三限目(3-2)合同生誕祭にも、お兄ちゃんたちがいっわたぱい!?
っと、いろいろ作業をしていたら、もうこんな時間になっちゃった。
ダイニングテーブルに、作り終えたそれぞれの料理を並べていく。九種類バラバラのメニューだけど、これだけの量を一度にテーブルの上に並べると圧巻だ。
溺愛兄s’には外出してもらっているから、今回は出来立ての料理をすぐに提供できるわけではないけれど、それでもきっと喜んでもらえるに違いない。
後は、バースデーケーキを手作りしたら今年の合同生誕祭の任務は完了。ケーキについては、私に一任されているので、毎年違った種類のものを出すようにしているの。
ちなみに、今年はレアチーズケーキに初挑戦。濃厚なクリームチーズに砂糖とレモンの絞り汁、ヨーグルトやゼラチン、そして生クリームをフードプロセッサーにかけ、後は事前にクッキーで土台を作ったケーキホール型に入れて冷やし固めてからケーキの表面にイチゴやブルーベリー、ラズベリーなどのベリー系のソースで飾って完成。
前日にすでにケーキの仕込みは終わっているし、食事が終わってから冷蔵庫から取り出す予定。このケーキも、喜んで食べてくれるといいなぁ。
さてと、これで準備も全部終わったし、そろそろ溺愛兄s’に連絡を入れようかな。
私はそう思い、キッチンカウンターに置いたスマートフォンの画面に視線を向けた。
今のところ、特に溺愛兄s’からの催促の連絡は入っていないようだ。
今回、初めて生誕祭の準備を『自分一人でする』と主張したんだけれど、実は溺愛兄s’からは特に反論は出てこなかった。
もっと何かしらのアクションを見せるのかなぁって思ってたんだけど、『わかった』の一言だけ。だから、結構拍子抜けしちゃったんだよね。
でも、それはたぶん、『私の意見を尊重してくれたから』というよりは、明日のもう一つの生誕祭、つまり、『私の生誕祭に向けて何かを企んでいるから』だと思われる。だから、アッサリと私の言い分を飲み込んだのだと。
これまでも、毎年のようにド派手に祝われてきた私の生誕祭。
九人全員からプレゼントを貰うだけでも大変なことになるのに、『あれもこれも贈りたい!』といった貢ぎスキルが発動してしまうと、自分の部屋に入りきらないくらいのありったけの量をプレゼントされたこともあった。
あまりに貰う量が多く、置き場所もなくなってしまうため、『私へのプレゼントは一つだけ』というルールを作っても、聞いてもらえず。
挙句の果てには、子どもが貰うような金額じゃない物を贈られそうになったり、人気のテーマパークを一日貸切りにして祝われそうになったりしたこともあった。必死で止めたけど。
『普通のプレゼントしか受け取らないからね!』と言ったのだが、溺愛兄s’にとっては“普通”がわからなかったらしく、その時はキョトンとしてたっけ。
だから、私から『小中学生に贈る誕生日プレゼントの一般的な金額』について説明したんだけど、まったく理解してもらえす。というか、わかっていても改善しない確信犯的なところもあるんじゃないかと疑っている。
『一年に一回しか祝えないんだから、兄たちからのありったけの思い(愛)を受け取ってほしい!』とか、『一年に一回しかないから過剰になってしまう。だから、一人ずつ光をお祝いできる月を設ければいいのでは』なんて言われたことすらあるんだよ?
そりゃあ、一年に一回よりは分散させた方がマシになるのかなぁって考えたこともあったけど、でもそれだと、一人につき一ヶ月ごと、つまり、九ヶ月もかかってしまう計算になる。
一年の半分以上を、溺愛兄s’から祝われてしまうのは、流石に勘弁してほしいということでこの案は却下。
でも、私に何度怒られようとも、懲りずに、ほんと〜に懲りずに貢ぎ続けてくる溺愛兄s’。
どこにそんなエネルギーがあるのかというくらい、この生誕祭にもの凄い情熱をかけてくるんだよね。そのエネルギーは、もっと自分のために使えばいいのに。
という感じで、今回の生誕祭でも何かやらかしてくるだろうと予想される溺愛兄s’。
今年はどんな感じになるのやら。はぁ……。
しんとしたキッチンに、深いため息が静かに木霊する。
新居に来て、初めての生誕祭。王番地家のお屋敷では、お兄ちゃんたちが来るまでは一人で過ごすことが多かったからこういったことは慣れっこだったけど、ここ数年はずっとあの賑やかな空間が続いていた。
こんなに物静かな時間を一人で過ごすのは、本当に久しぶりかもしれない。
ゴチャゴチャ言われずに集中して準備することが出来たから良かったんだけど、でも、実はあのわちゃわちゃした空間も好きなんだよね。
だって、何年もあの騒がしいけれど心地よい中で過ごして来たから、あの状態が当たり前になっちゃったんだもん。
三月のあの日。大旦那様から出された養子縁組解消の話。
お屋敷を出てからは、私の耳にはあれからどうなったのかまったく入ってこないんだけど、ふとたまに思い出してしまう。
私の進路。私の将来。私の住むべき『家』。
いつもお兄ちゃんたちから助けてもらい、それに甘えている状態だけれど、本当にそれでいいのだろうか。
本当に、私はここにいて、いいのだろうか――――
――――ティリリリリッ
急に、キッチンカウンターに置いたスマートフォンが鳴り出す。
スマートフォンを見ると、『一央ちゃん』の文字が表記されていた。
私は曇りがかった頭の中を切り替え、パッとスマートフォンを手に取った。
一央ちゃんから電話がくるなんて、初めてだ。どうしたんだろう?
「はい。光です。もしもし。一央ちゃん? 珍しいね。私のスマホに連絡するなんて。どうしたの――――って、………………えっ?」
一央ちゃんからかかってきた、突然の電話。
その内容を聞いて、私の頭は一気に真っ白になってしまった。
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