一限目(1-2)新入生部活動勧誘に、お兄ちゃんがいっぱい!?
「えっ……? ええええっーーーー!? 『家庭科部が無くなる』って、どういうことですかっ!?」
「ごめんなさいねぇ。私からも職員会議で説得はしたのだけれど、やっぱり“部員数が一人”ということに難色を示されてしまったのよねぇ……」
四月某日のお昼過ぎに絶叫が響き渡る、家庭科室。
この日は、始業式と新しいクラス発表のみだったため午前放課の予定だったが、急遽家庭科部顧問の小林先生に呼び出されていた。
二年生になっても担任の先生は小林先生だと聞き、安心していた矢先。突然、とんでもないことを告げられてしまったのだ。
「は、廃部なんて、どうしてですかっ!? 今まで、そんな話は一度もなかったのに……」
「実は、四月の最初の職場会議で急にそんな話が出てきてしまったの。あっ、でもね。新入生が一人でも入ったら、存続できることになっているの。副所属でも大丈夫だそうよ。だから、光さんには是非とも新入生の勧誘活動を頑張ってもらいたいの」
「そ、そんな……。そんなこと、急に言われても……」
予想もしなかった突然の話に、頭が真っ白になる。
新居への引っ越し作業が三月終わりにようやく一段落し、バタバタの中で迎えた新学期。
春休み中は溺愛兄s’たちの“お出かけ”に無理やり付き合わされていたから、家庭科部の活動がまったく出来なかった。
だから、二年生になったら家庭科部の活動回数や内容の幅をもっと広げたいなって考えていたのに。
「な、何とかならないんですか…?」
「そうねぇ。奥の手なら、無くはないのだけれど……」
「奥の手!? あるんですか!? じゃあ、ぜひ――」
「副顧問を『王番地先生』にやってもらったら、それなりの人数は確保できると思うわ」
「いえっ! それには及びません! 勧誘活動、頑張りますっ!」
即決。即断。完全却下。
そんな奥の手は使えない。
だって、それこそ大変なことになる。
『俺が・僕が副顧問になる!』って九人の大論争が始まることになるし、もしそんな奥の手を使ったものなら、その後の“見返り”がとんでもないことになるか予想できるから。想像もしたくないけど。
というわけで、急ごしらえで作った家庭科部勧誘チラシを配布してみたのだけれど、結果は大惨敗。
私の作ったチラシは、『家庭科部、部員募集中!』の文字を大きく書いただけのものだったが、他部はカラー印刷したものや可愛いイラスト付きのもの、より目立つデザイン且つわかりやすいキャッチコピーが散りばめられたチラシを作っており、とても目を引く出来合いになっていた。
しかも、実は三月の合格発表の時からこういった勧誘活動をしていたらしいのだが、家庭科部がこんな廃部の危機に陥っていることは知らなかったので、私は完全に出遅れ状態になっていた。
はぁ……。ほ、本当にどうしよう。
で、でもでも! ここで諦めるわけにはいかない!
まだ約一ヶ月の猶予はあるわけだし、これからは部活動勧誘ポスターも作成して校舎中に貼らせてもらおう。
あと、学校支給のタブレット端末から家庭科部の紹介動画も作成して流すことも考えている。
確か、四月中の仮入部体験期間中は、そういったアピール動画配信が許されていたはずだ。
四月早々に聞かされた、家庭科部廃部の危機。
とにかく、平穏な、『普通の』学園生活を送るためには出来る限りのことをするしかないのだ。
――――と、がむしゃらにあがいてはみたものの。
「はぁぁぁ……。全っ然、うまくいかないよぉ……」
入学式から三週間たった、ある日の放課後。
私は一人、家庭科室で大きなため息をついていてた。
あれからとにかく必死になってポスター貼りや部活動紹介動画を作成してみたけれど、効果はまったく出ていない。
チラシは配れども配れども、新入生にスルーされ続ける毎日。
他部は人海戦術で功を奏しているようだが、何せこちらはたったの一人なのだ。
ポスターや動画の内容は顧問の小林先生からのアドバイスを参考に作ってはみたものの、やはり一人でやるには時間がかかり過ぎていた。
そして何より、この勧誘活動に最大の障壁となっているのが、実は九人の溺愛兄s’。
いつもだったら、私が何かの作業をしているだけで、『お兄ちゃんも一緒にやる!』だの、『愛する妹のために時間を使えるだなんて、これ以上の幸せがあるだろうか』だの、頼んでもいないのに勝手に手を出してくるのだが、今回はそういった行動が一切見られない。
それどころか、『四月初めの課題テストの点数がイマイチだったから、今からお兄ちゃんと強制個人補習やるよ♡』だの、『五月に体力テストがあるから、今のうちにトレーニングするぞ』だの、『前から見たいって言ってた人気作品の配信が始まったから、一緒にリビングで見よう!』だの、ありとあらゆる策略を使って私の手を止めようとしてくる。
まったく……。
まあ、去年から『何で(俺たち・僕たち)の担当している部活に入ってくれないんだ!?』なんて喚いていたくらいだから、家庭科部が廃止になるのは溺愛兄s’にとっては願ったり叶ったりなのだろう。
だって、この間なんて、『(俺たち・僕たち)の部に入ってくれたら、マネージャーの役職を“特別に”作れるようにすることもできるぞ』なんて職権乱用もいいとこなことまで言ってたし。
っていうか、マネージャーを置けるのは高等部からって聞いてたんですけど!?
……まあ、最悪家庭科部が無くなったら私は帰宅部になるだけなんだけどね。
マネージャーなんて役職についたら、それこそ朝から晩までべったりくっつかれること間違いなし。
そんなのは、断固お断りだ。
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