二限目(2-6)家庭科部課外活動にも、お兄ちゃんたちがいっぱい!?

 私は春お兄ちゃん用に選んだ萩焼の購入をお店の人に依頼すると、最後の探索を開始した。

 残りは、二つ。怜お兄ちゃんと霧お兄ちゃんのご飯茶碗を探せば、ミッション完了だ。


「光、大丈夫か? 数多くの器を見てきたから、流石に疲れているのではないか?」

「そうだね。もう、こんな時間だし。あの木陰のベンチで少し休憩する?」

「ううん。あと少しだし、それにこれは“楽しい疲れ”だから、お兄ちゃんたちが心配するほどじゃないよ」

 少し疲れた表情を見て、二人の兄が心配そうに声をかけてきたが、私は首を横に振った。

 もうすでにヘロヘロの状態は確かだけれども、あと少しだし、せっかくの貴重な機会を目いっぱい楽しみたいもん。

 残り二つの焼き物。紫お兄ちゃんからの事前の講義では、その内の一つ、備前焼は絵付けがなく素朴な味わいが器全体から感じられるのが特徴で、しかもかなりの強度があるんだとか。『投げても割れない』って言われるほどなんだって。

 そんなに硬い器なら、これは怜お兄ちゃん用かなぁ。


「ねえねえ。怜お兄ちゃんには、この備前焼が合うかなって思うんだけど、どうかな?」

「そうだな。俺も、派手な絵や色で飾られている物よりも、こういった飾り気のないシンプルで渋みを感じられる物の方が好みだな」

「あのね。紫お兄ちゃんの説明では、この器凄い硬いんだって。『投げても割れない』らしいよ。知ってた?」

「ほう……。そうなのか。いや、知らなかった。それほどまでに頑丈なのだな。ふむ。“俺みたいに”という感じか。確かに、俺は頑固な性格だからな。負けず嫌いでプライドも高く、簡単にはへし折れない俺の性格と合っていると思うぞ」

「もうっ! そういう意味じゃないってば! 『どんなに難しいことが出てきても、折れない強い気持ちで立ち向かっている怜お兄ちゃんみたい』って言いたいの。もう、怜お兄ちゃんは時々捻くれる言い方するんだから。そんなことないのに。怜お兄ちゃんは、優しいよ?」

「そんなこと言うのは、光ぐらいなものだぞ。本当に、お前は面白い着眼点を持っているな」

 怜お兄ちゃんはそう言うと、柔らかい笑みを浮かべながらいつものように私の頭を優しく撫でてくれた。


「さて。最後は僕ですね。とは言っても、もう有田焼しか残っていないから、答えは見えちゃってるけど」

 怜お兄ちゃんの隣で待機していた霧お兄ちゃんはそう言うと、苦笑しながら並べられている有田焼を手に取り始めた。

「僕は他の皆より焼き物に触れる機会があるから見慣れている器も多いですが、それでもこんなに一同に並べられているのを見ることはなかったので、違った雰囲気を感じられて良いですね」

「そっか。霧お兄ちゃんは、書道だけじゃなくて華道や茶道もやってたんだっけ。だから、焼き物についても詳しいんだよね。だったら、霧お兄ちゃんに最初に選んでもらえば良かったね。ごめんね。最後になっちゃって」

「焼き物に詳しいと言っても、小説のネタ探しでちょっとかじっただけですけどね。それに光が謝ることはありませんよ。そもそも僕は鮮やかな色合い、特にこの赤みを帯びた絵付けの有田焼が好みですし、それにほら。このご飯茶碗の手触り感と器を弾く音。心地よさを感じます」

「本当だね。器から心地よさを感じられるなんて、全然知らなかったよ。あっ、『心地よさ』だったら霧お兄ちゃんと一緒だね。私も霧お兄ちゃんの側にいると、自然と心地よさを感じるもん」

「ふふっ。僕も同じですよ。光と一緒にいられることの心地よさは、何物にも代えられないものですなら」

 そう言うと、霧お兄ちゃんは蕩けるような笑顔を浮かべながら、選ばれた器を両手で大事そうに包みこんだ。

 

「さて、と。これで、ようやく全員分ですね。光、お疲れ様でした。今日一日で、かなり焼き物について詳しくなったんじゃないですか?」

 見計らったかのように、声をかけてくる紫お兄ちゃん。

 その合図に合わせて、他の兄たちもわらわらと私の側へと近づいてきた。


「うん! 大満足! すっごく楽しめたし、勉強にもなった課外活動だったよ。お兄ちゃんたち、付き合ってくれてありがとう」

「なーに、言ってんの。可愛い妹のためだもの。これくらい、当然」

「当たり前だ」

「そっそ! No Problem」

「いつでも、僕を頼ってくれて大丈夫ですからね」

「『俺たち』、な」

「またデートしようね♡」

「光りんと『付き合う』のは、すぐにでもOKだからね!」

「で? 光は僕たちの茶碗を選んでくれましたが、肝心の光の物はどれにするんです? 僕はやはり、光にも有田焼が合うと思うんですけどね」

「えっ? 私の?」

 霧お兄ちゃんが先ほどのお店に置いてあった対のご飯茶碗を゙見せながらそう言ってきたが、私はその言葉にキョトンとしてしまう。

 だって、自分用のご飯茶碗を探すつもりなんて全然なかったもん。


「おいっ! 霧、抜け駆けはズルいぞ!」

「そうだ! そうだ!」

 霧お兄ちゃんのフライングスタートに対して、一斉に抗議の声を上げ始める溺愛兄s’。

「光りんには有田焼じゃなくて、美濃焼が似合ってるよ。俺とお揃いの、ね」

「はっ? 何言ってんの? 瀬戸焼に決まってんじゃん」

「いえ。萩焼でしょう」

「信楽焼だな」

「清水焼がBestだと思うけどねぇ〜」

「どうです、光。この際、光用のご飯茶碗も新調してみては。光が今使っているのは、もうだいぶ年数が経っていますし、そろそろ新しくしてもいいと思うんですよね。あっ、もちろん、費用はこちら持ちですから。僕としては、九谷焼がいいと思うんですけどね」

 何故か、いつも以上にグイグイと押してくる紫お兄ちゃん。

 他のお兄ちゃんたちも一緒になって、じりじりと圧をかけてくる。

 しかし、そんな溺愛兄s’に屈せず、私はキッパリと断りを入れた。


「私はいいの。だって、一つだけ選んだらお兄ちゃんたちケンカになるでしょ? 『何でそれなんだ!』って。私が何を選ぼうと、ケンカしないって約束できる?」

「うっ……そ、それは…………」

「じゃあ、ダメね。夫婦茶碗は諦めてください。以上、今日の授業は終わりっ!」

「「「えーーーーーーーー!?」」」


 溺愛兄s’から非難の声が上がるが、無視。

 だって、どれを選んだって文句が出るだろうし、だからといって全種類のご飯茶碗を買うわけにはいかないんだもん。置く場所もないし。

 それに、私はすでに大切なご飯茶碗を持っているから。

 あの時、初めてお兄ちゃんたちに買ってもらった、代え難い物を。


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