ホームルーム(前半)お兄ちゃんs’VSお兄ちゃんs'①
「光ちゃ〜ん、おかえり♡ 今日もお疲れ様♡ そう言えばさぁ、オレたちに何かお土産はな〜い? あっ、どの部活に入るか決まった?」
「買い物してきてくれたんだ〜。ありがとうね! でさぁ、お兄ちゃん、今日教務室で小林先生が美味しそうなものをゲットしているのを見たんだよね〜。部活の時も、光が差し入れしてくれると凄〜く有り難いんだけどなぁ」
「重かっただろう。荷物持つぞ。部活の件だが、お前がいつ来ても大丈夫なように準備はしておくぞ。……んんっ! 俺は甘い物はそれほど嗜まないが、光が作った物であればどんな物でも食べきるから、もし余っているのならテーブルの上に出しておけ」
「光から美味そうな匂いが漂っていますね。あっ、僕の部はゆったりペースで活動できるから、光に合っていると思うんですよ。だから、美術部に来ませんか?」
「光が作ったスイーツはいつ食べても絶品だからな。それはそうと、家庭科部の件は残念ではあるが光のせいじゃない。だから、安心して俺の元へ来ると良いさ」
「熟れた果実のような蕩ける香りは、九つの迷える闇を導く光となる……。うん、良い文言が綴れそう。やはり光が側にいると、言葉が冴え広がります。帰宅部なんてもったいないですよ。書道部は、清楚で艷やかな光にとても合致していると思うのですが」
「光りんが一番美味しいと思うよ。やっぱり、光りんが帰ってくると癒やされるなぁ。部活の時も一緒にいてくれたら、お兄ちゃんとーっても嬉しいんだけど」
「ストップ。際どい表現はそこまでですよ。まあ、こちらとしてはいつでも準備は出来ていますから、光さえよければいつでも。とにかく、今回のことは申し訳なかったですね。しかし、我々も強く言える身分ではない上、職員会議で反論は出来なかったのですよ」
「お前らキモッ。あっ、オレんとこはロボコン部マネージャーいつでも大募集中だからな! つーわけで、あのマフィン余ってるんでしょ? お兄ちゃんにちょーだい☆」
玄関の扉を開けると早々に、待ち構えていたかのようにずらりと出迎えに来た九人の溺愛兄s’。
私はあれから教務室へ行って小林先生と今後のことについて打ち合わせをし、その後は食料品の買い出しのためにスーパーへ寄っていたため、普段より帰宅が遅くなった。
逆に、今日は珍しく溺愛兄s’の方が早く帰ってこられたようで、すでに夕食の準備を済ませて私を待っていてくれていた……のだが。
私が帰ってくるなり、自分たちの言いたいことを矢継ぎ早に私に浴びせてくる溺愛兄s’。
聞こえたワードからは『自分が顧問をしている部活への誘い文句』と『どこぞで聞きつけてきたマフィンのおねだり』の二点を中心に話しているようだが、九人一度に話し出すものだから一人ひとりが何を言っているのかはほとんど聞き取れなかった。
こんなに一度に聞き分けられるのは、逸話の残る聖徳太子ぐらいなものなのではないだろうか。
それにしても、溺愛兄s’の発言から推測するに、彼らの中ではすでに家庭科部の廃止が確定したと認識しているようだ。
でも、残念。お兄ちゃんたちの思い通りにはならないんだからね。
「何言ってるの? お兄ちゃんたちの部活には行かないよ。だって、家庭科部は存続が決まったんだもん」
私の言葉に、九つの色鮮やかな発言がピタリと止まる。
あれだけ賑やかだった玄関ホールの空気感が、打って変わったかのようにシンッと静まり返った。
溺愛兄s’にとっては、予想もしていなかった発言だったのだろう。
スローモーションがかかったかのように、ゆっくりとぎこちない動きで私の顔を覗き込んだ。
「…………はっ?」
「えっ?」
「な、何?」
「や、嫌だなぁ。ナ、何イッテルノ、光ちゃん?」
「ははっ。嘘はいけないなぁ〜」
「キコエナイ」
「信じない」
「光。現実に背きたくなることはあると思うが、やはり受け入れなくてはならないこともあるんだ」
「残念ながら、新一年生の入部届の提出期限は明日の朝までです。なので、現実的には今日中に入部の意思を示していなければ……」
「だーかーら! その入部してくれる子たちが見つかったの! ほら、小林先生からも家庭科部存続の承認書を発行してもらったもんね!」
挙動不審になる溺愛兄s’に対して、私は貰いたてほやほやの“証拠”を十八個の眼の前にドンッと突き付けた。
目をパチクリさせながら覗き込んだ溺愛兄s’は、さらに激しく動揺し始めてしまう。
「何で!? 何で!?」
「いったい、いつの間に!?」
「う、うっそだろ……。オレと光のハッピーライフが……」
「くっ……。俺としたことが、こんなにあっさりと出し抜かれるなんて」
「空! お前、ちゃんと一年の連中の動き見てたのかよ!?」
「俺はちゃんと見てたって! それより、葵は何でもっとうまく制御しなかったんだよ!?」
「はぁ!? てめーこそ、光にくっついてばかりで何もしてなかったじゃねーか!」
「せ、せっかく光ちゃん専用のマネージャーコスチューム考えていたのに〜!」
「そ、それにしても、いったい誰が入部したんだ……?」
困惑を隠しきれない溺愛兄s’に対して、私は勝利宣言の如く、びしっと腕を伸ばしてピースサインを掲げた。
「梅野俣家の双子の一央ちゃんと二央くん。速攻で入部届書いてもらっちゃった!」
「「「はぁぁぁぁーーーー!?」」」
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