第3話 旅立ち



 「じゃあな!泥棒クン!」

 「クソ親父…… まだそれ言うか…… 親父も体気をつけろよな。じゃあ行くわ……」

 ヤストは身支度を済ませ、家を出ようとしていた。

 

 「ちょっと待て!ヤスト!これ持ってけよ」

 ヤストの父親、エドワードは風呂敷に包んだ弁当箱を手渡した。

 「ロアさんと、ルーカスさんのもあるから食ってくれ。昨日から仕込んでたんだ。美味いぜ?」

 「お父様、お気遣いありがとうございます。楽しみです!」

 「俺も丁度腹減ってたんです…… お気遣い感謝します」

 ロアとルーカスは感謝を伝えると、2人は風呂敷から漂う、食欲をそそる匂いに目を見合わせた後、微笑んだ。


 「オイ!ヤスト!何かあったらいつでも帰ってこい。ここはお前の家なんだからよ」

 「父さん……」

 

 ――ヤベェ……泣きそう。母さんが死んでから、男手一つで俺を育ててくれたんだ!感謝してもしきれねぇよ……


 「あ、あと弁当食ったら風呂敷は捨てるなよ。それを顔に巻いて仕事しろよ?なんたってお前はド!・ロ!・ボ!・ウ!なんだからヨ!」

 「クッ! クッ! クッ! クソ親父がぁぁぁぁ!!!二度と帰るか!バカ野郎!!じゃぁな!せいぜい体には気をつけろよ!」

 最後の最後に冷やかしたエドワードに、ヤストは激怒して家を飛び出した。


 「ちょ、ちょっとヤスト君!?お父様、ヤスト君は私達にお任せ下さい。では、失礼します!」

 ロアはエドワードに一礼すると、ヤストの後を追い外に出た。

 

 「なら息子を任せたぞ。ルーカス」

 「分かってます。”エドワード副聖騎士長”」

 「元!副聖騎士長な!本当に息子を頼む……」

 エドワードは深々と頭を下げた。

 ルーカスは一礼し、ヤストの家を後にした。


 「ソフィア。ヤストも立派に育って行っちまったよ…… よっしゃ!店支度すっかな」

 エドワードは大きく伸びをし、下の階のレストランへと向かった。

 

 「ヤスト君、君は人気者なのね」

 ロアが外に出ると、そこには大勢の人々が、ヤストの門出を祝う為に集まっていた。

 

 「ねぇねぇ!ヤスト!行っちゃうの……??」

 「いつ帰ってくるの?また遊ぼうよ……」

 「うぇぇぇん!ヤストォォォォ!!」

 ヤストは村の子供達にとって兄の様な存在だった。

 

 「お前ら…… 安心しろ。たまには帰ってくるからさ」

 「ゴホンッ!ヤストよ。まさかコバルト村から犯罪スキルが生まれるとはな」

 「村長…… 今までお世話になりました」

 ヤストは杖をついて歩く白髪の村長に感謝を伝えた。

 「お前が優しい子なのは村中の人々達、全員が分かっておる。王都へ行ってもお前らしく生きるといい」

 

 ――村長…… いつも怒られてばっかだったけど、よく見てくれてたんだな


 「まぁ泥棒スキルなんて付いたのは、お前がワシの家になっている柿を盗み食いしてるからじゃ!ワッハッ!」

 

 ――バレてたのかよ…… ありがとう。みんな。俺コバルト村で育って良かったよ


 「ヤスト君。名残り惜しいけど、そろそろ行くわよ?ルーカス、イコを呼んで」

 「はい。仰せのままに。イコ!!!」

 ルーカスは甲高く指笛を鳴らした。

 

 「ガァァァァァ!!!」


 巨大なワイバーンが空から舞い降りて来た。ワイバーンの背中には数人が座る事の出来る椅子が備え付けてある。


 「じゃあイコに乗ってくれるかな?」

 「人生初ワイバーンだ……上手く乗れるかな?」

 「オイオイ。少年が操縦する訳じゃねぇんだぜ?気楽に乗り込んでくれよ」


 ルーカスはワイバーンの首の付け根付近にある席に座り手綱を手に取った。


 「ちょ、ちょっと待って!!」

 「シスター?」

 ヤストがワイバーンに乗り込もうとした時、ヤストのスキル付与式に立ち会ったシスターが息を切らしながら向かってくる。


 「あの……ごめんなさい。先程はあんな失礼な態度……」

 「いいよ!全然気にしてねぇからさ!念願の王都勤務も叶ったし!」


 シスターは何か言いたげな様子だ。この反応を見てヤストは確信してしまった。


 ――ま、まさか!これって愛の告白なのでは!!年は離れてるけど、俺の初恋の人だ。漢たる者!女性に先に告白させるなど笑止千万!!


