第4話 スキル「泥棒」の力



 日は沈み、ヤスト達は山奥の宿屋で一夜を過ごす事となった。

 ルーカスはヤストの「泥棒」スキルの力を試そうと、宿屋の外へと向かった。

 


 「じゃあいくぜ?ルーカスさん!」

 「オゥ!こいよ。少年!手順はさっき説明した通りだ」


 ヤストは右手の掌をルーカスに向けてスキルを発動する。

 「ルバリ!!!」

 ヤストはそう唱えると開いた掌を強く握った。

 

 「おー!すごいぞ!少年!見事に盗まれてやがる!」

 ヤストはそっと掌を確認する。そこにはさっきまでルーカスのポケットに入っていた硬貨が握られていたのである。


 「シャワー先に浴びさしてもらったわ。ルーカスさん、どうだった?ヤスト君のスキル」

 「お、来たか。ロア。今の少年の力じゃ、10M付近の相手、さらに掌で掴める物までが限界だろう。明日の作戦では十分に使える」

 鎧から寝巻きに着替えたロアが、ヤスト達の元へと向かってくる。


 ――ウォォォォォ!パジャマ姿のロアさんも美しい……ってかブラの紐見えてますけどォォォ


 「そう。けど結界から取り出せるか、まだ試してないんじゃない?ヤスト君、その硬貨かしてくれない?」

 「おっと……そうだったな。頼めるか?」


 ヤストはスキルで盗んだ硬貨を渡した。

 「ってかルーカスさん。さっきみたいにロアさんに敬語じゃないんだね?ロアさんもルーカスさんの事を呼び捨てじゃないし」

 「鎧着て任務に就いてる時は、立場上ロアに敬語を使ってんだ。一応王族だからよ。コイツは俺の親友の娘なんだから普段は敬語なんて使わねぇよ」


 ルーカスはロアの父親、つまり英雄ロイド・アルテッツァの親友だった事を告げた。

 

 「そういう事。だから私も普段はルーカスさんを呼び捨てにはしないわ。って事はさておき、この硬貨に結界を張るわよ?」


 ロナは詠唱する事なく結界を硬貨に張った。

 丸い形をした金色の結界が硬貨を覆う。この結界は王族しか使う事の出来ない強固なものらしい。

 

 「じゃあヤスト君。この結界から硬貨を取り出せる?」

 「分かりました。やってみます!」

 ヤストは大きく息を吸いスキルを発動させた。


 「ルバリ!!!」

 その瞬間、結界の中から硬貨は消えヤストの手の中へと移動した。


 「完璧ね。この作戦いけるわ」

 ロアは作戦の成功を確信したようだ。

 

 「けどこのスキルってどこで使うの?ロアさんとルーカスさんで盗んだ奴から奪い返すんじゃ駄目なの?」

 「……そうはいかないの。封印の水晶に張られてる結界魔法はお父様が構築したもの。本来なら触れる事すら出来ないのに結界が発動したまま持ち去られたの」

 魔族と無数の上級魔獣が封印された水晶。『聖剣』ロイド・アルテッツァが構築した結界は触れる事すら出来ない筈なのに何故盗まれたのか?

 ヤストは疑問を募らせる。それに気づいたルーカスは、ある仮説をヤストに説明した。

 

 「協力者がいるんだよ。少年。水晶を盗んだ輩じゃ、ロイドが作りだした結界を持ち出す事は不可能だ。俺の仮説ではあるが……恐らく“魔族”」

 「魔族って!魔境侵攻の時に全て封印したんじゃ……」

 「あぁ……民衆の不安を煽らない為にそうなっているが、5人いる魔族の内“1人だけ“ロイドは逃した。これが事実だ……」

 ルーカスは衝撃の事実をヤストに打ち明けた。


 「だからその結界から水晶を取り出すのがヤスト君のミッション。改めてだけどやってくれるかな?」

 ロナは問いかける、しかしヤストの答えは一つだった。


 「当たり前!やります!王都で成り上がる為の第一歩だ!」

 即決したヤストに彼女は微笑んだ。

 

 「なら決まりね。期待してるわ」


 ――何かスゲぇ気がする。俺のスキル。今なら何でも手に入りそうだ。いつかロアさんの恋心も……


 「ルバリか……」

 ヤストは部屋に戻る、ロアの後ろ姿に向かって呟いた。

 

 「キャ!!!え!!!?何で!?」

 ロアが顔を真っ赤にして叫んだ。

 「ロアさん!どうしたの!?だいじょう……ぶ?」

 ヤストの手のひらに握られいたのはピンク色のブラジャーだった。


 「ヤスト君……これはどういうつもりかしら……」

 「あ、えっと……これは……」

 鬼の形相で振り返るロアにヤストの背筋は凍りついた。

 「思春期だな。ショ・ウ・ネ・ン!」


 作戦決行は明日。ヤストにとって初の初陣となる。


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