四限目(4-2)三者面談でさえも、お兄ちゃんがいっぱい!?

 ……のはずだったのに。



「〜〜っ!? 何で!? 何で、お兄ちゃんたちがここにいるのよっ!?」



 三者面談、溺愛兄s'全員参加。

 三者面談どころか、十一者面談になっている。

 担当の小林先生と向かい合わせに椅子を十一脚、私を囲むように押しかけ兄s'が座っている姿は、はたから見ると物凄い光景だ。

 ズラリと並んで座っているお兄ちゃん達を見て、担任の小林先生も若干引き気味になっている。



「〜〜〜〜っ!? だーかーらっ! 何でここにいるのよっ!? ってか、堂々と椅子を並べて座らないで!」

「せっかくの面談なのに、保護者が同席しないのはおかしいでしょう?」

「そっそー! 水くさいなぁ光ちゃん。愛する妹のためなら、いくらでも時間を割いてあげるのに」

「小学校の頃は順番制で参加していましたけれど、今は同じ学校にいますからね。全員で出席する方が効率も良いかと」

「余計な争いも起きないしな」

「我々は、みな平等。仲良く分け合う平和主義者だからな」

「大体、親父の奴がいつもあんな渋っ面の表情だから、光ちゃんが怖がっちゃうんだよなー。もっと笑顔で接すればいいのに。スマイル、スマイル!」

「笑顔……それはいささか気味が悪いですね」

「キモッ」

「俺たちが光りんを愛しているんだから、あんな奴どーだっていいだろ。さあ、小林先生。我らが愛する妹の様子について、もっともっと教えてください!」

「は、はぁ……」


 九人いっぺんに話しかけられ、小林先生もたじたじだ。

 これじゃあ、ろくに先生と話をすることができない。


 ……ん? ちょっと待って。


 溺愛兄s'が急遽面談に参加したことで頭がパニックなっていた私は、ふとあることに気がついた。

 よく見ると、溺愛兄s'の姿は今日の学校で見た出で立ちと大幅に変わっているのだ。

 授業中に見たシンプルなスーツ姿やジャージ姿などと違い、ジャケットやパンツ、身につけている時計やビジネスバッグまで。

 細部に渡り、それぞれの個性に合わせてトータルコーディネートされている様相だ。


 ……何なら、霧お兄ちゃんなんか羽織袴を着た和装姿になってるし。

 いったい、いつの間に着替えたのだろう。


 春お兄ちゃんや怜お兄ちゃんのスーツ姿は普段からも見慣れているが、それでも今眼前に見えるその服装は高級感に溢れ、生地の一つ一つが艷やかな度合いを見せている。

 ……うん。子ども目線からしても、桁違いに高価なものだと感じ取れるものだ。


 薫お兄ちゃんと明お兄ちゃん、空お兄ちゃんは、ネクタイやネクタイピン、カフスボタン(正式にはカフリンクスって言うんだって)など細かな部分にまでこだわりがあるようで、上品さの中にさりげない遊び心を取り入れた感じになっている。

 こういうワンポイントだけでもパッと見た瞬間に目を引くような存在感を醸し出せるのが、おしゃれなんだよねぇ。相変わらず、凄い。


 夕お兄ちゃんと紫お兄ちゃん、葵お兄ちゃんは授業の関係もあり、普段からジャージや作業着を着用していることが多い。

 かしこまった行事でなければフォーマルな服装をすることはめったにない。ネクタイ姿も稀なのだ。

 なので、いつもの姿と比べてギャップがあり過ぎる。今日の姿なんて、特にそうだ。グッときてしまう。


 こんな感じで、いつも以上に身なりに気合が入っている溺愛兄s'。九人が一同に並ぶと、まさに壮観。


 正直に言えば、カッコいい。

 物凄く、カッコいい。


 いつにも増して、異常なほどキラキラ輝いているように見える溺愛兄s'の姿。

 クリスマスのイルミネーションの煌めきが、九人を取り囲んでいるようにさえ見える。

 ……眩しすぎるんだよなぁ。

 教室全体にエフェクト加工でもされているのだろうか。

 この格好で授業を行ったら、生徒の大半は卒倒するだろう。



「……はぁ。お兄ちゃん達、その格好は何? 授業中に見た姿と、ぜんっぜん違ってるんですけど?」

「おっ! 気づいてくれた? さすがオレの愛する光ちゃん♡」

「非常に良い観察眼だな」

「僕のは、今日のために新しくおろした着物なんですよ。帯の柄にもこだわってみました。いかがでしょうか?」

「お、俺はこういった格好は不慣れなのでな……。ど、どんなものだろうか?」

「オレは、今日のためにテーラー花に新しいやつ仕立ててもらったよ〜」

「そうそう!オーダーは、『愛する妹のための保護者面談での服装』ってね!」

「めちゃくちゃ値切ってましたけどね」

「あれはアイツが悪いっ! この間の仕返しだ!」

「ね、ね、この格好、どう?どう? 似合ってるー? カッコいいー?」



 マイペースに我が道を行く溺愛兄s'。

『褒めて褒めて!』と言わんばかりに、尻尾を左右に振っているような幻覚さえ見える気がする。

 頭が痛くなってきた。


 

「もーーーーッ! うるさいっ! いいから、出て行ってっ!」


 限界にきた私は、お兄ちゃんs'の背中を無理やり押し、教室の扉の外へ締め出すことにした。

 とっておきの呪文を使って。


「今すぐ出て行って! これ以上ここにいたら、明日から手作りのお弁当作り止めるからねっ!」

「「「帰りますっ!!」」」



 溺愛する妹から『恐怖の呪文』を浴びせられた九人の兄s'は、ガタガタと大きく椅子を引く音を立てながら慌てて外へ飛び出して行ったのだった。

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