二限目(2-2)家庭科部課外活動にも、お兄ちゃんたちがいっぱい!?
もう、何度目のお決まりパターンだろうか。
周囲の騒がしさに負けず、いつもの過剰なエネルギーを放出しながら、九人の溺愛兄s’は私の元へわらわらと駆け寄ってきた。
「光〜! おまたせ!」
「待たせてしまってすまないな」
「何か、待ち合わせデートみたいだね♡」
「春、あの会合はもう少し早く切り上げられなかったのか?」
「これでもかなりあの五月蝿いハエども……、いえ、老害の皆様を抑えた方なんですが」
「別にそれ、言い換えになっていませんよ」
「本当のことだからいいんじゃね」
「まあまあ、とにかく。光と無事に合流できてよかったです」
「はい、光りん。冷たい飲み物をどうぞ。五月でも凄く気温が上がる日があるから、こまめに水分補給しとかなきゃね」
「ありがとう……じゃなくて! 何で小林先生じゃなくて、お兄ちゃんたちがここにいるのって聞いてるの! 今日は午後からお屋敷の集まりに呼ばれてたんじゃないの!? っていうか、その黄色い旗は何っ!?」
何故、小林先生はいないのか。
何故、会合に出ているはずの兄たちが、ニコニコと笑顔を浮かべながら黄色い旗と共に目の前に立っているのか。
私は明お兄ちゃんからフローズンドリンクを受け取りながら、混乱したこの状況を整理しようと咳を切ったように思ったことを立て続けに吐き出した。
が、頭はまったく追いついていかず、はぁはぁと息切れしてしまい、その場にぺたんと腰を下ろしてしまう。
そんな私に対し、溺愛兄s’は穏やかな眼差しを向けながら、同じようにその高い背をゆっくりとしゃがみ込ませた。
「光ちゃん、ビックリさせちゃってごめんね。実は
昨日、職員会議の前に小林先生にもし至急の用件がある時は、先にオレたちの誰かへ連絡してもらうようお願いしてたんだ。これでも一応、光ちゃんの“保護者代わり”だからね。そうしたら今日の午前中に、オレのスマホに小林先生から『急用で今日の課外活動に行けなくなりました』って連絡がきたんだよ」
「あくまでも万が一ということだったんだか、結局は中止の連絡になってしまったというわけだ。ただ、光が前々から楽しみにしていたことは知っていたから、中止にするのではなく俺たちが引率者の代役を引き受けたのさ」
強くなってきた日差しが私に直接当たらないよう体で影を作りながら、そう説明してくれる薫お兄ちゃんと怜お兄ちゃん。
普段からこういった自然な気配りをスマートにしてくれるので、あっという間に“落ちてしまう”人も多いんだろうなぁ。
「そ、そうだったんだ。でも、昨日小林先生と打ち合わせした時はそんな話は出てなかったんだけどなぁ……」
「ホントに急だったみたいだぜ〜。小林先生、すげー申し訳なさそうに薫へ連絡してきたらしいし。ってか、光。これからもっと暑くなるんだし、これ被っとけよ。せっかくのキレイな肌にダメージ受けたら困るだろ?」
「汗も結構出てきてますね。はい、これを使ってください。今回の件ですが、本来であればこういった場合は副顧問が担当するのですが、家庭科部は部員数が極端に少ないために主顧問しか配置されなかったので、いざという時は僕たちを頼ってくださいと小林先生に伝えていたんですよね」
「ああ。俺たちは『いつでも』光の副顧問を担当できるから、安心して家庭科部の活動をして大丈夫だからな。それと、日傘も念の為持ってきたから、これも渡しておくぞ」
「遠慮しないで、光りんは『いつでも』お兄ちゃんを頼っていいからね〜。あっ、ドリンクそれで足りる? まだあるから飲みたくなったら言ってね」
そう言って私に紺色のUVカット帽子とハンドタオルを手渡してくれる、葵お兄ちゃんと春お兄ちゃん。
夕お兄ちゃんと明お兄ちゃんも、『いつでも』というワードを繰り返し強調させながら、折りたたみ式の日傘や冷えた飲み物を私に渡してくれた。
いつもすぐに細かいところに気がついて支えてくれるお兄ちゃんたち。こんなに献身的にサポートされたら、頼り切っちゃう人もたくさんいるんだろうなぁ。
「あ、ありがとう。でも、お兄ちゃんたちは今日は大事な会議だったんでしょ? 一央ちゃんと二央くんもそこに行くみたいなこと言ってたし、こんな所にいたら怒られるんじゃ……」
「あー、あれね。別に大した用じゃないから大丈夫だよ。オレはいつでもどこでも、光ちゃん優先だもんね♡ あっ、オレさ、前に仕事の関係で風鈴の音色について調べた時に陶器とかの材質もちょこっとかじったからさ〜。それ系のことは教えてあげられると思うよ♡」
「それは僕の方が詳しいと思いますよ。工芸関係の知り合いも多いですからね。とにかく、僕たちのことは大丈夫ですから、光は気にしないで課外活動を楽しんでくださいね」
「そうそう。せっかくの蚤の市だし、掘り出し物も見つかるかもしれないですよ。僕も日頃、こういった和物に接することが多いですから、わからないことがあれば何でも聞いてくださいね」
そう言って私の手と背中を支えながら、ゆっくりと優しく起き上がらせてくれるお兄ちゃんたち。
それにしても、紫お兄ちゃんだけじゃなく、空お兄ちゃんや霧お兄ちゃんまでこういった分野に詳しいなんて。
一芸だけじゃなく、多彩な才能を持っている面でも惹かれる人がいろいろといるんだろうなぁ。
というか、私を囲んでこんなやり取りをしていたせいか、何だか周りの人の視線が一挙に集まっている気がする。
あんなに人集りがあったのに、今はお店に並べられている品々よりも、九人の兄たちへの注目度が増している感じだ。
めちゃくちゃ目立ってて、恥ずかしい……。
「も、もうっ! とにかく事情はわかったから! 早く行こっ!」
とにかく注目の的から視線を反らしたかった私は、兄たちを急かして人集りの少なそうに見える場所へと早足で進んで行ったのだった。
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