第ニ章 中学校第ニ学年

一限目(1-1)新入生部活動勧誘に、お兄ちゃんがいっぱい!?

 私の名前は、王番地おうばんちひかり。学力も運動も外見も、ごくごく平凡な女の子。


 今日から中学二年生!


 進級してからも、恋に、部活に、勉強に。キラキラした学校を送りたい!



 ……そんなはず、だったのに!?







「〜〜っ!? きゃあきゃあー! マジでめっちゃカッコイイっ♡」

「噂には聞いていたけど、本当にあんな先生がいるんだな!」

「すっげぇー! 何かあの先生たちの周りだけ光ってね!?」

「エフェクトみたいなのも見えんだけど、オレだけか?」

「ほぅ……なんて素敵なの……。薔薇の背景まで見えるようだわ」

「やっぱりこの学園にして良かったわね、あなた。本当にお美しい方々ばかり」

「うむ。あのような優秀な先生にうちの子を見てもらえるなんて、ありがたいことだ」


 体育館の中から聞こえる黄色の歓声。

 昨年度と同様に、今年度も篠花学園教職員発表は大盛り上がりのようだ。

 眉目秀麗の、しかも各分野で著名な実績のある教員が九名、昨年度からこの学園に赴任しているという話を聞きつけ、今年の中等部への入学希望者は殺到したとも聞いている。

 流石は、『華麗なる一族の九人兄弟』。

 篠花学園で教鞭を取ることになってからはメディア等の露出は激減したはずだが、それでも我が溺愛兄s’の人気は衰え知らずだ。


「やっぱ、今年の入学式も大盛り上がりだよねぇ〜。去年のうちらみたい」

「そりゃ、そうよ。だって、あんな先生他にいないもん。あ〜、今年も教科担任になってくれて超ラッキー。学年主任だと、いつも話が長くて眠くなるんだもん」

「今年の教科担任表が配られた時は、めっちゃヤバかったよね〜。他のクラスからも『きゃー!』とか『え〜!?』とかいろんな声聞こえてたし」

「アンタ誰押し? アタシは断然、空センセ♡」

「私は霧先生かな〜。あの儚げな雰囲気がそんじょそこらの男子には醸し出せない色気なんだよね〜」

「わっかるー! あっ、でも、堅物な夕っちとか怜っちも焦ると天然っぽさが出てきて可愛いんだよね〜」

「オレは葵&紫センセーだな! ゲームスコアを上げるコツとかめっちゃ教えてくれるし、美術も教科書通りじゃなくてオレたちが興味ありそうな題材扱ってくれるしな」

「春先生とか明先生は、凄えわかりやすく解説してくれるぜ。俺、理系分野に苦手意識あったけど、去年授業持ってくれたお陰でかなり点数上がったし」

「僕も英語の長文は見るだけで嫌だったけど、薫先生が歌とか動画とかを使って興味を引く授業をしてくれるから、集中して参加できるようになったよ」


 体育館脇の廊下でめちゃくちゃ盛り上がる女子トーク、いや、男女問わずたくさんのトークが咲き乱れる。

 前日に始業式を実施した新二年生と新三年生には、今年度の教職員発表も発表済み。

 昨年の入学式は在校生も参加していたのだが、今年は体育館の改修工事が遅れたか何かでスペースに限りができてしまい、今回は新入生と保護者のみの参加となっている。

 で、前日の発表で溺愛兄s’が今年度もこの学園に勤務することが知れ渡ると大歓声が上がり、さらにその後のホームルームで自分のクラスの教科担任表も配られたため、各学級内でも阿鼻叫喚だったらしい。

