六限目(6-1)終業式でさえも、お兄ちゃんがいっぱい!?

 あれから。


 平穏なのか、ドタバタなのか、毎日が目まぐるしい勢いで駆け抜けていったけれど、あっという間に今年度もあとわずか。来週は終業式だ。

 今年は、本当に、ほんとーーに、大変な一年だった。


 新しく始まった中学校生活。

 恋も、部活も、勉強も。キラキラした学校生活を送りたい! …………なーんて、思っていたけれど、予想は大外れ。

 キラキラどころか、特に冴えることなく、いたって普通の、ふつーーの中学校生活を送ってきただけだった。


 溺愛兄’sたちのことを除いては。


 だいたい、自分の兄がまさか同じ学校に、それも教師として赴任して来るなんて、誰が想像できようか。

 しかも、全員が教科担任。何度考えても、一年経っても、信じられない。あり得ない。


 そして、物凄く、ものすごーーく、この一年の間に兄たちは何かと理由をつけては私のイベントごとに絡んでこようとしていた気がする。

 普段の授業では他の生徒と同じようにいたって普通に接してくるのに、何かしら特別なイベントが起こりそうなものなら、九つの壁があっという間に現れ、まるで何もなかったかのようにスルースキルが発動されてしまう。

 特に、『恋』の部分に関しては、完全なる妨害・防御を固められて来た気がする。


 ……気のせいかもかもしれないが。


 でも、もしかしたら、ほんの僅かでも発生していたかもしれない恋愛フラグも、気づく間もなくポキっとへし折られていた可能性だってあるかもしれない。


 先月のバレンタインだって、そう。


 クラスメイトに渡そうと思って、お屋敷のキッチンで作ったチョコブラウニー。

 友チョコだって言い張っても、「誰に渡すんだっ!?」だの、「渡す前に検食が必要なので、作ったもの全部ください」だの、「男子生徒全員に、光からチョコを受け取りたかったら、オレたちの事前報告が絶対条件だからって釘刺しておいたからな!」だの、ここまで!?っていうくらいの予防線を張られたのだ。

 そのくせ、自分たち用のチョコはどうしても欲しかったらしく、バレンタインデーの二週間以上前から“ください”アピール、何なら、他の兄弟よりも特別なものが欲しいおねだりをする始末。

 でも、お兄ちゃんたちの中で一人だけ特別扱いすると、それこそ大論争が巻き起こるに違いないので、今年は大きめのホールでガトーショコラを焼き、それを『各自均等に切り分けて食べること』と書いたメモと共にお屋敷のリビングにドンッと置いてきたのだった。


 まあ、そんなこんなで、一年の行事やイベントもほとんど終わったある日の夜のこと。

 自室で今日学校から出された課題を行っていた私に、大旦那様からの急な呼び出しが入ったのだ。

 大旦那様の書斎を訪れるなんて、いつぶりだろう。

 そもそも、顔を合わせて話すことすら数ヶ月ぶりのような気がする。


 ――――でも、きっといい話ではない。この予感は、当たる。


 私には昔から、他の人とは違う『少し変わった特技』を持っていた。

 不思議な力、というべきものなのだろうか。

 いわゆる、『少し未来の、先の状況を読む』ことが無意識に出来ていたのだ。

 特に、何かの訓練を受けたわけでもない。ただ、何となく、感覚的にわかるのだ。


 見えるものは、“光”か“闇”。


 “光”の場合は、薄いオレンジと白の合わさった色が現れ、進むべき道を照らしてくれる。

 “闇”の場合は、真っ黒な、その中へ飲み込まれそうな暗闇が現れ、立ち止まるべき道を示してくれる。

 昔はほぼどんな時でも無意識に先の状況を読むことが出来ていたのだが、今は『いろいろあって』毎日、毎時間それが見えることはなくなった。

 そのため、超能力や占いといった類のもののように誰かの人生を読み取れるわけでもなく、ましてや、テストの時に『こっちの選択肢が答えだ!』といったことがわかるわけでもない。

 ただ、自分の力を完全にコントロールできているわけではないので、ふと、ある瞬間にことがあるのだ。


 最近見えたのは、先月のラーケーションの帰りの時。

 オーナー夫妻の後ろにぷつりと切れた、真っ暗な暗闇。

 明お兄ちゃんが途中で私の眼を優しい大きな手で覆い隠してくれたが、あれは、数年後のペンションの行く末を指し示していたのだろう。

 これから何が起こるのかはわからないが、きっと、中学卒業後に私がアルバイトを望んでも叶えられない未来………のはずだ。


 毎回見えるわけではないけれど、見たくないものまでたまに見えてしまうこの力。

 それをいつも見えないように、そして、この『変わった特技』を悪用されないように、守ってくれているのがお兄ちゃんたちだ。

 きっと、この間のラーケーションの件も、お兄ちゃんたちが関わっているのだろう。


 最初は、私をあの新年会に参加させないようにするために王番地家親族の誰かが画策したものだと思っていたが、今振り返ってみれば、ラーケーションの話が出てからの短期間に、保護者が書く許可書や事前計画表、ラーケーション終了後の実施報告書まで、各種書類を用意するのはなかなかに無理がある。

 というか、“お邪魔虫”の私に対してそこまでの労力など割かないだろう。

 だって、自分の部屋から出ない限りは親族の誰とも顔を合わせることはないのだから、今までみたいに『親族の集まりの時は部屋から出てくるな』の一言で済ませばいいだけなのだ。

 だからきっと、あの一件はお兄ちゃんたちが予め準備してくれていたものなんだと思う。

 もしかすると、今年度から取り入れられたラーケーションの制度すらも、ずっと前から、こういった時のために考えられていた可能性だってある。





 “邪魔者”を遠ざけるためではなく、あの煩わしい親族たちから“守るため”に――――

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