 「シスター……俺さ……」

 「ヤスト……?」

 「初めて会った時から好きでした!王都で名を挙げたら結婚して下さい!!」


 ――言った!言ったぞ!大丈夫だよ。シスター。俺が必ず幸せな家庭を……

 「ごめんなさい!結婚は出来ない!」


 ――え?何故に?


 「ヤストが帰ってくる頃には、私はもう村にはいないから……」

 

 ――え?何故に?


 「実はね……故郷の村の幼馴染と結婚する事になったの。だからヤストに会えるのは今日で最後……」

 真っ赤に顔を赤めて告白するシスターを見て、ヤストのメンタルは地獄の淵へと落とされた。


 「お……お……おー!おめでとう。ジョークだよ!王都で流行りの結婚ドッキリジョーク!」

 「あ、ジョークなのね!ありがとう!ヤストも頑張ってね。神のご加護があらんことを」


 ヤストは必死に涙を堪えながらワイバーンへと乗車した。


 「じゃあ、みんな!行ってくる!」

 ワイバーンは砂煙を立てながら浮上し始め、村人総出でヤストに手を振り見送った。

 瞬く間にコバルト村は、豆粒の様に小さくなってゆく。

 ヤストは声を上げて泣いていた。ロナはそんな彼の背中を摩りながら励ましの言葉をかける。


 「村の人達はみんな優しかったね。そんな村で育った君は信頼できる。これから一緒に頑張ろっ!」


 ――何でだよ!シスター!人生初めての告白だったのに!!チクショォォォォ!!!あ、ロナさん可愛い……


 彼は村人達との別れを悲しんだ訳では無かった。


 「ロナさんありがとう。もう大丈夫!ヨッシャ!こうなったらヤケ食いだ!」

 「そうね!そうしましょ!ルーカスも私もお昼ご飯食べてないし!」

 「操獣も安定期に入りましたし、そうしましょう!村で一番美味い弁当か!楽しみだな!」

 ヤスト達はエドワードから貰った弁当箱を開けた。

 

 「親父……」

 「どうかしたの?……ホントにいいお父様ね」


 弁当箱の中身はヤストの大好物であるオムライスにケチャップで文字が書かれている。


 συνέχισε έτσι――頑張れよ。オムライスに描かれた一言によりコバルト村で育った記憶が走馬灯の様に溢れ出す。


 「くッッッッ!父さんッッッ!みんなッッッ!」


 ヤスト。本日二度目の号泣。ワイバーンで飛行中の空は風が強くなり、ヤストの弁当箱から手紙らしき物がふき飛ばされた。


 「おっと!なんだ?ヤストへ……?これ少年宛の手紙じゃねぇか?どれどれ……」

 風で飛ばされた手紙を掴んだのはルーカスだった。


 ――手紙?父さんが?ガラにもねぇ事すんじゃねぇよ……


 「ちょっと!ルーカス!勝手に読むのは良くないわ!」

 ロアの静止を無視してルーカスは音読し始める。


 「ヤストへ。そういえばシスターが結婚するらしい。お前の事だ。もう告白とかして見事に玉砕したんだろ?ザマアミロ!だってさ……」


 エドワードには全てお見通しの様だ。ヤストの気持ちは涙腺崩壊の覚悟から、燃え盛る怒りの感情へと変換された。


 「ぶ、ぶっ飛ばす!あのクソ親父だきゃ!ルーカスさん!コバルト村に戻して!」

 「オイ!少年!そんな暴れるとバランスが!」

 「ガァァァァァ!!!」


 こうしてヤストはコバルト村を飛び立った。

 これから起きる数々の困難。なぜ犯罪スキルを手にしたのか?『自らの宿命』を。

 彼はまだ知る由もない。


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