四限目(4-1)三者面談でさえも、お兄ちゃんがいっぱい!?

『      三者面談のお知らせ


 ○○の候、保護者の皆様には益々の御健勝のこととお慶び申し上げます。

 さて、第二回保護者面談(三者面談)の日程についてご案内します。

           記

 日時 ○月○日〜○月○日 午後一時〜午後四時三十分まで。

 下記の欄に、第三希望までご記入いただき、○月○日までに学級担任にご提出ください。なお、………                 』





 ……はぁ。配布された手紙を見て、何度も深いため息をつく。


 どうしよう。


 小学校の時はお兄ちゃん達が保護者代わりとして交代で来てくれたけど、今回は同じ学校の教師。

 とてもじゃないけれど、保護者面談に同席してもらうことは出来ない。



 篠花学園の保護者面談は一年間に三回ある。基本的に、三者面談スタイルだ。

 一学期の面談は中学校三年生と高校三年生の学年以外は希望制、二学期と三学期の面談は全員必須となっている。

 一学期に行われた保護者面談の内容は、主に普段の学校生活や一学期でのテストの結果など。

 私の家は面談を希望しなかったので、一学期は生徒面談だけの実施で終わっていた。



 ……というか、お兄ちゃん達は教務室でことあるごとに私の普段の様子(お兄ちゃん達の担当教科以外)を聞き出していたそうで、『毎回細かい場面のことまで聞かれるから、もし保護者面談を希望されたら新しく話せることがなさ過ぎて、困っていたと思うわ』と、後から小林先生が苦笑交じりに教えてくれた。


 ――お兄ちゃん達がしつこく、しつこく、小林先生の後を追いかけて私のことを聞き出す姿。


 安易に想像できる。


 は、恥ずかしい……。



 でも、二学期の三者面談はよほどのことがないかぎり必須。

 しかも、面談内容は主に『進路』に関することだった。

 篠花学園は中高一貫校なので、中学生の場合の進路指導は本来であれば高校受験のためというよりもその先の将来のことに向けての相談がメインとなる。

 文武両道を掲げるこの学園は、学習状況においても生徒一人ひとりの状況をその都度把握し、よりきめ細やかな指導を行うことを重視している。

 そのため、成績が伴わない場合は内部進学が不可となることもそうだが、本当に自分がやりたいこと、目指すべき道を中学校一年生時から意識させ、目的意識を確実に持たせるようにしているとのこと。

 三者面談においては、より将来への自分像をイメージさせることを目的としているため、保護者と一緒に考えるとても大事な過程だそうだ。


 なので、担任の小林先生からも今回の面談については、念押しされた。


「将来へ向けての大切な面談になるから、今回はお兄さん以外のお家の人から来てもらってね」



 そうなると、あとお願いできるのは『父親代わり』となっている大旦那様だけ。


 でも…………。



 考えるだけで気が重くなり、今日何度目かわからないさらに深いため息をついた。



 はぁ……。どうしよう。




『父親代わり』となっている大旦那様。


 王番地 長道ながみち。六十八歳。


 王番地家は代々続くその地域の有力者であり、特に長道が当主となってからは製造業を中心に多種多様な分野にまで手広く事業を拡大させ、一大財閥にまで昇りつめていた。


 一族きっての切れ者。


 常に表情を変えず、冷徹に物事を対処していく王番地家当主が、周囲に何も相談せず急に養子を取ったのは、今から十五年前のこと。

 しかも、いきなり九人も。

 当時、かなりの大事になったらしいが、当の本人は『慈善事業の一環として、才能ある子どもに一流の教育を受けさせて最大限伸ばしてあげることに、何か問題でもあるのか』と動じず。


 そして、私は兄たちに遅れて今から五年前にこの王番地家に引き取られた。


 ちなみに、大旦那様だけではなく、私たち兄妹全員誰とも血は繋がっていない。赤の他人だ。


 でも、兄妹の中で私だけが“異質”だ。

 兄たちは多くの養子候補者の中から『才能ある子ども』として見出され、この王番地家に引き取られたと聞いている。


 しかし、私は違う。

 私だけは、何の取り柄もないだ。


 確かに、『少し変わった特技』は持っているが、今現在それが勉強や運動面に生かされているわけでもなく、何か人のために役立てられているわけでもない。

 兄たちとは違いあまりに平凡過ぎる私を見て、王番地家一族の人たちは疑念の声を上げていた。


『何故、こんな子が』


 ――それは、私が教えてほしい。


 兄たちと比較されるのは昔からのことだし、事実だからそのことに関して特に嫌な気分を持ったことはない。

 あるのは、自分に対する卑下の気持ちだ。兄たちとはまるで違う自分が、何故この家に引き取られたのか。

 周囲の人たちは、何かの手違いだろうと陰でヒソヒソ囁いていた。


 私もそう思う。


 いまだに大旦那様と会話をする時はほんの僅かな時間しか許されていないし、そもそも私だけ大旦那様を『父の名称』を使って呼ぶことは禁じられている。

 私だけ、距離を置かれているのだ。


 そんな状況だから、今回の三者面談の件を大旦那様に伝えることはできない。


 仕方なく、担任の小林先生には家の特殊な状況を説明し、私だけ二者面談にしてもらうことにした。

 面談で話した内容は、後で文面にして大旦那様へ郵送してもらうようにお願いしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る