如月 レイナ1
『おめでとうございます。あなたは異世界への招待券を獲得しました。
これから皆さんには、サバイバル……すなわちデスゲームをしてもらいます。生き残った一人だけが、元の世界、つまり今いる現実世界に帰ってくることができます。
さらに今回のゲームでは、一人頭一億円の賞金がかかっています。一人殺せば、殺した者が殺した者の一億円を獲得できるシステムです。もう一人殺せばさらに一億円。このシステムは、直接殺していないプレイヤーの賞金も、ゲームの展開により変動します。
つまり、すでに二億所持しているプレイヤーを殺した場合。殺したプレイヤーには、殺されたプレイヤー一億分プラスそのプレイヤーが所持していた二億、計三億円を獲得することになります。
このサバイバルに参加しているのは三十一名。最終的に自分以外のプレイヤーを全て殺し、勝ち残ったプレイヤーは、その手に三十億の賞金と、自由を手に元の世界に帰ることができるのです。
それではみなさん、輝かしい未来のために、見事デスゲームを勝ち抜いてください』
……どうして、こんなことになってしまったのだろう。
如月 レイナは、いつものように自分の部屋で目を覚ました……はずだった。
しかし目の前に広がっていたのは、いっそ憎たらしくなるくらいの青空で……自分が、外で寝ていることを理解するのに、そう時間はかからなかった。
ただ、理解はできても、納得できるわけがない。自分は、ちゃんと部屋で寝たはずだ。なのに、なぜこんな外で寝ているのだ。それに、今着ているのは就寝時に着ていたパジャマでも、ない。
いつも自分が愛用して部屋着にしている、動きやすい服装だった。
まさか、テレビのドッキリだろうか。あり得る。最近はアイドルでも芸人のような扱いを受けると聞いたこともあるし……だが、いくら寝ているとはいえ、人一人をこんな場所に連れてこれるだろうか?
ここは、都内……ではない。目の前には、青空に海。背後には森。
まるで、どこかの島だ。
「ねえ、誰かいるんでしょ!?」
ここがどこかはわからないが、レイナはそれほど深刻には思っていなかった。
ここでどう行動するかが、今後のアイドル人生を左右する……これは、テレビのドッキリ企画かなにかだと、まだそう考えているためだ。
如月 レイナは、今絶賛売り出し中の高校生アイドルだ。始まりは街中でのスカウト。そのルックスや歌のうまさから、無名時代から一気に駆け上がり、今やテレビをつければレイナの顔を見ない日はないほど。
だが、視聴者というのは、刺激を求める生き物だ。かわいくて、歌がうまいだけでは生き残れない……だから、いつか多少は過激な仕事も来ると思っていたが。
「もぉ、どこよここー!」
まさか、島に一人置き去りにされる、なんてことがあるとは、思っていなかった。
……そうやって、姿の見えないスタッフに話しかけて、どれだけの時間が経っただろう。なんの反応もない、レイナの声だけが、ただ虚空に響いていく。
いくらなんでも、動きがなさすぎる。声も叫びすぎて少し枯れている。
そういえば、近くにクーラーボックスのようなものがある。恐る恐るそれを開けると、中にはペットボトルに入った水が六本。市販のペットボトルに入っている、コンビニなどでよく見る水だ。
もしや、一人でこの島を脱出してみろ、ということだろうか。とりあえず、渇いた喉を潤す。
「……いや、無理でしょ」
見渡す限りの海……ここを泳いで渡ろうなどと、そんなもの命を捨てるような行為だ。
まさかスタッフも、そんなことをさせようとしていないだろうが……イカダでも、作れというのだろうか。女の子一人に、それは不可能だ。
途端に、レイナの中に不安が生まれる。これは、本当にテレビのドッキリなのか?
そう思った彼女は、なにかないかと体を探り……ポケットに、スマホが入っていることに気付いた。
よかった、これで助けが呼べる。これがテレビのドッキリでも、さすがにこのままというわけには……
……いや、もしかして、これは誘拐なのではないか? だとしたら、本格的に助けを呼ぶことも考慮しないといけない。
「……え?」
スマホの画面を見て、何度かマネージャーに電話をかけて気付いた……アンテナが、立っていないことに。だから電話は、かからない。
このご時世に、アンテナが立っていないなんてこと、あり得るのだろうか? その瞬間、けたたましい着信音が鳴る。まさか電話かと期待したところで、確認すればどうやらメールのようだ。
この際、なんでもいい。きっとスタッフだろう。今日は朝から、仕事が入っているはずだ。
そう期待して、メールを開いた……その内容は、とても信じられないものだ。
だって、そうだろう。
……たった一人、生き残りをかけたサバイバル……デスゲームをしようだなんて。
「なによ、これ……」
そこに書かれていた内容に、声が震える。サバイバル? デスゲーム? 生き残れるのは一人だけ?
ドッキリの延長戦……だとしたら、趣味が悪すぎる。
「ね、ねえ! 誰か見てるんでしょ!? さ、最近のテレビってすごいことするのね……でも、私には、少し難しいかなって……!」
これがまだ、テレビのドッキリである可能性は残っている。
逆に言えば、誘拐の可能性は消えただろう。そもそも、誘拐犯が、誘拐した人間のスマホに、メールを送るわけがないし……
もし誘拐なら、スマホを持たせたままにしておく、はずがない。
……声は虚空に、消えていく。
ドクドクドク……と、心臓の音がうるさい。本能的に、感じたのだろうか……これは、なにかおかしいと。
「はっ、はっ……」
スマホを見て、画面をタップするが……なにも反応しない。電話もかけられない、メールだって……
……いや、どこか変なところをタップしたのか、画面が切り替わっていた。
これは……マップ、だろうか。じっとしている赤い点……そして、なにやらこちらに近づいてきている、青い点が一つ。
なんだろう……とても、嫌な予感がする。
「これ…………え、近くに誰か、いる?」
これは、人間か……そう感じて、自分以外にも誰かがいることの安堵と同時……なぜか、それ以上の不安が押し寄せてきた。
今、自分に近づいてきている人。それに、状況を説明してもらおう。きっと、なにか知っているはず。
……そのはず、なのに……レイナの足は、いつの間にか動いていた。
暗い、森の中へと……
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