がいるだなんて、思わなかったからだ。
「狂ってる……!」
「あぁ、そうか?
俺からしたら、こんな状況下で綺麗事を述べる奴が、一番狂ってると思うが、な!」
「ぐはっ!」
ケラケラと笑い、男は昇の体を蹴り上げる。ただでさえ弱ったところに、痛烈の一撃。
もはや、昇は動けまい。そして、レイナもまた、触れればアウトであると見抜かれた以上、近づけない。
それに、体格差が違いすぎる。その上、相手は地雷のような武器を購入している。他にもなにか、持っているだろう。
「じゃあ、おしゃべりはここまでだ。言っておくが、逃げてもいいが……さっきの奴みたいに、爆発しないように気をつけな?」
「!」
おまけに、なんとか気力を振り絞ったとしても、逃げ場がない。周囲に、地雷が仕掛けられている可能性があるからだ。
もちろん、仕掛けられた地雷は先ほどの一つの可能性もあるが……そこに、確実性はない。
地雷があるかもしれない……それだけで、動きは封じられる。
「じゃあな、女ぁ!」
「あ!」
男は、サバイバルナイフを取り出しレイナに飛びかかる。レイナは、まさか自分に突っ込んでくるとは思っていなかった。
触れればアウト、それを見抜かれている以上、男が自分に近づいてくることはないとおもっていた。
しかし……
「ぎ、ぃあぁあああ!」
鋭いナイフが、レイナの右肩に突き刺さる。動揺と痛みが、レイナから判断を奪っていく。
流れる血が、腕を流れ、地面を濡らす。思わず、その場に膝をついてしまう。
痛みに涙が流れ、目の前に立つ男を見上げる。この涙に、心動かされてはくれないだろうか。
……それが甘い考えだと、レイナが一番良く、知っている。
「せめて楽に逝かせてやる」
ギラリと光るナイフが振り上げられ……レイナへと、振り下ろされていく。
もはや、レイナに刃から逃げる力は残っていない。迫る凶刃に、とっさに目を閉じて……
「きゃっ」
急に吹き荒れた突風が、レイナの体をわずかに後ろへと傾かせ……ナイフは、レイナの眼前を過ぎ去っていく。
とっさのことに、レイナも、男も判断ができない。レイナを突き刺すはずだったナイフは、いきなり吹いた突風により空振った。
このタイミングで、あんな突風……運が悪い。
いや……レイナにとっては、『幸運』と言うべきだろう。
「お、らぁ!」
「なに!」
男の足に、なにかが絡みつく。正体を確認すると……そこにいたのは、先ほどまで情けなくうずくまっていた昇だ。
自分よりも小柄な男が、みっともなく自分に絡みついている。その姿に、男は……陸也は、大きな舌打ちをした。
「往生際がわりい、あのまま虫みてえにもがいてれば、楽に殺してやったのによ!」
「はっ……殺されるのは、ごめんだ……!」
ザクッ!
「っ!?」
瞬間、陸也の足首に鋭い痛みが走る。それは人為的によるものではない。
ナイフが……陸也の足首に、突き刺さっていた。ナイフがいきなり刺さるなど、そんなことはあるはずもない。
それをやったのは、今足に絡みついている、昇だ。
「っぅ……離しやがれ!」
「やな、こった……!」
陸也は、身体中を鍛えている……ナイフが刺さろうと、すぐに動けなくなるような、やわな鍛え方はしていない。
しかし、こうも動きにくい状況で、刺さったナイフをグリグリと動かされては、さすがに苦悶の表情を浮かべる。
その隙を、レイナは見逃さない。
「や、やぁ!」
「っ、ち!」
迫るレイナを、陸也はナイフで牽制。しかしその間も、足首の痛みは続いている。
三人は、膠着状態……しかし、それも長く続かないことは、誰もがわかっている。
陸也は、足に絡みつく昇を無理やり振り払い引き剥がすと、ナイフが足に刺さった状態のままレイナとにらみ合う。
なんという執念……足にナイフが刺さったままでなお、レイナを殺す算段をつけている。
なんと、デスゲーム狂いの男であろうか。
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