デストロイエンジェル2 -宵闇の堕天使-
零時桜
デストロイエンジェル2-宵闇の堕天使-
プロローグ「堕天使の慟哭」
プロローグ
「う、ぁ……あああああッ!!」
仄暗い洋館の内部、大広間に響き渡る声。それは、誰かに助けを求める悲鳴のようにも聞こえた。重厚な樹木で作られたアンティーク調の椅子に座らされ、四肢を拘束された灰色の髪を持つ少女。そして、彼女の苦悶に満ちた表情を見つめる、白い髪の少女。拘束された少女とは対照的に、その白い髪を持つ少女は何処か恍惚ともいえる顔で、真っ赤な舌で己の唇を舐めた。
「あらあら、こんな序盤で終わりなのかしら。興覚めですわ」
「……ッ、はぁッ、はーっ……私、私は――!」
「ああ、そうですわ、その意気。私、限界まで足掻いて足掻いて、足掻き切って、それでも至らずに絶望する貴女の表情が見たいのです。ほら、まだ足掻けるでしょう? 抵抗する意思が残っているでしょう?」
白い髪の少女が灰色の髪の少女へ歩み寄り、その肩に真っ白な指を這わせる。大きく身体を跳ねさせる灰色の髪の少女。白い髪の少女は更に言葉を続けた。
「怖がらなくてもいいのですよ。ふふ、このまま貴女の意識を壊して、私のお人形さんにしてあげたいくらいです。でも、それをするとお姉様に怒られてしまうの。もどかしいわ」
「う、ッ……馬鹿に、して……!」
「その表情、その瞳……堪りませんわね。ねえ、もっと見せて頂戴。こちらも痛みと、苦しみをあげますわ」
白い髪の少女は自らの翡翠色の瞳を輝かせ、まるで狩人のように逃げられない少女を見据える。そして、次の瞬間。目に見える変化はない。第三者が見たら、誰かが何かをしたなどとは到底思えない。だが、灰色の髪の少女は瞳を大きく見開いて、その口から再び絶叫が溢れた。
「く、うぁッ……っぐ、ああッ、いやぁぁぁッ!!」
口から零れる唾液と、ガクガクと震える華奢な身体。
「とっても素敵。もっと、もっと聞かせて――」
薄く開いた翡翠色の瞳は更に少女の悲鳴を求めるように輝いた。しかしその刹那、音を立てながら大広間の重い扉が開かれる。
「そのくらいにしないか。ここから先は、彼女の身体を痛めつけるだけだ」
扉の奥に立つ、白衣を着た女性。オリーヴ色の髪と、白い髪の少女と同じ翡翠色の瞳。左目に掛けられたモノクルがきらりと光ると、白い髪の少女は身に纏ったワンピースの裾を持って、恭しくお辞儀をする。
「あら、お姉様。今日の研究はもう終わりなのですか? ちょうど夕食の準備をしようかと思っていたところですわ。お姉様も如何?」
「君にとっての「生き甲斐」は、夕食よりも大事な時間なのかい? 私に嘘は通用しないよ」
「ふふ、さすがお姉様。私のことは全てお見通しというわけですわね」
白い髪の少女が鈴を転がすように笑うと、お姉様と呼ばれた白衣の女性は、ポケットから何かを取り出して口に咥える。彼女が愛用している紙巻き煙草。煙草と同じように取り出したライターを使い、慣れた手つきで火を点ける。彼女が息を吸い吐き出すと、大広間に紫煙が浮かんだ。
「ふぅ……まあ、いいさ。それを壊さなければ私は何も言わない。そもそも言える立場でもないからね」
「今日は随分と寛大ですのね。そうしたら、お言葉に甘えてしまおうかしら。お姉様の見ている前で、この子を痛めつけてあげますわ。もちろん、壊さない程度に」
「ただね、それにも限度が――」
「壊さなければ問題ないのでしょう? ふふ、私、永遠にこれで遊びたいですわ。私が拾ったものとはいえ、任せてくださってありがとうございます、お姉様」
ふたりの会話を耳にしつつ、灰色の髪の少女は荒い息を整えた。これから始まる本格的な拷問に、耐えるために。
白い髪の少女の口が歪む。獲物の耳元に、そっと囁くように。
「――さあ、お楽しみはこれからですわ。私の可愛い「クローネ」……」
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