兼原 陸也1
『おめでとうございます。あなたは異世界への招待券を獲得しました。
これから皆さんには、サバイバル……すなわちデスゲームをしてもらいます。生き残った一人だけが、元の世界、つまり今いる現実世界に帰ってくることができます。
さらに今回のゲームでは、一人頭一億円の賞金がかかっています。一人殺せば、殺した者が殺した者の一億円を獲得できるシステムです。もう一人殺せばさらに一億円。このシステムは、直接殺していないプレイヤーの賞金も、ゲームの展開により変動します。
つまり、すでに二億所持しているプレイヤーを殺した場合。殺したプレイヤーには、殺されたプレイヤー一億分プラスそのプレイヤーが所持していた二億、計三億円を獲得することになります。
このサバイバルに参加しているのは三十一名。最終的に自分以外のプレイヤーを全て殺し、勝ち残ったプレイヤーは、その手に三十億の賞金と、自由を手に元の世界に帰ることができるのです。
それではみなさん、輝かしい未来のために、見事デスゲームを勝ち抜いてください』
「……ここは」
目を覚ました男は、空を見上げていた。地面に寝ころんでいたのだ……男は、ゆっくりと起き上がる。
ここは外、だろうか。しかし、なにがなにやらわからない。手持ちにあるのはスマホだけ、起動すれば意味不明な文面が送られてきていた。
近くには、クーラーボックスのみ。立ち上がった男の前にあった景色は、見下ろす限りの大きな森……そして、海。少し進めば、その先には崖。
これは夢ではない。かといって、今まで自分がいた場所とも違う。ならば、ここはなんだ。
手掛かりは、スマホに届いていた文面。そして、電話やメールこそできないが、他に閲覧できるものはある。
アイテムボックス、【ギフト】、自分が所持している懸賞金……少なくとも、今まで自分のスマホでは見たことのないものばかりだ。
「デスゲーム、ね……はは、ふざけてやがる」
これが現実と仮定して、サバイバルをデス『ゲーム』などと呼称しているなど。ふざけている以外のなにものでもない。
しかし、もしこれが本当に、デスゲームなのだとしたら……そう考えただけで、男の胸は高鳴った。
……
現場を目撃した別の仲間に取り押さえられ、拘束された陸也は……後に、暴力衝動を抑えられなくなった体と語った。
元々、陸也が自衛隊に入ったのは、昔から自分の内にある破壊衝動を抑えられると思ったからだ。そこでなら、どれだけ暴れても誰にも迷惑は掛からない……そう、思っていた。
しかし、日本という国は陸也にとっては退屈すぎたらしい。平和な日常は、彼の望んだ日常とは違っていた。彼の入隊理由を本当に理解していた人間はいなかったし、単純に彼が狂ったものとして、隊内でも持て余すことになった結果、時期に刑務所に移送されるはずだった。
「だったのに、目が覚めたらここに……どうなってやがる」
ただ人を殴っただけで、捕らえられた。別に殺したわけでもない。だというのに、それだけで捕まり……つまらない。つまらない世界だ。
しかし、このデスゲームというやつが、本当のものならば……
「……まずは、他に人がいるか確かめねえとな」
陸也はクーラーボックスを持ち、紐を肩にかけ、歩き出す。未知の場所だ、下手に動くのは危険。
なので、崖から充分に距離を取り、座る。動くのは危険な上に、ここは見晴らしがいい。こんないい場所を、手放す選択肢はない。
デスゲームと銘打ち、ここに書かれていることが本当なら……この島には、陸也を除いて三十人もの人間がいる。それらを、殴っても蹴っても……殺しても、なんの問題もない。
それどころが、殺せばそれだけ、金が手に入る。
「普通の奴は、こういうの怯んじまうんだろうなぁ」
陸也は、自分が他の人間と違うことは、とっくにわかっていた。こんな状況で、嬉々踊っているのは、自分が異常である証だ。
さて、手元にあるのは水。これさえあれば、とりあえず餓死することはないだろう。それも、有限ではないし、食料もほしいが。
このアイテムボックスというものならば、様々なものが買えるようだ。食料や水、日用品……
「! ほぉ、武器もあるのか」
武器の項目に、陸也はスマホ画面をスライドさせる指の動きを止めた。
そこにあるのは、拳銃、スタンガン、ナイフ、ライフル……爆弾にガス類まである。
とはいえ、ほとんどの武器は素人には扱えない。使用用途を間違えれば、自滅の可能性がある……それでも強力な武器を手に入れようとするならば、武器に精通しているか馬鹿かだ。
ならば、ほとんどの人間が求めるのは、ナイフか拳銃、スタンガン……接近しないと刺使えないナイフとスタンガンを思えば、遠距離射撃の拳銃が理想的だろう。
拳銃ならば、他の武器よりはわりと扱いやすいだろう。ドラマや、最近ならネットでも使い方を知ることができる。
……もっとも、本当に"本物"を手にして、ちゃんと扱える人間がいるのかは、疑問だが。
「さすがに、武器を使われちゃあ分が悪いか」
鍛え上げられた肉体であっても、弾丸一発で致命傷となる。肉弾戦ならたとえナイフを相手が持っていても制圧できるが、拳銃となれば話は別だ。
それがたとえ、素人相手だとしても。
だが、まずは……
「……お、本当に出た」
このアイテムボックスとやらが、本当に機能するのかどうか。購入して、どこにどう現れるのか。それを確認する。
そのため陸也は、適当な食料を購入する。比較的安いものだ。
購入した食料は、その場にパッと現れた。なにもない場所に、出てきたのだ。
「どうなってやがる……ちゃんと、食えるな」
あり得ない光景だ。しかし、ちゃんと触れるし、食べられるし、味もある。
世間で人気になっている、ぶいあーるというものではないようだ。
なるほど現実を帯びてきた、デスゲーム。アイテムボックスでものを購入できるし、後試さなければならないことは……
「ひ、ひぃい! 助けてぇ!」
「!」
……人を、本当に殺して、その後どうなるか……だ。
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