課外授業:お兄ちゃんs'VSテーラー花

「くおぉーーーーーーらっ! クソ花っ! 出てこいっ! よくもやりやがったな!」

「絶許」

「あ、あんな辱めを受けることになるとは……。おのれ、この竹刀で性根を据えてやるっ!」

「ほんっとーーに、エラい目にあったぜ。生徒だけじゃなく保護者にまで何度も話しかけられたり、握手会やら写真撮影会やらさせられたり、何なら抱きつき行為まで……。いろんなとこ触られて、もうボロボロなんだけど」

「そうだ! そうだ! お前があんな入れ知恵しなきゃ、また一つ光との“煌めきドキドキ♡思い出作り”ができたのにっ!」

「ネーミングセンス壊滅的だな、それ。」

「さすがに言葉が過ぎますよ、紫。『ぜひ、我々のもとへお越しいただけませんでしょうか、花様』と言うべきなのでは」

「うへぇ~、漢字違いで凄え意味になるな。まっ、その通りだけどな」

「ったく。お前が絡むとろくなことにならないな。どういうつもりだ?」


 疲労困憊の状態のまま、俺たちは通い慣れた店の扉を勢いよくガンッと開ける。


 一言、いや、九言文句を言わなきゃ気が済まない!


「もーー、煩い連中だねぇ。こっちはもう終業時間なんだよ。なんだい、こんな夜分にやってきて」


 文句をぶつける対象は、いつもの小綺麗な格好ではなく、ボサボサの髪とスウェット姿で俺たちの前に姿を現した。


 ほんっとーーに、面倒くさそうな表情をして。


「……お前のその姿、光に見せてやりたいよ」

「このカメレオンテーラーめ」

「まじで、オレたちと光の前では態度も口調も全っ然違うよな!」

「はんっ! アタシだってTPOくらいわきまえているわよ。可愛い光ちゃんの前で、こんな格好するわけないでしょ。だいたい、態度も口調も違うのはアンタたちの方じゃないの。んで? 何?」

「『何?』じゃねーよっ! お前、光になんつー手助けしてんだよ! おかげでこっちは、今日酷い目にあったんだからな!」

「絶許」

「く、屈辱的行為をされて、黙っているわけにはいかないっ! そこに直れ!」

「……夕は、どこを触られたんだよ」

「霧なんか、あまりの衝撃に『絶許』の語彙しか出てこなくなったんだぞ!? 生業が小説家なのに。ってか、『お代は写真』って何だよ!? 肖像権の侵害だ!」

「肖像権の侵害は、民法第709条の不法行為を根拠として損害賠償請求することが考えられるな」

「あーあー、もーーっ、みみっちい男どもだね。光ちゃんが自分一人で頑張って企画した出し物だよ。アンタたちは、可愛い妹の成長ぶりを応援する気にはなれないのかい?」



「「「くっ…………」」」



 相変わらず、グサリと響く言葉の数々を、刺し子のように貫いてくる。

『王番地家九人兄弟』と評され、周囲からは過剰なほどに尊敬と畏怖の念を抱かれている俺たちに、出合った頃から正直に、容赦なく立ち向かってくる、花。


 言葉だけじゃなく、喧嘩の腕っぷしも相当なものだったけどな。男子校で。




 結局、『言いたいことが済んだら出ていきなっ!』と無理やり店から追い出された俺たちは、光に撮られた写真を取り返すこともできず、すごすごと帰路へ着くしかなかったのだった。



 くそっ! こうなったら!

 この鬱憤を! 癒やしを! 消毒を!



 光を溺愛しまくって晴らしてやるからなっ!!

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