一限目(1-3)新入生部活動勧誘に、お兄ちゃんがいっぱい!?
そんなこんなで、あっという間に仮入部期間が流れて行き、気づいた時には明日が家庭科部存続をかけた最終リミットになってしまった。
最後の一週間の間にも私はしぶとくあがき続けていたのだが、溺愛兄s’はそれに拍車をかけて非常に、ひじょ〜に、大人気なく邪魔をする手を緩めなかった。
「もーー! あと数日しかないの! 邪魔しないでよっ!」
「これ以上やると、お兄ちゃんたちのこと嫌いになるよ!」
と大抗議&脅しの言葉を投げつけても、『怒った顔も可愛いね♡』だの、『好きな子にはイジワルしちゃうって言うでしょ?』だの、『“嫌いになる”ってことは、今は大好きってことだな! やはり俺は光から愛されている!』だの、
しかも自宅のみならず、学校でも!
この間なんか、お昼休みに勧誘チラシを配っていた時に足を止めてくれる新入生がいたのに、見計らったかのように溺愛兄s’がわらわらと湧き出てきて、もの凄い妨害をしてきたのだ。
「とても良い声だね。うち(の合唱部)に来ない?」
「君のような人を(美術部で)待っていたよ」
「貴方のことを、もっと見てみたいですね(バスケ部で)」
「大丈夫だ。(バドミントン部のことで)わからなくても、すぐに俺がかけつけてやる」
「安心して。(水泳部のことで)困ってもいつでも支えてあげるから」
「君が(パソコン部に)来てくれると、元気になれるなぁ」
「うちに秘めたるその素晴らしい力を、ぜひ僕のところ(の書道部で)で発揮してほしいな」
「何も心配することはない。(剣道部の時は)俺が側にいる」
「(テニスが)初めてでも大丈夫。先生が、一から教えてあげるから」
などといった、わざと必要なワードを隠して甘い誘い文句を奏でる溺愛兄s’。
そんな言葉を真っ直ぐに射抜くような瞳で訴えかけられたり、耳元で囁かれたりしたら、誰だって陥落してしまう。
現に、『華麗なる一族の九人兄弟』の耐性がついていない新入生はあっさりと心を奪われてしまい、家庭科部のことなどあっという間に忘れ去られてしまったのだった。
ってか、どこで見てるのよ!?
どうして、こうもタイミングよく現れるわけっ!?
顧問が率先して部活動勧誘をするなんて、反則でしょ!?
妹の邪魔をして、何が楽しいのっ!?
といった具合に、毎日妨害工作をしてくるものだから、家庭科部への勧誘作戦はことごとく失敗している。
もう時間がないのに、何も変わらない現実を目の当たりにし、私は家庭科室で一人頭を抱えていた。
嗚呼。本当にどうしたらいいの……。
今回の部活動勧誘のために、せっかく小林先生に特別に許可を貰って、新入生用に配れるマフィンもたくさん作って用意したのに。
一人だけの所属だったけれど、家庭科の活動は凄く楽かったから、卒業までの三年間ずっと続けたいと思っていたのに。
帰宅部になってしまうのは、物足りない。まだまだやりたいことが、たくさんあるのに。
そんなことを思えば思うほど、今の現状ではどうにもならない自分の無力さを感じてしまう。
『頑張っても、努力しても、どうにもならないことはある』『諦めなきゃいけないことだってある』そんな現実を突きつけられる。
うちのお兄ちゃんたちだったら、こんなことが起きてもきっと自分たちの力で何とかしてしまうのだろう。
でも、私にはそんな力はない。
比べちゃダメだってわかっているのに、どうしてもスマートにこなしてしまう九人の兄たちとの力量の差を感じてしまう。
どうあがいたって、『普通な』私には無理なんだって痛感させられてしまう。
お兄ちゃんたちは、私が『普通であること』が良さなんだって言ってくれたけど、正直なところピンときていない。
『普通な』私に、何かを変える力なんて持っていない。
何でもできるお兄ちゃんたちと違って、私一人でやり遂げることなんてやっぱり無理だったんだ…………。
と、途方に暮れていた、その時。
ガラリッ――――
勢いよく家庭科室の扉が開いたかと思うと、小柄な一組の男女がつかつかと入ってきた。
一人は、ふわふわの長い髪の毛を耳元でかきあげながら、ふふっと柔らかい笑みを浮かべる女の子。
そしてもう一人は、へへっという顔で私に元気に手を降ってくる、まだあどけなさを感じさせる男の子。
それは、どこかで見たことのある顔の二人だった。
「あら? お困りのようね。『光お姉様』」
「僕たち、協力してあげよっか?」
「…………えっ? ええ? だ、誰、ですか? お、“お姉様”…………?」
「あら? お姉様ったら、わたくしたちのことをお忘れになってしまったの? 悲しいですわ」
「ひっどいなぁ〜。僕たちはちゃーんと、光ちゃんのこと覚えているのに。確かに会うのは三年振りくらいだけど、昔はよく一緒に遊んだじゃん」
「三年振り……? 『昔よく遊んだ』って…………えっ!? も、もしかして――――!?」
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