 ……まあ、私はだったため、無の境地になっていたんだけどね。



〈二年三組 教科担任一覧〉

 国語 王番地 きり

 数学 王番地 はる

 英語 王番地 かおる

 理科 王番地 あきら

 社会 王番地 れい

 体育 王番地 ゆう

 音楽 王番地 そら

 美術 王番地 ゆかり

 技術 王番地 あおい /家庭科 小林 みどり

 *なお、技術と家庭科は隔週で交互に行うこととする。



 期待もせずにペラリとめくった教科担任表。

 やはり今年も昨年と同様、教科担任名は『王番地』だらけ。

 担任の先生が一年生の時と同じく小林先生だったことだけが救いかな。

 はぁぁぁぁ…………。


 で、なぜ今、在校生が体育館脇の廊下に待機しているのかというと。

 それは、『新入生部活動勧誘チラシ配り』のためである。

 篠花学園では、新一年生は四月中は仮入部期間のため、いろいろな部活動を見学・体験することができる。

 四月第二週目には生徒会主催の部活動紹介をする場も設けられているのだが、新規獲得部員を狙いたい部活はその集会前に積極的に勧誘チラシを配っている。

 流石に、入学式の最中に部活動紹介を行うことは禁じられているが、今年は入学式終了後にチラシ配りが認められたため、新たな部員を獲得したい思惑がある部活、特に一チーム作るために多くの人数を必要とする部は、いまか今かとその時を待っているのだ。


 そんな中に一人、明らかに場違いな者が紛れていた。

 そう、『家庭科部』の私だ。

 週に一回か二回ほどお気楽に活動している家庭科部の私が、今回はにより、新入生を獲得するためのミッションに参加している。

 ……というか、必ずやこのミッションを達成しなければならないのだ。


「あっ! 式が終わったみたい。みんな、準備はいい?」

「いつでもオッケー! うちの部が一番早くチラシを配ってやるんだからね〜」

「負けねーし! 瞬発力だったら、うちの部の方が有利だしな!」

「戦略も必要よ。手当たり次第に配るよりも、受け取ってくれそうな新入生をロックオンして、明るく笑顔で。もちろん、受け取ってもらったら、『ありがとう』の一言も忘れずにね」


 す、凄い。そんなことまで考えているなんて。

 ただ新入生にチラシを渡せばいいと思っていたのに……。

 私があまりの熱量の違いに気後れしていると、入学式の新入生退場コールが鳴り、体育館の扉がガラリと開いた。

 その瞬間、辺りの空気がさらに一変。鬼気迫った表情に変貌する皆々。

 あうぅ……。

 完全に場違い。圧倒的な雰囲気に押されて、すでに負けレース確定なんですけど。

 そんな私を尻目に、どんどんと前傾体制になっていく周囲の皆々。

 そして、先頭の新入生が扉から姿を現し、こちらへ向かってゆっくりと歩み始める光景が目に入ってきた。


「今だっ! いくぞ!」

「はーい! こちらテニス部で〜す♡ 元気いっぱい楽しく活動できるから、みんな来てね〜♡」

「サッカー部員大募集! 抜群のチームワークでトップレベルを目指そう!」

「バスケ部は全中出場実績あり! うちに入ればパフォーマンスレベルが上がること間違いなし!」

「吹奏楽部は、プロ直伝の指導が受けられまーす! 楽器初心者でも先輩が丁寧に教えてくれるから大丈夫だよー!」

「芸能関係に進みたいのであれば、ぜひ演劇部へ! 本格的な演技指導が学べるよ!」


 などなど。

 各部、勧誘への熱量が半端ない。

 もうすでに、大半の部が大量のチラシを新入生に配布していた。

 そんな中、周囲の熱量に圧倒されながら恐る恐るチラシ配りを始める私。


「あ、あのぉ、家庭科部です。よろしければ……」

「あっ、スイマセン。もう他の部からチラシをいっぱいもらっちゃったんで持ちきれません」

「家庭科部かぁ……。地味ですね。興味ないんで」

「お菓子作りとかできます? あっ、なんだ。調理はできないんですね。じゃあ、いいです」


 結局、ほとんどの新入生からスルーされてしまった。

 完全に乗り遅れ。あうぅ。ど、どうしよう。

 そんな場違いな私がなぜ、こんな所に参加しているのか。

 それは――――――



 

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