三限目(3-3)合同生誕祭にも、お兄ちゃんたちがいっぱい!?
「…………えっ? そ、それ、本当?」
「ええ、そうですわ。お姉様、いえ、光先輩。今、こちらでは大変なことになっておりますのよ」
普段より、低いトーンで一気に話し続ける一央ちゃん。
かかってきた内容は、主に最近の王番地家や梅野俣家の出来事についての報告だったのだが、どうやらここ数ヶ月の兄たちの行動について、一族から疑問を呈されているとのことだった。
「この間の家庭科部の課外活動の時なんて、お忙しいお兄様たちを無理に参加させたって聞きましたわよ。そのせいで、大事な会合も無理やり抜けさせたなんて。わたくしたちまで、お父様から叱られてしまいましたわ」
「そ、そんな……。だってあれは、小林先生が急遽来られなくなったからその代役って……」
「だからと言って、全員のお兄様たちを呼び出す必要があったんですの? 他の先生に頼むなり、別日にずらしたりすれば良かったではないですか。たかが、家庭科部の活動でしょう。光先輩は、どちらが優先度が高いとお思いですか?」
「そ、それは……」
「それに、これはわたくしの口からは申し上げにくいのですが、最近お兄様たちに対して『変なウワサ』も飛び交ってますのよ? そんなくだらない情報で、優秀なお兄様たちを汚してほしくないんですの」
「へ、『変なウワサ』って……?」
殊更に嫌そうな口調で強調してくる一央ちゃんに、私は恐る恐る聞き返す。
すると、一央ちゃんからトンデモナイ『変なウワサ』の内容を聞かされてしまったのだった。
「あら? 光先輩はご存知ないのですか? あの話を。あんなに、周りではウワサになっておりますのに」
「う、うん……」
「はぁ……。あのですね? ここ最近、というか、お兄様たちが王番地家のお屋敷を出られてからなのですが、お兄様たちがあまりにも光先輩のことばかり優先するので、ちまたでは『あの勘当を言い渡された“欠陥品”が、王番地家への復讐として九人の兄たちを籠絡している』と言われておりますの。本当にご存知なかったのですか?」
「ええっ!? 私がお兄ちゃんたちを籠絡!?」
「もちろん、優しいお兄様たちのことですから、“妹”として光先輩に情をかけていることはわかりますわ。でも、一族の方々はそのように見てないようですし、『兄妹以上の関係があるのではないか』といった醜聞まであるらしいですわ」
「そ、そんな……。私とお兄ちゃんたちは、別にそんな関係じゃ……」
「まったく。本当に何もご存知ないのですね。困ったものですわ。光先輩は少し、いえ、かなりお兄様たちに甘え過ぎなのではないですか? わたくしとしては、くだらないウワサに振り回されて、優秀なお兄様たちの評判を落とさせたくないのです。お兄様たちのことを思うのであれば、そのようなのんびりしたお考えは持たれない方がよろしくてよ。これ以上、『変なウワサ』が出回らないような努力をしてほしいんですの。ご理解くださいますよね? 光お姉様」
最後の文言をかなり強調すると、一央ちゃんは一方的に電話を切ってしまった。
ど、どうしよう……。
そんな大事な会合があったのに、お兄ちゃんたちは私を優先してくれたってこと……?
そんなことも知らずに、私は一日中お兄ちゃんたちを連れ回していたってこと……?
あのお屋敷を出てから、そんな『変なウワサ』が飛び交っていたなんて。何も知らなかった。ど、どうしよう……。
私は別に昔から王番地家一族の人たちからいろいろ言われていたからもう慣れっこだけど、お兄ちゃんたちが私のせいでそんな風に見られちゃうのは嫌。
お兄ちゃんたちは全然悪くないのに、私のせいでお兄ちゃんたちの立場が悪くなってしまったら……。
――――ティリリリリッ
再び鳴り出すスマートフォン。その音に、私は極度に体をびくっと強張らせる。
今度は、二央くんからだった。
「……はい。もしもし」
「あっ、光ちゃん? 僕、二央。今大丈夫?」
「う、うん……」
「ごめんね〜。一央が急に電話しちゃったでしょ? うるさくなかった?」
「ううん、だ、大丈夫だよ……」
「ほんっとに、いっつも
「う、うん……」
耳元には、いつもの明るい口調の二央くんの声が響き渡る。
でも、その明るさの中にも、有無を言わせないような、皮肉のような文言が込められているように感じ取れた。
「でもさぁ〜、一央が言ってたのは別にウソじゃないんだよね。ここ最近、変な話が飛び交っててさぁ〜。嫌だよねぇ。これ以上兄様たちの評判が悪くなると、本来の仕事にまで影響しちゃうかもしれないし」
「えっ!? お、お兄ちゃんたちの仕事にまで!?」
「だって、そうでしょ? そりゃあ、兄様たちはすでに高い名声があるから自分たちでやっていってるけど、でも、あんな『変なウワサ』が出ちゃうと、これまでサポートしてくれてた人も離れちゃう可能性だってあるわけだしさ。それに、なんて言ったって、『王番地家の後ろ盾』があるかないかは結構デカいことだと思うんだよねぇ〜。光ちゃんも、そう思うでしょ?」
「う、うん……」
正直、お兄ちゃんたちの仕事、篠花学園での教師としてではなく、本来やっていた仕事については漠然としたイメージしかないから詳しいことはわからない。
でも、二央くんの口調だととても良くない状況なんだってことがわかる。今もの凄く、私がお兄ちゃんたちに迷惑をかけているんだってことも。
頭の中がぐるぐるしてきた私は、二央くんの言葉に相槌をうつばかりで、それ以上何も言えなくなってしまった。
そんな私に対し、二央くんはさらに追い込みをかけてくる。
「ねえねえ。光ちゃん聞いてる? 一央も言ってたと思うんだけど、僕だって、これ以上兄様たちの評判を落としたくないんだよね。だから、光ちゃんに協力してほしいんだ。兄様たちのことを助けるためだと思って」
「な、何をしたら、いいの……?」
「実は今日の夜、
さらに強く圧をかけてくる、二央くん。
私には、協力する以外の選択肢は許されていなかった。
「……わ、わかった。ど、どうしたらいいの?」
「別に、難しいことじゃないよ。これから、僕が言う内容を兄様たちにメッセージしてくれればいいだけ。でも、電話はダメだよ。スマホのメッセージ機能を使ってね」
「う、うん」
「じゃ、これから光ちゃんのところにメッセージを送るから、それをそのままコピペして兄様たちに送ってね。よろしく」
――――ツーツー…………
ブツリと切れた無機質な音。
その鳴り続ける音に合わせて、私の心は暗い深い灰色の底へ落ち続けていった。
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