平井 昇5
『平井 昇さん、おめでとうございます。プレイヤー一人撃破につき、相手プレイヤーの所持していた二億円が譲渡されます。
現在、あなたの所持金は三億円です。目標の三十一億円を目指し、頑張ってください』
……それは、差出人意味不明のメール。しか、送り主はわかっている……このデスゲームとやらを仕組んだ、何者かだ。
このタイミングでのメール内容。そして、『相手プレイヤーが所持していたのは二億』という文。
さっき、自分を殺そうとした男に、間違いはないだろう。
男は、昇と会う前にすでに一人、殺していた。男が元々持っていた一億と合わせれば、二億となる。
……それは、つまり……
「……俺が……人を、殺した……?」
状況だけを見るならば、正当防衛に加えて事故、という結論だ。
しかし、状況はそうでも、昇の心はそれで割り切れない。
この手で、人を突き飛ばし……その、命を奪った。
誰かを手にかけるなんて、これまでもこれからも、一生縁のないことだと思っていた。昇は大学生、人生もまだまだこれからだ。
だと、いうのに……
『この島ではなにをしようと、元の世界に戻ったあなたが罪に問われることはありません』
ふと、メールの文面が思い出された。
あの男も、こんな気持ちだったのだろうか。人を殺してしまい、もうどうしようもなくなって……ただ、すがるしかなくて。
……だからって、その数を重ねていいなんて、そんなのあっていいはずがない。
「……とにかく、移動しないと……」
ここに残っていては、また誰かに狙われかねない。マップを見れば、近くに人がいないことはわかるが……それでも、一か所に留まるのは危険だ。
男の姿を確認しに行く気には、なれなかった。なぜだか、あのメールに書かれていることは正しいような気がして……もう男は、息絶えているのだと。理解してしまった。
昇は、男が落としたままだった拳銃を拾う。撃ち方なんてドラマやアニメでしか見たことがないし、撃つつもりもないが……防犯として、持っておいて損はないだろう。
その場を後にし、まずは落ち着ける目指す。
……なにか、水の音が聞こえている。
「……そういえば、俺の【ギフト】ってなんなんだろうな」
ただ歩くだけ……以外にも、出来ることはある。昇はマップを確認し、近くに人がいないと判断して画面を操作する。
自分に与えられたという【ギフト】、それを確認できるはずだ。
先ほどの男は、影に針を刺しその箇所の動きを封じる……というものであった。
昇も、似たような【ギフト】になるのか。それとも……
【ギフト名:
:あなたの身の回りで幸運が訪れます。
・発動条件
???
「……は?」
その文面を見た瞬間、昇は間の抜けた声を上げてしまう。思わず、笑いそうになってしまうほどだ。とはいえ、それも仕方ないことだろう。
どんな攻撃的な、もしくは補助的な【ギフト】かと思えば……『幸運』などと、ふざけているのもたいがいだ。
しかも、なにやら発動条件なるものがあるようだが……その項目が、はてなとは。
まったく意味が分からない。それでは、【ギフト】の発動もなにもないではないか。
「俺のどこが、幸運だって……」
ぼやく途中で、昇は気づく。
先ほど、男の拳銃は暴発した。それに、直後男は転倒した。どちらも、昇にとって都合のいいことだ。
幸運とは、その者にとって都合のいいことが起こる現象、と考えていいだろう。
つまり……あの男の身に起こったことは、昇の【ギフト】も影響しているのか?
……その結果が人殺しとは。そのおかげで助かったのかもしれないが、とんだ幸運もあったものだ。
それに……
「そもそも、このデスゲームに巻き込まれたこと自体、不幸だっての」
昇自身、こんなデスゲームに参加させられる覚えはない。
誰か、昇に恨みを持っている……いるとしても、殺されるほど恨まれている覚えはないし、だとしても自分以外にもプレイヤーとされる人がいることが謎だ。
それとも、誰かが殺したい……すなわち殺されるべきと判断された人間同士で、殺し合いでもさせようというのか。そうなら、とんでもない悪趣味だ。
賞金とされるお金も、プレイヤーのやる気を出させるためだとしたら、まあ筋は通るが……
「金、か……」
一人頭一億、全部合わせて三十一億など、とんでもない額だ。
もしも最終的に生き残りが三十一億円を貰えるのだとしたら、そんな大金を用意できるのはもはや一個人ではあり得ない。
金持ちの道楽に巻き込まれただけ、という線もあり得る。
あるいは……
「借金……」
昇には、借金がある。さすがに三十一億円などという途方もない額ではないが。
昇は、自分以外にはまだ一人しか人と出会っていない。最悪のファーストコミュニケーションだったが、あの人もなんらかの借金があったのだろうか。
もしまた人と会ったら、デスゲームの謎を解くための手掛かりを……
「……いや、もう誰とも会いたくないな」
すっかり、昇は人間不信になりかけていた。それもそうだ、あんな優しそうな男が、自分を殺そうとしてきたのだから。
だいたい、デスゲームの謎なんて突き止めてなんになるというのか。自分がここにいる理由は気になるが、そのために危険など冒せるはずもない。
すべてが終わるまで、誰にも見つからないところでひっそりと……
……すべてが終わるまでとは、いったいいつのことだ?
「! 湖だ……」
少し前から聞こえていた、水の音。それに従い、歩いていた。
開けた場所に出ると……その先にあったのは、大きな湖だ。見た感じ、澄んでいてきれいだ。
マップを確認すると、周囲に人もいない。
とりあえずは、ここで休息を取ろう……昇は、落ち着ける場所を探して、移動していく。
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