五限目(5-1)ラーケーションにも、お兄ちゃんたちがいっぱい!?

「光ちゃーん、おかわりー!」

「こっちも、お願い!」

「あっ、あちらのお客様からも呼ばれているわ。光ちゃん、焼きたてパンを追加で持って行ってちょうだい」

「は、はいっ! お待たせしましたーー!」



 芳ばしいバターの匂いがダイニングルームいっぱいに広がる、朝八時。

 優雅に食事を楽しんでいる利用客とは裏腹に、奥のキッチンスペースは慌ただしい音を奏でながら、次から次へと注文されるメニューと格闘していた。



 ここは、ペンション王番地。

 私が普段住んでいる地域から見ると、隣の県の山間に位置している。

 夏は避暑地として、冬はスキーやスノーボードを楽しむ人たちで賑わう場所だ。

 王番地グループの中でリゾート開発を担っている部門がこのエリア一帯を整備し、自然との調和をコンセプトにゆっくりとくつろぎ楽しめるよう、スキー場や温泉施設、ホテルやゴルフ場といったものを手掛けてきたらしい。

 最近は、キャンプ場も兼ねた複合型の施設まであるんだとか。


 でも、このペンション王番地は、リゾート開発が本格的に始まる前からずっと営業してきたとのこと。

 オーナーさんは、もともと王番地家が持っていた別荘の管理人さんをやっていたんだって。

 で、その内のもう使われなくなった別荘を譲り受けて、ご夫婦でペンションを始めることにしたと、ここへ来た日のティータイムの時間に教えてくれた。


 ちなみに、私はここのお客様ではない。

 今回は『お手伝い係』として二泊三日、ラーケーションにやってきたのだ。


 篠花学園は、今年度からこのラーケーション、いわゆる、学習と休暇の合わせ方式を希望者に許可する制度を取り入れた。

 もちろん、遊びではなくメインは学習なので、保護者の許可書や事前計画表、ラーケーション終了後には実施報告書を担任に提出しなければならないのだが、認められれば平日に学校を休んで活動を行うことができるので、すでにこの制度を活用したクラスメイトも何人かいる。

 で、私もその制度を使って、というか、『取らされて』、今ここにいるわけだ。


 ちなみに、今日は土曜日の朝。

 前日からこのペンションにお邪魔して、食事や掃除、ベッドメイキングや洗濯の補助を担当している。

 アルバイトではないので無理せずやってくれればいいとオーナー夫妻は言ってくれたけれど、せっかくの機会、いつもの重たぁぁーーい愛を惜しげもなく注いでくる溺愛兄s'がいないのだ。

 将来のことを考える一つのチャンスとして、実際に職業体験しながら色々なことを学びたい。



 ……だって、将来のことは、お兄ちゃんたちには頼れないから。





 毎年、一月中旬に王番地家主催の新年会が大規模に行われる。

 親族だけではなく、政財界の様々な人たちが参加するため、年間行事の中でも大きなイベントごとになっているそうだ。

 しかも、今年は大旦那様が当主に就任してから三十周年の記念の年にあたり、さらに数年ぶりの大規模な新年会開催になるため、数ヶ月前からお屋敷の中は準備で慌ただしい状態となっていた。

 もちろん、お兄ちゃんたちも主賓……というか親族の人たちに強制的に連れ出され、来賓の方々への接待をするはめになったらしい。

 眉目秀麗の容姿、そして様々な分野で大活躍中のお兄ちゃんたちを、周りが放っておくわけがない。


 なんたって、『華麗なる一族の九人兄弟』だもんね。


 で、私はいつも通りお留守番……というか、今回はお屋敷に留まることさえ許されなかった。

 新年会自体は、王番地家の関連会社が運営しているホテルを貸し切りにして行われるらしいが、その後に親族だけで集まる会は普段私たちが住んでいるお屋敷で行われるらしい。

 お屋敷にも大広間の他、かなりの部屋数があるため、部屋から出ない限りは顔を合わせることもないのだけれど、それでも、同じ空間に“邪魔者”がいることに目くじらを立てる人がいるそうだ。

 かなり大掛かりになる記念集会も兼ねた新年会になるため、皆がピリピリムードになっていた。


 で、このお邪魔虫をどうにか遠ざけようと誰かが入れ知恵したのか、体験学習と称して大旦那様の秘書さんを通じ、このラーケーションプランを与えられたのだった。



 そんなわけで、私はたった一人でペンションへ来て、体験学習の真っ最中だ。



 忙しいながらも、やりがいがあって、とーーっても充足した気持ちと、少しだけ、ほんのちょっぴり、切ない気持ちを織り交ぜながら。

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