三限目(3-1)合同生誕祭にも、お兄ちゃんたちがいっぱい!?
七月。
うだるような暑さと気の滅入りそうな梅雨の時期が交差する、この季節。
気圧の変化により、頭や体のだるさがきつく感じられ、体調管理も大変になる。
そんな乱高下激しい気候の中、この七月はまた違った意味で熱気に包まれることになる。
兄妹そろっての、『合同生誕祭』の開催によって。
別に、全員が七月生まれというわけではないのだが、兄妹の人数があまりにも多く、その都度誕生日会を開いても忙しないということで、一つの月にまとめてやってしまおうということから始まったこのイベント。
でも、それが何故七月なのか。それは、偶然にも私とお兄ちゃんたちが初めて出会った日が、『七月七日』だからだ。
これは、ロマンチストな兄たちが考え出したものなのだが、『七月七日、つまり、七夕の日に俺たち兄弟はこの世で最も愛する妹と出会うことができた。この日に、俺たちは生まれ変わったんだ。だから、七月七日が俺たち、いや、光を含めて全員の生誕祭なんだ』というわけのわからない理論を展開したことが所以となっている。
なお、『七夕なら一年に一回しか会えないということでは?』と疑問を呈したら、『それはそれ! これはこれ! 光と一年に一回しか会えないなんて耐えられない!』なんてギャーギャー文句を言われた。
いや、じゃあ七夕の日にしなきゃいいのに。
とは思うものの、私に出会うまで溺愛兄s’は自分の誕生日なんて気にもとめておらず、興味もなかったみたい。
常に自分のことを蔑ろにしがちな兄たちなので、最初に私が『お兄ちゃんたちのバースデーパーティー』を企画した時には、物凄い感激されてしまった。
なので、せめてこの日だけでも自分のことを大事にしてほしいという私の願いもあり、この七月の合同生誕祭は毎年気合を入れている。
ただし、各々の準備、特に私がそれぞれの兄たちへのプレゼント準備に時間がかかるため、開催日は七月七日にはこだわらず、七月のどこかの土日で行うことにしている。
基本的には、土曜日が九人の兄たちを祝う日で、日曜日が私を祝う日。
私は別に同じ日でいいと言ったんだけれど、溺愛兄s’の大反対にあってしまった。『一日かけて光を盛大に祝いたいんだ!』といった過激な思想により。
小さい頃はそれでも嬉しかったんだけど、流石にもう中学生だし、サラリと終わりでいいんだけどなぁ。
ちなみに、私から九人の溺愛兄s’へ誕生日プレゼントを買おうとするとすぐに破産してしまうため、毎年『誕生日リクエストメニュー』と称して各自が好きな料理を手作りして、それをプレゼントということにしている。
霧お兄ちゃんには、ふわりと温かく包みこんだロールキャベツを。
てっきり、和食を要求してくるのかと思いきや、意外にも洋食の方が好みの霧お兄ちゃん。
毎年、ロールキャベツとシーフードグラタンの選択で迷っているけれど、今年はロールキャベツで決定。あの、スープの味が染みたキャベツの葉を食べるのが特に好きなんだって。
春お兄ちゃんには、生姜の香りと甘辛さが染み込んだカレイの煮付けを。
こちらも意外というか、春お兄ちゃんの方が和のテイストの料理を好んで食べている感じ。
あと、実は肉より魚派だってことに私の手料理を食べているうちに気づいたみたい。なので、誕生日リクエストメニューでは、だいたい魚料理を選択することが多いの。
薫お兄ちゃんには、ふわふわな食感が楽しめるお好み焼きを。
海外生活が長かった薫お兄ちゃんは、とにかく日本の食、特に各地方で食べられているものとか、郷土料理のようなものに強い興味を持っているんだって。
ちなみに、今回は二種類のお好み焼きを食べ比べたいというオーダーが入ってしまった。そんなにたくさん、食べられるのかなぁ。
明お兄ちゃんには、ほくほくのジャガイモをたくさん入れた肉じゃがを。
『彼女や奥さんに作ってほしい代名詞って聞いたよ!』なんて、見えない尻尾を振りながら要求してくる、明お兄ちゃん。
