丈二 アラタ
…………
「いやぁああ!!」
「ぐへへはは、おとなしくしろ!」
少女の声が、響く。ここは森の中だ、声はよく反響する。
その声に呼応するように、鳥たちは鳴き、一斉に羽ばたいていく。バサバサバサ……と、羽ばたく音が追加された。
今、少女は襲われている。誰に? もちろん、このデスゲームの参加者にだ。
少女は、一人の男に押し倒され、その口を大きな手のひらで塞がれていた。体はがりがりだ、男といえど対抗できない体格差とは思えない。
だが暴れようにも、お腹に乗られてうまく抵抗できない。おまけに、男の血走った目は少女の恐怖心を煽っていく。
そんな少女の、かわいらしい抵抗に、男は下卑た笑みを浮かべる。
「へへへ、ラッキーだぜ。まさかあの、高校生アイドルの如月 レイナを見つけられるなんて!」
「んん!」
「あんたみたいな、スターでもこんなゲームに参加してるんだな……まあ、それはどうでもいい」
言いながら、男は少女……如月 レイナの身体を、舐め回すように見つめていく。
まだ発達しきっていないとはいえ、その身体は異性の目を惹くに余りある。むしろ、成長期でこれだ、あと数年後が楽しみというもの。しかし、このデスゲームのルールに則るならば、その数年後はおそらく、彼女には訪れないだろう。
彼女にデスゲームを生き残れるとは、思わないからだ。
その美貌は、さすがアイドルというだけある……大きな胸元、引き締まったウエスト、細く長い脚。その気になればモデルだって余裕だろう。
数年後があれば、いずれは女優という転身もあったかもしれない。
男の名は、丈二 アラタ。彼女のファンだった。今や、彼女を知らない者などいない、それほどの有名人だからだ。
まさかこんなところで、憧れのアイドルに会えるとは驚きだが、本人も言ったようにそのあたりの事情に興味はない。
アラタは、如月 レイナの身体を眺め舌なめずりをする。その仕草に、彼女が身体を震わせるのすら、極上のスパイスだ。
このデスゲームは、生き残り制のサバイバル。元の世界に帰るためには、最後の一人になるまで相手を殺し尽くさなければならない。逆に言えば、最後の一人になるまでこの島から帰る術はない。
……なぜ、元の世界に帰らなければならない?
『レイナ、その男は誰だレイナァ! 俺を裏切ったのか!』
……アラタは、刑務所の中にいた。その罪状は、ストーカー被害及び暴行罪。行き過ぎたファンの暴走行為は、彼の逮捕という形で幕を閉じた。
これまで応援していたアイドルレイナの、熱愛報道。それを目にしたアラタは、我も忘れて相手の男に殴りかかったのだ。
結末として、アラタは裁判が始まるまでの間を、冷たい牢獄の中で過ごすこととなった。
そんなとだ。このおかしな事態に巻き込まれ……はじめこそ困惑したが、アラタはすぐに歓喜した。
『この島ではなにをしようと、元の世界に戻ったあなたが罪に問われることはありません』
なんせここには、人の作った法も、煩わしい人間関係も、なにもない。
ここにいるのは、自分を除けばたった三十人。その誰もが、元の世界に帰るために人を殺しているのだろう。つまり、法を犯している……同じ穴のムジナだ。
だから、自分がなにをしようと、それを咎められるいわれはない。
まずは、目の前にいる女を自分のものにする。元の世界では異性と触れ合うことすらなかった男が、こうしてアイドルと……なんという幸運だろう。
まずは一度……その後は、どこかで拘束でもしておいて、定期的に自分のものだと教え込む。そうすれば、いずれは自分から懇願するはずだ。あなたのものになりたいと。
この先の楽しみに、胸が踊る。
「んんん!」
「へへ、無駄さ。どれだけ暴れようとな」
ここは森の中。島の広さがどんなものか正確にはわからないが、マップを見る限り周囲に人はいない。
それに、口も押さえてある。助けを求めても誰にも聞こえないし、そもそも少女を助けようとするかすら疑問だ。
ビリィッ
手に持っていたナイフで、服を切り裂いていく。これだけで、ほんの小さな抵抗さえ息を潜めていく。
誰も助けには入らない。残る不安要素は、少女の【ギフト】だが……それも、なんの意味もない。
なんせ、男の【ギフト】『
そう、少女がなにをしようと無駄なのだ。どんな攻撃が来ようと、この硬度を破ることなどできはしない。
安心して、行為に及ぶことが出来る。
この後の展開に、頬の緩みが止まらない。まずは、まるで見せつけるようにそこにある、大きな胸をこの手に鷲掴みにする。極上の柔らかさだ。
自然と息は荒くなり、本能の赴くまま体は動く。さて、存分に堪能したならば次は直接だ。邪魔な布地を切り裂いて、直接……
「……ぁ?」
……ふいに、景色が変わった。つい先ほどまで、女の泣き顔を見ていたはずだ。それがどうして、視界の先には木がある? 女が消えたのか?
いや、彼女のぬくもりは、この手のひらにちゃんと伝わっている。ならば、これはいったいどういう……
……違う。景色が変わったのは……自分の首が、反転しているからだ。
しかも、これは自分の意思ではない。勝手に、首が動いている。
「あ、ぎぎ……!?」
本来、曲がらない方向に曲がる首は、本人の意思とは関係なくねじれていく。声を出す器官も、同様にねじれているのか……うまく、声が出ない。
いや、声なんてどうでもいい。痛い、痛い痛い。首がねじ切れてしまいそうなほどに、痛い。どうしてこんな目に遭わなければならない。痛い痛い、いやだ痛い、まだやりたいことが痛いたくさんあるというのに痛い、なんでこんな痛い、わけのわからない痛いデスゲームなんかに巻き込まれて痛い痛い痛いいた……
ボギンッ……
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