第一章「白と灰との邂逅」

第一章 - Ⅰ

 十月も下旬になってくると、一気に肌寒さが増して冬の足音が近づいてくる。そろそろコートの出番だ。今年の冬は暖冬になって欲しいと切に願いつつも、結局いつも通りの寒さが訪れるのだろうと思うと少々気が滅入ってしまう。それでも、僕は夏よりは冬の方が好きだ。ただ、彼女たちはどうなのだろう。そういえば聞いたことがなかった。

「ねえ、クレイン」

 傍らの「彼女」に声を掛ける。既に高校指定のブレザーを着て、スクールバッグを携え、いつでも家を出られる体制の「彼女」はこちらに向き直ると、ゆるりと首を傾げた。

「なあに、タカト」

 息を飲むほど綺麗な白銀の髪が、彼女の肩から滑り落ちる。彼女の名前はクレイン。僕たち人間とは違う、異世界の存在だ。色々と訳があって今は人間に擬態しているが、夜になるとこの世界に蔓延る異形「ヒドゥン」を狩る「執行兵」として活躍している。彼女の戦いは、あの夏の日に一区切りは付いたのだろう。それでも、まだ彼女は戦い続けている。彼女の両腕に装備された銀色の腕輪が、その証拠だ。

「気になったんだけどさ、クレインって夏と冬ならどっちが好きなの?」

「そうね……冬は寒いからあまり好きではないけれど、人間の世界の夏も暑すぎて耐えられないし、どちらかと聞かれると迷うわね。正直、今の季節が一番好きだわ」

 人間の世界で「秋」と呼ばれる季節はもうすぐ終わりを告げ、寒々しい冬がやって来る。彼女たちと過ごす、二回目の冬。既にあの夏の日から一年以上の月日が経過している。クレインがアミナを倒し、自らの仇討ちに終止符を打ったあの日から、クレイン、ホノカ、ササコ先輩以外の執行兵の姿は見ていない。アミナがクレインたちの世界に遺してきたという「次世代のディカリア」の存在も、結局は不明のままだ。平穏無事にこの生活が過ぎていく事は喜ばしいことだが、何処か引っ掛かりを覚えている自分も確かにいた。

 それでも、傍らのクレインは気丈だ。

「朝から浮かない顔をしているわね、タカト。大丈夫、最近はヒドゥンの数も減ってきているし、何かあっても私とホノカで対応するわ。だから今日も頑張りましょう、書記兼会計さん」

 微笑みを交えて放たれた最後の言葉に、僕も思わず苦笑を零してしまう。そう言われてしまえば仕方がない、よくよく考えてみれば今の生活だって十分に忙しいのだ。たまにはそれに忙殺されるようなことがあってもいいかもしれない。

 クレインの言葉をそのまま返すように、僕も声を投げた。

「そうだね、副会長」

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