三限目(3-3)体育文化祭にも、お兄ちゃんがいっぱい!?

「旨っ! 光、また腕上げたんじゃね?」

「本当に、どれも絶品ですね」

「盛り付けも完璧だね。見た目だけで食欲をそそるよ」

「このレモンの蜂蜜漬けも、疲れた体に効果てきめんだな」

「光ちゃん、はい。あ〜ん♡」

「光りん、こっちも取り分けてあげるね」

「これだけの量を作るのは、大変だっただろう。すまないな」

「お弁当の文化っていいねー。最高!」

「いつも以上に、味わって食べないといけませんね」


 大盛況だった体育祭は午前十一時半に終了し、今はお昼休憩タイム。

 広い第一グラウンドの芝生のところに大きな敷物を敷き広げ、私が用意したお弁当を兄妹全員で味わっているところだ。

 兄たちの好物ばかりをぎっしり詰めた三段重箱が三セットに、甘い物もせがまれたので疲労回復用のスイーツも何種類か用意した。

 前日にあらかたを仕込んでおいたとはいえ、今日は朝の四時起き。お弁当を食べると、満腹感からかどうしても眠気が襲ってくる。


 それに、午前中の体育祭での出来事。あの最後のリレーは、本当に凄かった。

 兄たちが真っ直ぐに私のところへ走り抜けてくる光景が目に焼き、まだ顔中の赤みが引いていない感じだ。


 ……焚き付けられたのは、私の方だったのかな。



 いけない、いけない。

 午後からはまた重要なイベントがあるんだから、しゃきっと目を覚まさなくちゃ。


 文化祭は午後一時三十分からスタートするので、体育祭の片付けと文化祭の準備を合わせると、時間の猶予はさほどない。

 それでも、演劇部や美術部など大掛かりな準備が必要な部活は前日までにセッティングを終わらせてあるので、あとは最後の仕上げをするのみとなっている。


 事前に配布された文化祭会場マップを見ると、講堂兼体育館では合唱部と演劇部が入れ替え制でそれぞれの発表を行うとのこと。

 二階のエリアでは、パソコン部とロボコン部が自作ゲームやミニチュアロボットの試作機を披露し、来場者に体験してもらうブースも設置するらしい。

 三階のエリアでは、書道部の個人作品や部員全員で書いた巨大書が飾られ、別の教室では英会話部によるスピーチコンテストや景品付きの英語クイズを実施するようだ。

 四階のエリアでは、油絵や水彩画、彫刻など美術部の作品が色とりどりに飾られ、さらに別教室では吹奏楽部のアンサンブルコンサートも開かれることになっている。


 午後の文化祭に関しては、文化部所属でない生徒は基本自由参加だ。

 といっても、今年は運動部と掛け持ちしている生徒が半数近くいるので、多くは出演者側にまわっている。保護者や地域の人たちも事前に申請しておけば参加可能なので、さらなる賑わいになるだろう。


「そう言えば、光ちゃん。家庭科部はどんな展示をするの? 顧問の小林先生に聞いても『当日のお楽しみです』って教えてくれなかったんだよね」

「そっそー。オレも楽器は昨日全て運び終わったし、午後からフリーだから家庭科部の活動を楽しみにしてるんだけど、なーんにも情報が入ってこないんだよねー。あっ、このだし巻き最高っ!」


 兄弟の中で唯一、私を『ちゃん』づけで呼ぶ薫お兄ちゃんと空お兄ちゃんが、お気に入りのだし巻き卵を頬張りながら、午後の家庭科部の活動について探りを入れてくる。

 ちなみに、春お兄ちゃんと怜お兄ちゃん、夕お兄ちゃんは砂糖の甘みが引き立つ卵焼きを好み、他の四人のお兄ちゃんたちは塩と胡椒、お醤油をほんの少し入れた、いわゆる甘くない卵焼きをリクエストしてくることが多い。


「光、何か手伝うことがあれば言ってくれ」

「そうですよ。家庭科部の部員は光しかいないのですから、遠慮せずに僕たちを頼ってくださいね」

「特に俺たち三人は運動部だけの担当だから、午後は自由に動けるしな」


 卵甘党派の三人のお兄ちゃんたちが続けざまに『空いている』アピールをしてくると、卵甘党ではない派のお兄ちゃんたちも、さらなるアピールを重ねてくる。


「オレもっ! 昨日のうちに準備を終わらせたから大丈夫だぜっ!」

「美術部も展示パネルの設置は終わりましたし、演劇部も発表を待つだけですね。文化祭終了後の撤収作業の時間までは、フリーですよ」

「書道部も同様。本当は巨大書パフォーマンスも企画案としてあったのですが、今回は見送りになったので僕も大丈夫です」

「光りんと、午後一緒に回れるね! 楽しみだなぁ〜」


 卵甘党ではない派の中で、明お兄ちゃんは確かに運動部担当なので午後に空き時間はあるかもしれないが、文化部担当の葵お兄ちゃんと紫お兄ちゃん、霧お兄ちゃんはそうも言っていられないのではないだろうか。

 しかし、溺愛兄s'は、是が非でも『保護者』として妹と一緒に文化祭を楽しみたいらしい。

 生徒の自主的な運営を主張して、とにかく『自分たちは時間が空いている』アピールを繰り返す。


 くどく。

 しつこく。

 呆れるほどに。


 そんな溺愛兄s'に対し、私は一枚の用紙を目の前に突き出しながら、こう断言した。


「お兄ちゃんたちは午後も役割があるから、忙しいと思うよ。だから、“とーっても”残念だけど、文化祭は私一人で周るね」

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