五限目(5-2)ラーケーションにも、お兄ちゃんたちがいっぱい!?
パチッ。パチパチッ――――
火の爆ぜる音が暖炉の中から現れ、今はだれもいない『憩いの間』に響き渡る。
しんしんと降り続く雪が、外部からの音を消し去り、爆ぜた声をより鮮明に奏でていた。
窓から外の様子を見ると、雪はすでに昨日より高く積もっている。
この辺りの雪はとてもさらさらしたもので、いわゆるパウダースノーと呼ばれているものだ。
私が前に行った別の施設は、とてもずっしり重い雪だったと記憶している。
同じ雪でも、地域によってまったく違うものになるなんて不思議。
やっぱり実際に体験して、体で直に感じてみないとわからないものだ。
パチッ。パチパチッ――――
「あったかいなぁ……」
今は朝の十時を過ぎたところ。
誰もいなくなったこの場所で、私は遅い朝食をとらせてもらっていた。
今日のまかないは、オーナーの奥さん手作りの丸パンに、コーンポタージュ。
野菜サラダとソーセージ、スクランブルエッグとともに、地元産の牛乳を使ったホットミルクココアも添えて。
時間が経ってしまったので出来立てではないが、お客様にお出しするメニューとほぼ同じものを用意してもらった。
朝食の時間を過ぎると、ほとんどのお客様はペンション近場のスキー場や温泉施設へ繰り出すので、室内はがらんとしている状態だ。
ペンション王番地では昼食の提供はないため、概ねこの時間から夕方四時頃までは接客の仕事はない。
なので、各部屋の掃除や浴室の清掃、夕食の仕込みの手伝いが終われば、残りの時間はフリーとなる。
オーナーさんに夕方四時前までに戻ってくればスキー場で滑って来てもいいと言われたが、あいにく私はスキーやスノーボードの経験がなく、一人でチャレンジする勇気はなかった。
パチッ。パチパチッ――――
「ふぅ。これから、どうしたらいいんだろう……」
将来のこと。これからの自分。
前の三者面談で小林先生が言っていた通り、冬に入ってから総合の学習の時間では自分の将来のことに関連する内容が始まった。
今自分が興味を持っている仕事についてタブレット端末を用いて調べたり、身近な家族の人の職業についてインタビューを行ったり。
まあ、私の場合は家が特殊なので家族インタビューは行わず、もっぱらタブレット端末を使って調べ学習ばかりをやっていた。
……溺愛兄s'は、妹からのインタビューをいまか今かと待っていたようだけど。
きっと、ものすごーく煩いことになると思ったから、インタビューに関しては完全無視した私。
でも、今になってみれは、少しでも聞いておいた方が良かったかも、と思っている。
というのも、私はまだ何を目指せばいいか決まっていない状態なので、いざ調べ学習をしようと思っても、どういったことから調べればいいのか最初のワードが思い浮かばず、手が止まってしまったのだ。
しかも、『中卒 仕事』『高校 一人暮らし』『未成年 住む場所』など、余計なことまで検索してしまい、さらに不安が高まってしまっていた。
まだハッキリと言われたわけではないが、中学卒業後にはきっと王番地家から追い出されることになる私。
今のうちに、中学卒業後の生活を真剣に考えなければならない。
しかし、ネットでの検索は情報が溢れすぎていて、見たくない内容まで目に入ってきてしまう。
自分の気持ちが、心のざわめきが、それらの情報によってより一層大きく揺らいでしまっていた。
なので、今回のラーケーションは、そういったネットからの情報を遮断し、生の体験が出来る良い機会となっていたのだった。
「住み込みで働くのも、いいかも……」
今回、ラーケーションでお手伝いをさせてもらい、わずかながらにやりがいを感じている自分。
特に、料理関係は仕込みの段階から手順を見せてもらっているので、勉強になることだらけだった。
オーナーさんに、中学卒業したら住み込みバイトができるかお願いしてみようかな……。
リーンゴーン、リーンゴーン
そんなことを考えていると、ペンション玄関の方ならドアチャイムが鳴り響く。
スキー場に行ったお客様が、もう戻ってきたのかな?
オーナー夫妻は今作業中のようなので、代わりに私が様子を見に行くことにした。
すると――――――――
「あ〜、寒かった! 光ちゃぁーーーん久しぶりっ!会いたかったよ♡♡♡♡」
「丸24時間以上、会えませんでしたからね」
「ホント、こんなに光の顔を見られないのは初めてと言っていいくらいだったもんね」
「心の隙間を埋めるのは、やはり我が妹からの愛情を込めたぬくもり……」
「光りん欠乏症だよーー! ぎゅーーってさせて〜」
「おいっ! 明、いきなりズリーぞ! ってか、薫はちゃっかりハグしてんじゃねーか!」
「ハグは挨拶、ノープロブレム! 世界共通の文化だからね」
「ここは、日本だぞっ! まったく。お前たち、もう少し落ち着きを……」
「とか何とか言って、夕だってここに来るまでソワソワしてただろうが。さあ、光。会えなかった分、じっくりと俺たちと温め合おうか」
いつもの声。
いつもの九つの音色を奏でる、九人合唱。
うるさく、むず痒く、でも、ちょっぴり嬉しい声。
「な、何でっ!? 何で、お兄ちゃんたちがここにいるのよーーーー!?」
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