三限目(3-4)体育文化祭にも、お兄ちゃんがいっぱい!?

「……え?」

「……はい?」

「……ど、どういう、こと?」


 私の突然の発表に、戸惑いの表情を浮かべる溺愛兄s'。

 さらに眼前に突き出された用紙の内容を見て、驚愕の声を上げた。


【王番地先生に来てほしい衣装:アンケート結果】

 第一位:燕尾服(執事の衣装)

 第二位:貴族服(王子・王族衣装)

 第三位:和装(着物や時代劇の衣装)

 回答総数:六百三十票

 *文化祭当日は、王番地先生が第一位に選ばれた衣装を来て各エリアの案内係を務めますので、前日準備の際に各部の代表者は家庭科部と打ち合わせを行ってください。


「はぁぁぁぁぁーーーー!?」

「なにーーーーっ!?」

「な、何だこれっ!?」

「こんなアンケート、いつ取ったの!?」

「俺、何も知らないんだけど……」

「僕も聞いてないよっ!?」

「い、衣装……?」

「コスプレじゃねーか、これっ!?」

「想定外の事態に、頭が混乱しているのですが……」


 大混乱している兄たちに対し、私はふふんっと誇らしげな顔つきで発表する。


「これが、我が家庭科部の今回の出し物っ! 被服も家庭科部の内容に入っているからね。アンケートも、ちゃーんと顧問の小林先生から許可をもらって、学校支給のタブレット端末からアンケートフォームを作成したんだよ。締切が短時間しか設定できなかったから回答率が低かったらどうしようかと思ったけど、ほとんどの生徒から回答を貰えて良かったぁ〜」


「そ、そんないつの間に!? 」

「葵! お前、気づかなかったのかよっ!?」

「ぜんっぜん! 気づいてたら、ぜってー阻止してたって!」

 霧お兄ちゃんと空お兄ちゃんが、葵お兄ちゃんに詰め寄っていたが、私は人差し指をチッチッチと左右に降ってタネ明かしをする。


「そう思って、アンケートの回答時間は先週月曜日の職員会議をやっていた時だけに限定したんだよね。アンケートを行うことは小林先生にも協力してもらって各クラスの家庭科の時間に周知してもらったし、『王番地先生にバレたら企画は中止』ってことも強調しておいたからね。さすが、みんなお兄ちゃんたちの衣装姿を見たい気持ちが強かったみたいで、秘密をバラさないよう鉄壁の口の固さだったよ!」


 私からのタネ明かしを聞き、顔面蒼白になりながらギャーギャー騒ぎ立てる溺愛兄s'。


「で、でも、俺たち九人分の衣装を作るなんて、そんな素振りは見せなかったはずた!」

「そ、そうだぞ! サイズだってわからないだろ!?」

「そもそも、光一人で準備するのは不可能だとおもうのですが……?」

 怜お兄ちゃんと夕お兄ちゃん、春お兄ちゃんが急に聞かされた内容に対し、驚きながらも疑問を口にする。

 もちろん、衣装アンケートはあらかじめ選択肢を絞っておいたとはいえ、この短期間に私一人だけで九人分の衣装を作るなんて不可能に近い。

 なので、事前にどれが選ばれても対応できるよう、対策は練っておいた。


「うん。私一人じゃさすがに無理だから、いつもオーダー メイドで服を作ってもらっているテーラーの花さんにお願いしたの!」


 ちなみに、“花さん”はいつも私たち兄妹が服を買う時に御用達にしている仕立て屋さん。凄く腕の立つ職人さんだ。

 夏休みに、あの『一日中ショッピングに連れ回された挙句にファッションショーをさせられ写真を取られまくった』恐ろしいペナルティの時にも立ち寄ったのだが、その時に花さんから同情され、兄たちの“強すぎる要求”で困ったことがあれば力になるからと声をかけてもらったのだ。なので、今回はそのお言葉に甘えることに。

 なお、今回の衣装の発注代金は、お金の代わりに燕尾服を着たお兄ちゃんたちの生写真。

 花さんにとって、インスピレーションを高めるための材料をもらえる方が、お金よりも何倍も貴重なんだって。

 なので、私は写真係として、午後の文化祭を楽しみながら各エリアの案内係を行うお兄ちゃんたちの姿をバッチリ撮影するつもりだ。

 

 ――という説明をしながら、私はお兄ちゃんたちにこれからの予定も披露する。


「じゃあ、衣装は家庭科室に準備してあるから、午後一時までには着替えてね。あっ、ちなみに白手袋は私のお手製だよ!」

「わー嬉しい……じゃなくて! オレは光ちゃんと周りたいの!」

「あんのやろう……。余計なこといいやがって」

「嫌だ嫌だ! 俺は光りんと文化祭の思い出を作るんだ! 案内役なんて、光りんと一緒にいられないじゃないか!」

 薫お兄ちゃんと紫お兄ちゃん、明お兄ちゃんも口々に駄々を捏ねながら猛抗議をするが、これは全校生徒の総意。覆せない事柄だ。


「じゃあお兄ちゃんたち、頑張ってねー!」


 私はそう言うと足早に校舎へ向かい、午後は不貞腐れながら案内役に務める溺愛兄s'の写真を取りながら、中学校での初めての文化祭を思う存分、邪魔されずに楽しんだのだった。

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