だからって、何でそれを私に頼んでくるかなぁ。そういうのが食べたいのなら、妹に構ってないで早く大事な人を作ればいいのに。
怜お兄ちゃんには、とろりと溶け出るチーズ入りハンバーグを。
ハンバーグにかなりのこだわりがあるのか、毎年、怜お兄ちゃんからの注文は決まって『ハンバーグ』。でも、味はそれぞれ違っていて、オーソドックスなケチャップをかけたハンバーグの年もあれば、大根おろしと梅肉を添えた和風ハンバーグの年もあった。
今年は、『どのチーズが最も好みか』知りたいらしく、スライスチーズだけではなく、モッツァレラチーズやカマンベールチーズ、チェダーチーズも試してみたいんだとか。
夕お兄ちゃんには、ふんわりと卵でやさしくまとめたオムライスを。
最初、ケチャップで可愛くハート型を描いてあげたら、もの凄く恥ずかしそうにしてたなぁ。他のお兄ちゃんたちは、『不公平だ!』ってブーブー文句を言ってたけど。
でも結局、あれからずっと夕お兄ちゃんの誕生日リクエストメニューはオムライス固定。ケチャップのハート付きの要望も必ず付けて。
空お兄ちゃんには、とろっとろの卵でとじたカツ丼を。
実は、見かけによらずガッツリしたものを好む空お兄ちゃん。初めてカツ丼を作ってあげたときは、物凄い勢いで丼ぶりの中身をかきこんでいた気がする。たしか、三杯もおかわりしてたっけ。
なので、空お兄ちゃんはカツ丼の他にも牛丼や親子丼など、毎年いろいろな丼ぶりメニューを注文してくるんだよね。
紫お兄ちゃんには、サクリとした衣とほくほくの食感が一緒に感じられるコロッケを。
野菜好きな紫お兄ちゃんは、ジャガイモだけじゃなくカボチャや里芋などいろいろな種類のコロッケを要望してくる。
私はコロコロした球体型のコロッケを作るんだけど、そのフォルムが気に入っているのか、お皿に並べられたコロッケを嬉しそうに眺めているの。
揚げたてが一番美味しいから、『早く食べて!』と急かすのだけれど、なかなか食べてくれないんだよね。
葵お兄ちゃんには、じゅわりとした肉汁がたっぷり入った鶏の唐揚げを。
『やっべぇ! めっちゃ旨いじゃん!』と初めて作った時に凄く喜んでくれた、葵お兄ちゃん。
にんにくと生姜を効かせたものがお好みで、とにかく揚げたてを要求するから、お皿に盛り付ける前にひょいっと口に入れちゃうの。
『あと二分待って!』と何度も注意するんだけど、まったく効果なし。二度揚げするために、油切りバットに置いて休ませている唐揚げまで取ろうとするんだよ!? まったくもう。
でも、食に関しては、私と出会うまではまったく興味がなかったらしいお兄ちゃんたち。
偏食も多かったみたいで、むしろ、食べないことすら“ざら”だったんだって。不健康もいいところだったみたい。お医者さんの明お兄ちゃんでさえも。
こうやって私が料理を担当するようになってからは、食生活も改善され、今ではいろんなものをリクエストしてくるまでになったから、食に対する優先順位は上がったみたいでホッとしている。
――――という感じで、調理を開始してから数時間。
今日は、その例の合同生誕祭が開催される土曜日だ。あっという間に、時間が過ぎていってしまった。
ちなみに今まではお兄ちゃんたちに手伝ってもらいながら準備することが多かったのだけれど、今年は全てを一人でやりたいと強く主張した。
なので、お兄ちゃんたちには私が誕生日リクエストメニューを作っている時は外出してもらうことにしたの。
だって、だいぶ料理スキルも上がってきたし、それにこれはお兄ちゃんたちへのプレゼントだから、やっぱり自分だけで準備したいと思ったから。
お兄ちゃんたちだけのために作った、心を込めた料理。いっぱい喜んでもらいたいもん。
もちろん、これだけの品数だからかなりの時間がかかっちゃって体力的にも大変なんだけど、でも、あの美味しそうに食べてくれるお兄ちゃんたちの表情を見るのが嬉しくて、ついつい張り切っちゃうんだよね。
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